5、重なる嘘
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
そして葬儀が終わり、私達は解散した。
この前まで着ていた高校の制服だが、社会人となって着ると、やはり違和感がある。
彼なんて九年も前の高校の制服に凄く嫌そうな顔をしていた。
私が、やっと説得したんだから。
友達と別れて帰り途中の車の中で、早く脱ぎたいのか制服のボタンを外しだす。
大人の色気が解放されていく。
イケメンすぎだよ。
制服姿も違和感はなかったし。
イケメンは何でも似合うんだね。
「きゃっ」
いきなり車が揺れた。
私は彼に引き寄せられた。
彼の硬い胸板に驚く。
鍛えられている胸板。
家へ着き、彼の部屋へ二人で向かう。
そしてソファに向かい合って座り、大事な話をする。
「まずは、これからの話をするから聞いてほしい」
「はい」
「これを見てくれ」
彼は立ち上がり、机の引き出しから一枚の紙を私に見せてきた。
「婚姻届? 私の?」
「そう。婚姻届は出していない」
「どうして?」
「それは後から話す。まずは俺達は結婚なんてしていないんだ」
「えっ、それじゃあ、私達は他人ですか?」
「そう。だから君は自由なんだ。この家にいる必要はない」
「でも、お母さんの会社が、、、」
「君のお母さんの会社は昔から俺の会社の手助けがあり、潰れることはない」
「それだと私の結婚した意味は?」
「意味はなかった。だから君に決めてもらいたい。このまま、この家に残るのか? それとも母親の元へ戻り自由に生きるのか」
今、決めなきゃいけないの?
私、結婚していなかった。
そして彼と、この家で一緒に過ごす理由もなくなった。
「あなたの言い方だと、この家に居たら私は自由に生きれないってことですか?」
「そうだろう? 俺みたいなおじさんと、この家に居るのは人生を無駄にしている。好きなことをして自由に生きれないだろう?」
「そんなことなかったですよ?」
「それは俺が君にお金を遣うことを条件にしたからだ。君の大切な時間を貰ったんだ。それをお金で埋めてもらった」
「それって、お金を遣うことで私が自由に過ごせたって言ってますよね?」
「そうだよ。君の時間をお金で買ったんだ」
「最低ね」
私は彼にビンタをした。
信じられない。
私がお金で満足していたなんて思っていたの?
お金持ちは嫌い。
お金でなんでも解決すると思っている。
こんな人がいる、この家に居たくはない。
「決まったか?」
「この家を出ます」
「そうか」
彼の頬は赤くなっていた。
可哀想なんて思わない。
だって、彼は私が思っていたような人じゃなかった。
私は何も持たず、すぐに家を出た。
彼の傍から一刻も早く離れたかった。
もう、彼のお金を自分のために遣いたくはなかった。
汚いお金を。
自分の家へ帰ると、お母さんが迎えてくれた。
嬉しそうにしていた。
「おかえり」
「ただいま」
「いいの? 彼を選ばなくて」
「お母さんも知ってるでしょう? 私の時間をお金で買った人だよ?」
「えっ、何それ?」
「私はお母さんの会社のために結婚したのに、彼はお母さんの会社は潰れることはないって言ったの。だから私が彼と結婚をする理由はなかったのよ」
「えっ、あったわよ」
お母さんは驚きながら私に言った。
「でも彼も理由はなかったって言っていたわよ?」
「お母さんは、知っていたわよ。あなたと彼が結婚する理由を」
「えっ、どういうこと?」
「彼のおじいさんは、お母さんの会社の常連さんなのは知ってるの?」
「うん。知ってるよ」
「そのおじいさんが亡くなる前に、あなたと彼が結婚をすることを願っていたのよ」
「それで私と彼の嘘の結婚生活が始まったの?」
「そうよ。彼は、おじいさんの願いを叶えてあげたかったのよ」
お母さんは何もかも知っていたの?
私と彼が期限付きの偽夫婦だってことを。
どうして私には教えてくれなかったの?
「どうして私には教えてくれなかったの?」
「彼が言ったのよ。“あなたは何も言わなくていい。罪は全て自分が背負う”って」
「嘘よ。だって彼は私の時間をお金で買ったのよ? お金で解決しようとしたのよ?」
「それは嘘よ。彼の優しい嘘よ」
「信じられない。そんなの信じられないよ」
「一緒に住んで、彼を知ったはずよ。彼は本当に心の綺麗な人よ」
お母さんはニコッと笑った。
お母さんの言う通り。
彼の心は本当に綺麗な人。
気付いていた。
彼に騙された。
許さない。
私に嘘ばかりつく彼なんて、、、。
「嘘をつく人は大嫌いなんだから」
私は、そう言ってお母さんに抱き付いた。
「お母さん。今まで育ててくれてありがとう。私これからは彼と幸せになります」
「うん。それじゃあ確認だけど、本当に知らない人と結婚をしてもいいの? 本当は好きな人と結婚をしたいでしょう? 本当は自分の人生は自分で決めたいでしょう?」
「知らない人じゃないよ。好きな人だよ。私が自分で決めたのよ」
「そうね。あなたの人生よ。好きに生きなさい」
「うん!」
私は、さっき通った道を歩く。
早く戻らなきゃ。
彼ったら泣いているかもしれない。
もしかしたら“なんで戻ってくるんだよ”なんて言って、私のためだと思って怒るのかな?
早く会いたい。
早く伝えたい。
大好きだよって。
あなたから、もう離れないって。
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