出会い
町にも大分慣れ、いつものように町をぶらつこうと部屋を出ると管理人が話かけてきた。
「またフラフラとどこへ行くんだい?いい若い者が仕事もせずに。良く家賃が払えたもんだよ。あんたは金持ちのご子息なんかい。」
若者は微笑みながらすり抜けて言った。
「全くしょうがない子だよ。」
呟きながら老婆は笑った。不思議に若者はみんなに人気があった。周りの水商売の女も用心棒の男達も子供や動物まで彼を好いていた。くるりと巻いた髪、ふっくらとした頬。まるで赤ん坊のようだった。そして皆が疑問に思った。働かない事を。
いつものように町を散歩しながらカフェに寄ってコーヒーを飲み宝クジを買った。小銭ではあるが良く当たったのである。余りに良く当たるので皆が騒ぎたてるために宝クジはいろんな店で買う事にしている。お気に入りの席に着きいつものようにコーヒーを頼むと何処となく澄んだ歌声が聞こえた。その方向に目を向けると一人の少女が街角に立って歌っている。貧しいジプシーの子だった。この世のとは思えない美しい声であったが歩き通る人々には慣れてしまっているのかまるでそこには何もないように素通りしていく。ひたすらに歌い続ける少女は声が渇れ始めている。疲れて歌うのを止めた時中年の女が駆け寄ってきた。
「何をさぼって居るんだい。全然稼いで無いじゃないか。ちゃんと稼ぐんだよ。」
言うのが早いか手を振り上げ少女を打った。青年は少女の不自然な動きに気が付いた。
「目が見えないか」
容赦なく叩く女に我慢が出来ず跳び出した。
「やめなさい。」
その声は壁となり女を押し潰した。一瞬ひるんだが女は正気を取り戻すと食ってかかった。
「何だいあんたは?」
「この子は私がやしなっているんだよ。身よりがないのをこうやって食べさせてるんだ。他人のあんたに言われる筋合いはないね。なんだったらあんたが引き取んな。これまで食べさすのに大金がかかってるんだ。」
青年は唇を横にいっぱい噛み締めた。
「ちょっと待ってろ。」青年は駆け出しどこかえ消えてしまった。
「何だい逃げだしたのか。さあ早々と稼ぐんだよ。」
少女は歌いだした。暫くすると青年は戻ってきた。
「これで満足だろう。」
大金を女に渡した。女は目を円くしその金を掴んだ。
「どうせ役にたたないんだからあんたにくれてやるよ。」
捨て台詞を吐き女は逃げるように走りさった。