誘拐
少女は震えながらミィッシェルの名をずっと呼び続けた。しかしその声は恐怖で音にはならなかった。町で歌わされていたあの頃を思い出しやっと癒し始めた心がまた閉ざしてゆく。
「何をそんなに恐れているんだい。私ゃ育ての親だよ。まあいいやね。今あの男に手紙を出して来たから首を長くして待ってなよ。」
その言葉に少女は少し力を取り戻した。必ずミィッシェルが助けに来てくれる。そう信じた。その頃青年は激しい怒りを隠せなかった。いつも穏やかな顔は目がつりあがり青く血が引くのが見えた。管理人もそんな青年に何も聞けないでいた。「今夜娘と引き替えに宝くじの秘密を教えろ。でないと娘の命は無い。午前0時に教会の一番上に来い。無視をすればそこから突き落とすからな。」手紙を握り潰した手が震えた。青年は苦しんだ。自分のせいで少女は誘拐されたのだ。きっと小さな胸は不安に押し潰されそうであろう。そう考えると落ち着かなかった。青年は悩んだ。とりあえずお金を用意する事にした。クジを当てる事を説明できなかった。クジの秘密を話してもきっと信じてくれないだろうし絶対に知られてはいけない。ミィッシェルは走りまわった。いろんなカフェへ行きかたっぱしから宝くじを買った。そしてそれは全て当たったのであったのだった。ただいつもより高額であった。あまりに当てるため青年の事は直ぐに噂になった。それも一件では無いため町の人びとも気が付いてしまった。しかし今は気にしていられない。こうなる事がわかっていた為に今まで少額のくじしか当てなかったのだ。しかも念入りに分けて買ったのに。大金を手にした青年は夜を待ってた。