第9話:『迷路』と『濁流』
左斜め奥の柱の影から姿を現した少女と舞人の瞳が重なった瞬間にすでに少女は舞人の眼前へと瞬間移動して黒き鎌を振るっていましたが、舞人は白き刀によって間一髪でそれを受け止めると、ほとんど同時に放った左足によって少女の左腹部を捉えるとうそのように吹き飛ばし、背中から柱へと衝突させていました。
そして続けざまに左背後からも何者かが迫ります。
振り返りもせずに放った白き刀によって舞人は新たな人影も排除しました。
「でもさ力技でこの黒い結界を壊しちゃうのはさやっぱり厳しいの?」
「もちろんお兄様ならそれも不可能ではないでしょうが、急がば回れでしょう?」
黒き扉へと左手を当てる舞人は迷路模様の結界へと自らの白き血を流し込みます。正規の開閉者として扉に認識させるために。そしてちょうど7秒後でしょうか? 桜雪ちゃんが黒き結界の認識を改変し、“黒き鍵”を刺激してくれたのは。
黒き結界に染められていた扉がゆっくりと開いていきます。
「どうせならロマンティックがよかったのに。扉を開けたら知らない世界ならさ」
大聖堂の連絡路の内部までも漆黒の結界でした。すでにこちら側までも彼らの支配下であるように。閉じた扉からは黒き濁流が流れてきます。退路を奪うように。
黒き霧によって満たされた通路内では青白き鎖が踊ってもいました。
舞人は桜雪ちゃんの右手を握ったまま通路を駆け抜けます。
でも青白き鎖は2人を捉えられません。舞人たちが奇跡のように生きるから。
そして桜雪ちゃんが放った白き弓。
それが青白き鎖の間を縫って黒き龍人たちを射抜きました。
”相手にとって未知の能力を使用できる”という桜雪ちゃんに相応しく。
でも舞人たちが目指していた通路の出口は本来あるべき場所に感じられません。
まるで舞人と桜雪ちゃんはいつの間にか“無限の黒霧”に囚われていたように。
背後からは黒き濁流が迫って来ていました。
舞人は瞳を閉じます。
再び背後へと白き刀を一閃しました。
不可視の状態だった黒き龍人が白き閃光によって排除されます。
「ていうかさ桜雪ちゃん! ぼくは“負なる者”の事もさっぱりなんだけど!?」
「はぁ。そこからですかお兄様はって。確かに今までのお兄様はそんな話しを聞く余裕さえもなかったようですからね。記憶を失ったあげくに意味不明な自体に巻き込まれ、こうもアグレシッブに生きているのは有史以来お兄様ぐらいでしょう」
「! そんな冷静に分析しないで多少は可愛そうなぼくのために憤ってよ!」
「彼らの事は詳しくはわたくしたちもわかっていませんし、だからといって詳細を調べている時間もなさそうなんですが――現段階でもわかっている事は彼らが一般人と呼ばれる方々を一方的に飲み込み続け、尊敬をするような勢いで勢力を拡大している点ですね。たった1週間でこの国の半分も彼らに飲まれました」