疑いを晴らす
愛華は、飛鳥を疑っていた。仕方がないため、家に案内することにした。これなら、疑う余地はないだろう。
飛鳥は、愛華の特技を疑う気持ちは毛頭ない。しかし、腑に落ちない部分もある。
「なぜ、桃果が遅刻しそうだとわかった」
この部分が腑に落ちない。
「サンゼロールのシュークリームの匂いがしたからです。サンゼロールは、池袋にしか店舗のない店です。開店時間は、八時ピッタリです。すなわち、池袋から警視庁まで、少なくとも三〇分近くは掛かります。すなわち、遅刻ギリギリだと思いました」
サンゼロールは、有名な店だ。乗り換えによっては、通る可能性も高いだろう。しかし、匂いがついているとなると、朝食代わりに桃果が食べた可能性もある。というか、桃果であれば余裕でやるだろう。
「それよりも、本当なのですか?」
愛華は、飛鳥をじっーと見ている。愛華の問いに飛鳥は、「何がだ」と答えた。
「本当に妹さんなのですか? 匂いが全く違います。普通の親族関係では考えられないです」
愛華は、厳しい表情で答えた。愛華は、飛鳥を疑っているのは、変わりはない。凛と会わせて疑いを解くしかないだろう。
「俺と凛は、血は繋がっていない。それは事実だ。ただ、俺は、兄妹だと思っている。好きなだけ、確認しろ」
飛鳥は、自宅を指差した。飛鳥の自宅は、二LDKの木造築二十年のアパートだ。家賃も安くて、五万五千円駅徒歩20分かかるのがネックだが、飛鳥は気にっている。
「怪しいです」
愛華は、首を振りながら答えた。「どこがだ」と飛鳥は、ちょっと怒り気味に答えた。
「まるで、未成年同士が、駆け落ちに使うようなアパートです」
愛華に馬鹿にされているのではないかと飛鳥は、疑った。恐る恐る飛鳥のアパートのドアが開いた。
「兄さん騒ぐと近所迷惑だから……。そちらの人、誰?」
凛は、愛華を見た途端、驚きの表情を浮かべた。
凛の反応は、正しいだろう。愛華は、どこから見ても警官には見えない。ただの高校生か。悪ければ中学生に見られるだろう。
「こちらは、猪口愛華さん。同僚だ」
飛鳥の言葉に愛華は、頭を下げた。凛の警戒していた目線は、些か緩やかになっただろうか。
「どうしたの? 急に……。何も用意してないよ」
飛鳥は、事前に凛に連絡していたほうが良かったと思ったが。「いいよ何もなくても」と凛に言い、中に入った。
飛鳥と愛華の分の麦茶を出して凛は、台所に入っていった。台所からは、軽快な包丁捌きの音が聞こえる。
「匂いは、間違いなくあの人でした」
「あの人」とは、凛のことなのだろう。飛鳥は、やっと疑いが解けたかと安心した。
「しかし、なぜお布団の中で抱き合っていたのでしょうか?」
愛華の言葉と同時にガコンと包丁捌きを間違えた音が聞こえた。
「ただ単に、いる時間が長かっただけで、布団の匂いと混じっただけじゃないのか」
飛鳥自身、厳しいと思えるような弁明をしてみた。愛華は「そうなのでしょうか?」と疑い深そうにしていた。
愛華が家に入ってから二〇分ほど経つと、凛が台所から。
「愛華さんも夕食、食べていきますか?」
凛は、恐る恐る確認した。飛鳥は、すかさず「食べてけ」と答えた。ここで、愛華を帰したら、凛に悪いだろうと思った。
「はい頂きます」無垢な表情で愛華は、答えた。
「お口に合うかは、わかりませんが、食べてください」
凛が料理を運んできた。愛華は、時間は、現在八時くらいだろうか。若干だが、愛華の眼差しが眠たそうになってきた。ウトウトしている。
「このまま泊まったほうがいいんじゃない。うち、駅まで遠いし、乗り換え面倒だよ」
凛の話にも一理ある。飛鳥は、八時という時間に愛華が眠くなるという事態を、想定していなかった。駅まで、送っていったとしても、無事に帰れる保障はないだろう。
「準備してくれるか?」
飛鳥の問いに凛は「わかった」と答えた。
「聞こえたか。今日は泊まってけ」
飛鳥の言葉に愛華が「ありがとうございます」と眠たそうな眼差しで答えた。昨晩は眠れなかったのか。それとも何か夜にしていたのだろうかと疑った。何か秘密でもあるのだろうか。
「もう寝るか?」飛鳥は、確認のため聞いた。
普通なら、このまま寝ることは、少ないと思うのだが愛華は、三秒以内に眠りに就きそうな勢いだ。
「はい。寝かせて頂ければ、と思います」
その言葉と同時に、凛が「準備できたよ」と答えた。飛鳥が、「じゃあ、ゆっくり寝てろ。明日の朝、起こしてやるから」と答えた。
「ありがとうございます」
とフラフラ布団のほうに行き、バタンと倒れた。
倒れ方が、意識を失ったように倒れたため、大丈夫かと思った。しかし健やかな愛華の鼾が聞こえたため、飛鳥は、安心した。
「私たちも自分のたちのことしようか」
と凛がいい、洗い物をし終わった後で風呂に入り、横になった。飛鳥は、凛が横になってからテレビを一時間ほど見て横になっただろうか。
何か、腕にと腰に絡みつく。腕には、やわらかい物が、あたる。イイにおいがする。これって、まさか……。
「兄さん」
飛鳥の耳元で、甘い声が囁かれた。それで、完全に飛鳥は、目を覚ました。しかし、枕の上のほうからすごいキツイ目線を感じる。
飛鳥は、意を決して目を開け上を見ると、じっーと愛華が飛鳥を見ていた。
「やっぱりあなたは、変態です」
愛華は、幼い瞳とは裏腹にナイフのような鋭い目線だ。そうか愛華は、夜遊びや、徹夜等は、していない。典型的な朝早く起きる朝方の人間なんだと気づいた。
「誤解だ」飛鳥は、首を振る。
「なぜ妹さんと一緒に寝ているのですか」
愛華以外でも、この状況を見れば、その疑問にぶつかるだろう。
「凛、起きろ起きろ」
飛鳥は、凛の肩を持って、激しく揺らした。
凛は、普通の起こし方では、中々起きない。しかし、これだけ揺らせば、起きるだろう。起きれば状況は、改善するだろう。
「駄目、兄さん。そんなに激しくしちゃ。いつもの通り、優しくして」
凛は、甘い声で呟いた。これは、やばい……。
「あなたは本当のど変態です」
愛華は、そのままアパートを飛び出した。最後にアパートの扉をバーンとした。
数秒後に、凛の携帯のアラームが、鳴った。飛鳥は、起きているため気づいたが、普通なら気づかないくらいの音だろう。すると、凛が目を覚ます。
「兄さん。何しているの」
凛の反応は正しい。馬乗りになり両肩を持っている兄がいるのだから……。
「聞いてくれ。誤解……」
凛は、飛鳥の言葉を遮るように顔面に握り拳が飛んできた。