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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter3:Kiss to you , because Kiss to me.
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第116話:『深邃の陰影』と『欽慕の反逆』

「しかしお兄様、気付きましたか!」


「……何が!」


「どうして愛知の反体制派と、岐阜の連合軍の方々が手を組んでいたのか!」


「気付いたよ! 2人とも雪花寺院の残党だからでしょ!」

 

 もちろん舞人が自分の思考のみで、この結論に達したわけではありません。

 

 あくまでも鎹の少女は舞人に敵意を向ける存在でも、唯一自分の意思を伝達できる舞人には“人間の有様”を教えたがるように、語りかけてくれたからです。


 ほんの少し話しは遡りますが、一度は岐阜県で台頭した雪花寺院が《謎の落雷》に見舞われて衰退してしまったのも、今思えば全て宿葉寺院の謀略なのでしょう。


 隣県である岐阜県内に内戦を起こして《鎹の木への貢ぎ物》を得ていた宿葉寺院にとっては、岐阜県内を統一してしまおうとする雪花寺院が邪魔者でしたから。


 でも宿葉寺院にとっての誤算は、雪花寺院のその不死身性です。


 そもそもをいって弱小と考えられていた雪花寺院が、岐阜県内で古今無双の強さを発揮できたのも、《他県に派遣して、鍛錬を積ませていた人々》のおかげでした。


 でもここで冷静に考えてみると、岐阜県内での奏麗寺院との決戦で雪花寺院は、自分たちの《秘宝》と呼べるそれら全ての人たちに召集をかけたのでしょうか?


 万が一にも自分たちに何かあった際は、また新たに雪花寺院の名を背負って、《自分たちの理想郷》を追求できる優秀な駒は残していたのではないのでしょうか?


 そして遥か東北の方まで送り込んでいた手駒たちを、隣県である愛知県にたった1人も潜ませていなかったと考えるのも――いささかナンセンスでしょう。


 これらの仮定から1つの結論を導くと、“雪花寺院”に再興の芽はありました。


 そしてもとはといえば今まで岐阜県内を自然に調整し続けた宿葉寺院が、雪花寺院の時に限っては急激な調整に入ったのも、《鎹の木の反乱の兆候》からです。


 だからこそ宿葉寺院は、岐阜県内を統一しようとする雪花寺院を一刻も早く滅ぼすと同時に、彼らの魂を鎹の木への生贄に捧げ、怒りを納めようとしたのでした。


 でもそれは付け焼刃の処置になるどころか、逆に火に油を注いでしまいます。


 鎹の木が怒るのは魂が欲しいからではなく、魂を捧げられるからなのですから。


 このごたごたで宿葉寺院は、“雪花寺院の残党たち”に付け入る隙を与えました。

 

 そして彼らは未だに続く鎹の木の暴走による混乱に乗じ、宿葉寺院の中枢部に侵入して、《鎹の木の生産性を高めるために“人命”を捧げていたこと》や、《その命を調達するために、隣県の岐阜県を生贄の生産場としていたこと》を知りました。

 

 その結果としての雪花寺院の残党たちによる、宿葉寺院への報復です。

 

 怒りや憎しみがあったのはもちろんでしょうが、難航不落な《鎹の木の牙城》を壊せるのも、鎹の木が不安定な今しかないと、彼らも理解していたのでしょう。


 雪花寺院の残された者たちは、『愛知県内で諜報活動を行っていた人々』と『他県から岐阜県内に帰還した人々』で会合を持ち、《宿葉寺院から鎹の木を奪取し、彼らによって奪われた自分たちの栄えある未来を取り返す》という理想で一致します。


 初手として行ったのは、岐阜県内の統一でした。


 宿葉寺院が鎹の木に手を焼いていたおかげで、岐阜県内での支配力が薄れ始めていたからこそ、旧雪花寺院の至宝たちが中心となって組閣した《叢海そうかい寺院》が岐阜県内で一斉に蜂起して、岐阜県内の統一を完成させてしまいます。


 そしてそれと同刻に愛知県内では、宿葉寺院への反抗の炎が燃え上がりました。


 もちろんこの革命の中心者たちも、雪花寺院の生き残りの人々です。


 彼らは仲間である《岐阜県内を統一した叢海寺院》が、自然な形で愛知県に侵攻できるように、岐阜県内からの罪なき難民者たちを殺戮してしまいました。


 この期に及んでも宿葉寺院が、《鎹の木への生贄を揃える》ために岐阜県から難民者たちを受け入れていた可能性は低いでしょうし、彼らに恩を売ることによって友好関係を結び、手に余り始めた鎹の木の支配を譲渡する計画を練っていたのかもしれませんが、雪花寺院の残党たちはそのストーリーを真っ向から否定します。


 やることなすこと裏目に出た宿葉寺院は、最低でも傍観してもらうはずだった岐阜県の連合軍まで、自分たちの敵対関係へと招いてしまうことになりました。


 しかし雪花寺院の残り人たちはいきなり共闘せずに、最後の総攻撃を宿葉寺院に仕掛けていくその瞬間まで、自分たちの関係は“切り札”として伏せ続けます。


 そしてここまで《真実の欠片》が揃うと、先ほどのように愛知県の反体制派の青年が、“仲間殺し”を行っていた疑問まで、難なく紐解くことができるでしょう。


 舞人たちが出会った青年は、雪花寺院の流れを汲んでいるからこそ、後々自分たちにとって騒動の火種になりかねない、《完全に雪花寺院には共鳴していないが、あくまでも”反宿葉寺院”として手を組んだ人々》のことは、自分たちが鎹の木の利権を独占するためには障害になる存在だとして、浄化してしまったのです。


 しかしそんな彼らから授けられていた腕輪が、たったいま壊れました。


 紅蓮の腕輪の死が暗示するのは――、


《自分たちさえ幸せなら、ほかの人たちがどうなろう知ったことではない》


 といういかにも人間らしい生き方をし続けた、生物の最後でしょうか?


 そして罪なき弱き人々に至っては、《力を持つ人々の思惑に踊らされ、彼らの犠牲になってしまった》現実を考えれば――人々の安らぎはどこにあるのでしょう。


 どこにあるかもわからない、《一滴の雫よりもはかなき安らぎ》を守ることが、こんな世界に生まれ、異端な力を神授された舞人の宿命なのでしょうか?


 本当に最悪でした。いっそのこと世界が全て黒で染まってしまえばいいのに。

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