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匂い

 飛鳥の勤務先は、捜査一課特殊犯捜査五係だ。昨年から、新設されたばかりの部署である。

 近年、超能力や霊能力に関してのトラブルが頻発している。超能力が疑われる特殊犯に関しての東京都内での捜査を担当する部署だ。係員は係長を含めて三名だけではある。本日から、新たに係員が一人、増えるのだが……。

「新人がじゃあ新人ちゃん連れてくるから」

 係長の仲村絵里が優しく言った。絵里は、北欧系の母親譲り銀髪である。黒いスカートにワイシャツをぴっちりと着ている。

「まじでいいな、ここ」

 捜査一課第一係の益子雁屋が喋った。飛鳥にしてみたら、毎日事件に遭遇する雁屋のほうが羨ましい。この特殊捜査五係は、暇だ。

「ここは、暇だぞ」

 暇なほうが、好きな人間は、この上なく嬉しいのかもしれないが……。飛鳥は、生憎そういう性格ではない。汗を掻いて捜査しているほうが好きだ。

「そうじゃなくて、ここの部署だよ」

 雁屋は、苛立ちながら、答えた。雁屋の苛立ちが、何なのかは、飛鳥には、皆目わからなかった。

「超能力に興味があったのか?」

 飛鳥が数秒ほど考えた結論だ。他の部署と違う、特殊捜査五係の特徴だ。

「女の子だらけで、いいじゃないか?」

 確かに絵里、忍野桃果と、新人も女性とか言ったか。アメリカの大学を飛び級して、警視庁に入った絵里を考えれば、若くなるのも当然だが……。他の部署に比べると、異様に若い。

「逆に窮屈だ。うまくいかないことも多い」

 絵里は、人を頼らず頭が優れて、優しいとは言っても二十三歳だ。その部分を考えても、判断が些か間違えている部分もある。桃果は、逆に人に頼りっぱなしだ。飛鳥の気苦労は、多い。しかも遅刻も多いいし。

「二人とも、それを補うくらいの巨乳じゃないか」雁屋は、高々に断言した。

「ギリギリだ。間に合った」

 可愛らしい声で、始業時間ギリギリに来たのは、忍野桃果だ。桃果は、悪い性格ではないのだが、どこか抜けている……。

 時計を見ると八時半と三〇秒だった。毎度のことなので飛鳥は、あまり突っ込まないようにはしている。

「今日、新人さん、来るんですよね」

 桃果が、飛鳥に尋ねる。飛鳥は、「ああ」と答えた。

 そうこうしている内に絵里が戻ってきた。絵理と一緒にいる人物は、どう見ても十五、十六歳ぐらいの黒髪の女の子だった。

「紹介するわね。今年、ハーバード大学を飛び級で卒業した猪口愛華さんよ」

 こんな若い子が、簡単に警視庁に入れるわけがない。絵里の飛び級という言葉に納得させられた。

「この部署は飛び級が多いですね」

 確かに、雁屋の指摘は、正しいかもしれない。飛鳥と桃果は違うが。絵理と愛華は、飛び級組だ。飛び級の警察官などあまりいないのも事実なのだが。

「猪口さんがうちの部署に来たのは、超能力者だからなのです」

 自慢気に絵里が答えた。飛鳥と桃果は、「えー」と驚いた。雁屋は、あまり反応しなかった。知っていたのだろうか。

「超能力ではありません。イクセダです」

「びびらせんな」と飛鳥は、答えた。イクセダとは、ある一部分が異常に発達した人類の名称で、超能力とは違い科学で解明されている部分だ。本物の超能力者であれば、飛鳥は、初めて出会う。

「ちなみに、どの部分が?」

 雁屋は、白々しく聞いた。通常で考えれば、知能の部分であることは、間違いないだろう。

「ここです」愛華は、鼻の部分を指で触った。

「鼻が異常に発達しているのよ、猪口ちゃんはね。異常に鼻が発達しているのよ。じゃ、私にやって見て」

 絵里の言葉に愛華は頷き、クンクンと絵里を嗅いだ。

「ものすごくイイ匂いがします」

 愛華は、満面の笑みで答えた。いえ、こんなの、誰にでもできることではないのかと飛鳥は、思った。今の段階では、イクセダとは思えない。

「じゃ、次は、桃果ちゃんね」絵里の言葉に愛華は、桃果を嗅いだ。

「いい匂いもしますが、遅刻ギリギリで、走られた感じがします」

 飛鳥は、逆に怪しいと思った。「走られた」だけであれば、怪しいとは思わなかったかもしれないが、「遅刻しそうで」がついたのは、理解できなかった。

 匂いだけで遅刻しそうとかは、理解できるはずがない。偽者の霊能力者が使う手段に似ている。

「じゃあ、今度は、飛鳥」

 絵里は、飛鳥を指差した。愛華は、小声で「失礼します」と匂いを嗅ぎ始めた。すると愛華の表情が見る見る厳しいものに変わっていく。

「あなたは、変態です!」

 その言葉と同時に、愛華の拳が飛鳥の顔面を捉えた。飛鳥は、意識が朦朧としながら倒れる。

「この人、お布団の中で、中学生ぐらいの女の子と抱き合っていました」

 ああー。間違いない。凛の件だろうと飛鳥は、思った。意識を失いながら、飛鳥は、愛華がイクセダであることを確信した。  

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