第7話:『消失した友人』と『現われた最愛者』
大聖堂の支配権が何者かから奪われてしまっている。
それはつまり風歌ちゃん側にとって“不認知の結界”が何者かから生み出されていて、大聖堂の一部を隔離されてしまっているという状況のことでしょうか?
「じゃあもしかしてそこにさ中心的な龍人や歌い子たちも取り残されているの?」
「それも舞人くんのお考えの通りですね」
「まさか奈季もそこにいたりする? こんな状況でもあいつは寝ていてさ」
「……確かに奈季くんならそれも十分にありえそうなんですが――」
「野蛮人のあいつなら結界なんて壊しちゃいそうだよね。じゃあ奈季は?」
「奈季くんは……瑞葉くんからのお願い事を今も行ってくれているようですね?」
「雪が降るんじゃない。あの金髪がお天道様に自慢できるようなことをしたらさ」
今ごろは奈季くんもくしゃみでしょう。いいように舞人から馬鹿にされて。
「……あっ。でも舞人くんなら瑞葉くんから聞いていましたよね?」
「何を?」
「昨日から瑞葉くんが旧東京都へと赴いていたということを」
「……いやっ。聞いてないなぁ。てか忘れたのかもしれない。寝すぎてね」
もちろん風歌ちゃんは“?”となってしまいますが、舞人の左隣を歩く桜雪ちゃんが補足説明するとさすがの風歌ちゃんも『えぇ~!』という感じで驚き――、
「……でも本当になんともないんですか舞人くんは?」
という風に何よりも舞人のことを心配するような瞳で気遣ってくれるので――、
「ぼくはぜんぜん問題ないよ。風歌のことだけはずっと覚えていたからさ」
なんて失笑もないほどにくだらないことをいい風歌ちゃんの頬を赤く染めさせてながらも、桜雪ちゃんが漏らしたため息で現実に帰った風歌ちゃんは舞人に魔法紙を渡してくれてから、口頭によって伝えたい事の要点は語ってくれました。
どうやら瑞葉くんは、“これからこの国全体でどのように負なる者に対処するのか?”ということを話し合うための会議に出席するために旧東京都へと赴いてくれていたようですが、本日の午前6時頃から消息が不明になり、会議を主催した『聖国教会』と『天都寺院』側からは、『瑞葉くんがいなくなってしまったのでこちらも探している』という報告を受けているですが――何が起こっているのかまったく掴めていないという背景事情もあり、一応は風歌ちゃんからも信頼できる人に瑞葉くんの捜索を願っているようでした。
「……でも何かトラブルに巻き込まれている可能性はゼロに近いだろうねぇ……」
「瑞葉くんならそのような場合も何らかの形でコンタクトは取れるでしょうから」
“それじゃあ瑞葉は自分から姿を隠さないといけないほどこそこそ何をやっているんだろ?”という疑問が当然舞人の中には浮かびましたが、舞人よりも多くその点を考えただろう風歌ちゃんにわからないものが今の舞人にわかるはずもなく――、
「……だから今はただ瑞葉くんを信じて待つしかないのですが、実は大聖堂の中には教会全体がとても大切に扱っていたようなお方が未だに残っていらして――」
再び繰り返しますが大聖堂とは合計で“6つのお城の集合体”でした。五芒星の極点にそれぞれ1つずつ大きな城があって、それらの中心点にもう1つです。
南東側にある大聖堂。そこには“礼拝堂”としての役割が授けられていました。
数百の長椅子と石柱が一望できるその空間の奥には大理石の主祭壇がみえます。
大理石の主祭壇は“天使たちが住むような世界”がモチーフとされていましたが、数千にも及ぶ美麗な装飾が1つの世界を織り成す様はまさに瑞葉くんでした。
「……もしかしてその教会が大切にしている人って惟花さんのこと?」
「……お知り合いだったんですか?」
「まぁ軽く合わせあった程度だよ。でも風歌も惟花さんの事は知ってるでしょ?」
風歌ちゃんはお顔を左右に振ります。驚いたというよりも信じられない様子で。