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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter3:Kiss to you , because Kiss to me.
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第111話:『叢生の乱撃』と『穎脱の禍害』

 舞人たちが今位置していたのは、街の中ではなく街と街の境目でした。

 

 こんな吹きさらしの所で戦火に巻き込まれたら、身を隠すものがありません。

 

 街中に入れば当然戦闘は熾烈さを増すでしょうが、隠れ家は存在しています。

 

 早速行動を開始しながらも舞人は風歌ちゃんに、鎹の木の現状を送りました。


「……てかまじであの木って、ただ神の愛を授けるだけじゃないんだね。あんな風にも攻撃するんだ。宿葉教会は鎹の木があるだけでも、負け知らずになるよなぁ」


 鎹の木の下に宿葉寺院が自軍の全てを移転したのも、納得できました。


 鎹の木はただの神の愛の供給措置ではなく、最強の自衛も誇るのですから。


 全ての根源ともいえる、数百メートルの太さの幹から鎹の木は、ただ神の愛を創生するだけではなく、炎と水と地と風の4属性も精製することができたのです。


 それらの4属性は、それぞれ特殊効果を習得していました。


 炎が《精神支配》で、水が《状態異常の付加》で、地が《枝の硬さを鋼鉄さえも真っ二つにするような破壊力にする》で、風が《触れた魔法を破壊する》です。

 

 世界を震撼させた豪傑さえも屈してしまうような、鉄壁さでしょう。

 

 こんな時に瑞葉くんがいればそれは心強いのは間違いありませんが、仮にも瑞葉くんは旭法神域の司教という立場なので、おちおちと宇都宮市を離れられません。

 

 でも何はともあれこれで、戦いの長期化の理由を身を持って実感できました。

 

 龍人と歌い子の量では比べるまでもなく有利な反体制派と連合軍も、鎹の木を味方に付ける宿葉教会の前では、思う通りに作戦を進められていないのでしょう。


「えぇ。あの黒い光りがみえないの、瑞葉お兄ちゃん?」


「うんっ。みえないみえない。僕にとっては、今まで通りの鎹の木だよ?」


「……本気か、瑞葉?」


「いくら僕だってこんな時まで、《構ってちゃん》アピールしないよ、舞人くん」


「瑞葉だからこそありえそうなんだよ。――でも奈季や奏大はなんていってる?」


「……2人とも僕と同じく、特に何かには気付いていないみたいだけど――」


「う~ん。わかった。じゃあ解読は風歌や惟花さんに任せて、瑞葉はバックアップをしてくれ。街中の炎が厄介だから、とりあえず炎の中を進めるように頼む」


「むむっ。了解したよ、舞人くん」


 紫電のような荒々しさで振るわれる鎹の炎の枝のせいで、戦塵の市街区全域が炎都市となってしまっていたので、今はそれを切り払っていく力が必要でした。


 基本的に瑞葉くんは舞人の白き血を媒介に、自らの魔法を届けてくれます。


《舞人くんの白き血は謎々なんだけどね、その謎々の分だけ最高に役立つよ!》


 というのが瑞葉くんの口癖でしたから。


 右隣を走って舞人と手を結ぶ惟花さんが、美麗な歌声を届けてくれる中で、舞人の白き刀に“聖なる光り”が宿ります。瑞葉くんから、消火の力が届いたのです。


 これによって白き刀を軽く振るだけでも、間合いの炎は掻き消え――、


 もし力強く振れば、自分たちの正面の道へと、穏やかさが即納されるでしょう。


「センキュー、ミズハーン」


 舞人が刀を風に奏でさせる中で、惟花さんは案内役にもなってくれました。


 これから自分たちがどこに進めば、もっとも戦闘の影響下が少ないのかということを、市内に蔓延している神の愛から逆算して、算出してくれていたのです。


 惟花さんの宏遠こうえんなまでの有能さは、助かりすぎて涙が零れるほどでした。


 でも舞人の運の悪さは、そんな惟花さんの努力を全て水に流すほどです。


「はぁ!? ちょっと舞人!! あなた本当に疫病神か何かなんじゃないの!?」


「酷い!! 仮にもお父さんに向かって疫病神なんて! 智夏ちゃんの馬鹿!!」


 鎹の木の無双で罪深き炎に犯された街中を、当の鎹の木の方面へと走る舞人たちに、故意としか思えないピンポイントさで、5本の炎の枝が振るわれました。


 枝といっても、太さ的には3メートルを軽々と超えています。


 かすっただけでも死傷級でしょう。

 

 しかもあの枝たちは規則的に並んでいずに、くもの巣のように複雑に入り組んでいたので、運悪く攻撃範囲に入ってしまった時点で、逃亡は非現実的でした。

 

 大木に押し潰されてしまうか、剣を振るうかの二択です。

 

 この選択肢になっても、目立ちたくないという、わがままはいえないでしょう。


 逡巡の段階さえもなく、舞人が力を解放しようとすると――、


「!」


 舞人たち7人を包んでいた粘着質な炎の熱さが、流動的に消え去りました。


 あまりにも唐突の気温変化に、逆に舞人が寒々しさを覚えてしまうと――、


「!」


 舞人たちの頭上で電撃の槍が、心酔してしまうほどの勢いで旋回します。

 

 一握りの破片さえも残らずに真っ赤に燃える樹木は、破壊されました。

 

 電撃の槍は炎の熱量を吸収することによって、破壊力を増強したようです。


「助けてくれてありがとう。礼をいうよ」


 舞人たちにとっては右斜め前にみえている、石造りの塔の上でしょうか?


 深緋色の法衣を身に包む黒髪青年が、そこで着物を風に揺らしていました。


 愛知県に根付き《反宿葉教会》を掲げている、反体制派の1人でしょう。


 変なところでずる賢い舞人は、仲間を装い、この場を切り抜けようとしました。


 でも――、


「待て待て。何事もなく立ち去ろうとするな。――お前たちは誰の手先なんだ?」


 さすがにこれほどの大所帯で仲間のフリをするのは、無理があったようでした。

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