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プロローグ

 本日は、熱帯夜であった。築年数三年の比較的大きなマンションの一室に、水嶋西湖はいた。部屋には、コンビニで買った弁当箱が散乱していた。水道の蛇口から水がポタッポタッと滴り落ちていた。

 西湖は、水を止める気は全然ない。西湖は今、人を殺そうとしているからだ。西湖は、人を傷つけたことがない人間とは、違う。西湖は、もう二〇人以上は殺している。要は、大量殺人犯だ。

 大抵の人間は、人殺しの経験は、皆無だろう。それどころか、人を傷つけた記憶もない人間もいるかもしれない。

「喋らないのか?」

 絶望に満ちた表情で、高坂真樹は、西湖を見る。真紀は、熱帯夜の影響で、汗はびっしょり掻いていた。真紀のワイシャツは透けて、水色のブラジャーが見えていた。

「さっさと殺しなさいよ」

 真紀は睨みながら答えるも、はぁはぁと息が切れかけていた。

「いいね。そういうの」

 西湖は、ポケットからカッターナイフを取り出した。ゆっくりとカッターの柄を出す。

 真紀の髪を後ろに引っ張り首がしっかり見える状況にして、カッターナイフを首に当てた。真紀は、ブルブルと震えていた。

「震えんなよ。死にたいんだろ」

 西湖は、嘲笑うように答える。西湖にとっては、この瞬間が最も嬉しい瞬間だ。ナイフの柄が、真紀の首に食い込む。頚動脈まであと一ミリ程度だろう。

「さよなら」

 小声で、真紀の耳に呟いた。鼻を突くような匂いと、ブシャーとした音が聞こえた。

「おまえ……漏らすなよ」

 西湖は、ダラダラと涙を流している真紀の髪を引っ張った。真紀の顔面を、濡れた床に叩きつけた。

「ちょっと汚いよね。というか、性格が汚いよね、西湖君」

 後ろから、甲高い少女の声がする。地声にしては、少し甲高い声だろう。少女は、金色の髪に黒と白を基調としたワンピースを着ていた。

「お前、誰だよ」

 ここは、マンションの九階でオートロック。

 普通なら、マンションにすら入る行いは、難しい。しかも、部屋の鍵は閉めたはずだ。この条件から考えたとしても、侵入するのは、容易ではない。

「檜楓」

 少女の言った言葉が何なのか、西湖には、わからなかった。

「何のことだよ」

「私の名前だよ」楓は、ブスっとした感じで答えた。

「その檜楓さんが、どうしたんだ」

 西湖の頭の中には、二つの案が浮かんだ。楓を話を聞いてから殺すか。楓の話を聞かずに殺すかだ。

 しかし、殺してしまったら、どうやってここに入ったのかすら、わからなくなる。それは、避けたほうが得策か……。 

「助けに来たんだよ。つまんなそうだったから」

 つまんない……。楓の回答のほうがつまらないだろうにと西湖は思った。

「どうやって、ここに入った」

 その回答を聞かない限り、殺すわけにはいかない。

「立場、間違えてない」

 自信あり気な表情で、答えた。

「どういう意味だ」

「私が警察に通報すれば、西湖君、確実に捕まるよ」

 楓は、西湖をじっいーと見ている。

 こいつ、何を考えているのかよくわからない。やはり、殺したほうがいいか? 

「あー、わかった。私を殺したいって思ったでしょ」

 楓の指摘は、当たっている。真紀は、この状況の隙に、逃げ出そうとしている。

 この状況が、まずい事態な事実は、今の西湖には、わかっていた。二人を相手にしなくてはいけないのだから……。

「お前、もう用済みだわ」

 西湖は、真紀の首を刈った。勢いよく、噴水のように大量の血が吹き出た。真紀は、痙攣を起こして白目を向いた。即死だろう。

「あら、殺しちゃった。二人相手にするの嫌だったんだね」

 まるで、楓は、どうでもいい些事のように答えた。

「関心がないのか」

 真紀がいることで楓自身が有利になる部分もあるはずと西湖は、思っていた。

 しかし、楓の表情からして、ややおかしい。というよりも、楓の目的自体が、若干わからなくなっていた。

「関心がないというよりかは、逃げてたら私が殺してたから」

 楓は、サバサバと答えた。サバサバ答える態度から見て、楓は、人を殺した経験があると見て間違いないだろう。

「何が目的だ」

 目的がわかれば、だいたい何を考えているのかは、想像がつく。

「西湖君が考えているようなちっちゃいことじゃないよ。世界征服」

 真面目な表情で答える。西湖は、正真正銘の馬鹿だろうと思った。

「そういう反応だと思ったから、見てごらん、覗き穴」

 楓は、西湖のマンションのドアを指した。

「後ろを向いていろよ」

 西湖は、この方法が、やや古臭いが常套手段であることを知っていた。西湖が気をつけなくては、いけない可能性は、西湖が、後ろを向いて覗き穴を確認した瞬間に、襲われる展開だ。

 西湖は、襲われないために、後ろを向いていろと言った。

「はーい」

 可愛らしい声で、返事をした。西湖は、ドアに向かって歩いた。覗き穴を確認する前に楓を確認する。楓は、顔は確認できないが、後ろ手に手を組んでいる。約束は、守っているようだ。

 覗き穴を確認すると、屈強な男が五人はいた。いや、覗き穴で確認できるスペースは、限られている。もっと大勢いるのかもしれない……。

「お前、何者だよ」

 といっても、この状況から考えて、暴力団の可能性が一番高いか。まさか、真紀は、暴力団関係者だった? 真紀が逃げ出した時に殺そうとした状況とも辻褄が合う可能性はある。

「イルミナス」と楓は、淡々と答えた。

「それは、なんだと」西湖は、確認した。

「イルミナス。犯罪集団の結束組織っていったら、わかりやすいかな。日本だけなら、二万人ほど構成員がいて、世界的に言えば四〇万人ぐらいかな……」

 楓の話が、事実であれば、相当に大掛かりな組織であることは、理解した。

「じゃあ、最後に聞くけど。警察に捕まるのと、私たちに協力するの、どっちがいい?」

 どっちも嫌だと答えたいところだが、答えれば、間違いなく牢獄、行きだろう。

「わかった。仲間になってやる」

「あれ。急にいい子になっちゃった」

 楓は、戸惑いの表情を浮かべた。

「もしも、お前たちに同意できなければ、自首すればいいだけだ」

 日本の現在の法律では、犯人とわからない内に自首すれば、死刑だけは、免れる公算が高い。

「ほんとに悪い子だね」

 楓は、笑いながら答えた。その笑顔から見て、間違いなく楓自体も相当な悪者であることは、理解したが……。

「まぁ、よろしく頼む」

 人殺しの延長戦だと思い西湖は、適当に挨拶した。  


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