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政略結婚から始まる恋があってもいいじゃん!  作者: 来留美


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3/6

3、私は必要なかった

楽しくお読みいただけましたら幸いです。

 ブランドショップから家へ着き、彼は自室へと向かった。

 私へのエスコートは無し。


 車に乗る時は“頭に気を付けろ”と言ってくれて乗るまで見守ってくれたのに。

 私、本当に忘れられているのかな?


 夕食の時間になり、リビングへと向かうと彼はいなかった。

 彼は忙しいようで、部屋から出れないみたい。


 私は後で彼の部屋にコーヒーでも持って行こうと思った。

 使用人達は二十時には仕事を終えて、各々の家へ帰る。


 この広い家の夜は私と彼の二人だけになる。

 でも夜に二人きりで会話をしたことはない。

 私達は夜に会ったこともない。


 私は二十一時くらいにキッチンへ行き、コーヒーを作った。

 彼の部屋へ向かい、深呼吸をしてからドアをノックした。


 返事がない。

 どうしよう。

 何度かノックをしても反応は無し。


 彼が中で倒れていないか心配になった。

 だから少しドアを開けて、声をかけてみようと思った。


 ゆっくりとドアノブを回し少しだけドアを開け、隙間から“すみません”と言った。

 やはり反応は無い。


 中の様子を見ると、彼はいない。

 奥にテーブルが見えたからコーヒーを置いて帰ろうと思って中へ入った。


「失礼します」


 私は小さな声で言った後、ゆっくりとテーブルの方へ歩く。

 テーブルの上にコーヒーを置いて出ようとしたが、私の目に何かが見えた。


 そう、彼がベッドの横で倒れている。

 私は駆け寄った。

 急いで彼の体を揺すった。


「大丈夫ですか? えっ、息してます?」


 私は彼の口元に耳を近付けた。

 息はしていた。

 心臓に耳を当てて音を聞いたけど、ちゃんと元気に動いてた。


 良かった、生きてる。

 私は彼をベッドに寝かせたかったけど、重くて運べず、彼の頭を私の膝に乗せた。

 枕があるとないとでは、あった方が良いと思ったから。


 綺麗な顔を近くで見れる。

 何度見ても美しい。

 しかし、どうしてベッドの側で寝ているのだろう?


 ん?

 息はしてるけど寝てるの?

 全然、起きないじゃん。


「救急車を呼ばなきゃ」

「いやっ、大丈夫だ」


 私の独り言に彼が返してきた。

 私は驚いて彼を見ると、彼は申し訳なさそうな顔をして私を見ていた。


「どうして倒れていたんですか?」

「倒れる? 俺は寝てただけだ」

「えっ、ベッドがあるのに?」

「たまに床で寝たくなるんだよ」

(まぎ)らわしいですよ」

「それは君が俺の部屋に入ってきたからだろう?」

「あっ、そうですね」

「ところで、なんで俺の部屋に来たんだ? 今まで訪ねてきたことはなかっただろう?」

「忙しいって聞いたのでコーヒーでも飲んで休憩をしてほしくて」

「そうか」


 彼は、そう言って私の頬に触れた。

 いつものように優しく、壊れ物に触れるように。

 冷たい指先で。


 私は彼の手の上に手を重ねた。

 ブランドショップでの雰囲気が戻ってきた。

 甘い、甘い雰囲気。

 二人は見つめ合う。


 彼が、もう一つの手で私の後頭部を優しく撫でる。

 そして私の後頭部を優しく押さえ私達の顔が近付く。

 私は、ゆっくりと目を閉じた。

 でも、何も起こらない。


 私はゆっくりと目を開けると、彼は泣いていた。


「えっ」

「ごめん。本当にごめん」


 私は彼を抱き締めていた。


「泣かないで」

「ごめん。本当にごめん」


 彼は謝るだけ。

 誰に謝っているの?

 私?

 でも私、謝られることされてないよ?


 彼はすぐに泣き止み、私を抱き締めた。

 今までの彼からは想像できないほど、ギュッと抱き締めた。


 今までは壊れ物を扱うように優しかった彼が、まるで離したくはないというように強く抱き締めている。


「何か、あったのですか?」

「祖父が亡くなった」

「それは、悲しいですね」

「それだけじゃない」

「おじいさんだけじゃないのですか?」

「うん。大切な人を手離さなければいけないんだ」


 大切な人、、、。

 彼には大切な人がいたんだ。

 だから私と夫婦としての甘い日常はなかったんだ。


 私って、いらないじゃん。


「大切なら傍にいてもらえばいいのでは?」

「俺を選ぶはずがないんだ」

「当たり前ですよ。だって私がいるんですよ? 私のせい、、、なんですよね?」

「泣いているのか?」

「泣いて、、、ません」

「顔を見せろ」


 彼は抱き締めていた力を弱め、私から離れ座って私の頬に触れる。

 いつものように私の顔は彼の方を向く。


 彼を見ると悲しそうに私を見ていた。

 どうして、そんな顔をするの?

 私はいらないでしょう?


「何故、泣くんだ?」

「私は、、、いらないから」

「君は必要だ。何を言っているんだ」

「でも、、、大切な人が傍にいてほしいですよね?」


「うん」


 彼は頷きながら言って私の手を取り、ベッドの(はし)に座らせた。

 でも彼は私の目の前に立ったまま距離をとった。


 私との距離をとるのは何故?

 私、怖がったりしてないよ?

 やっぱり、私はいらないんだよ。


 涙が止まらない。

 私、泣くほど彼が好きだったんだ。

 離れたくないって思っていたんだ。


「俺は君をいらないなんて思ったことはない」

「でも、、、」

「俺は君を妻に選んで良かったと思っている」

「そんなの、若ければ誰でも良かったんだよ」

「いいや、俺は君を初めて見た時、思ったんだ。君を一生かけて幸せにしようって」

「そんなの嘘よ!」


 私は泣きながら少し離れた彼を見上げた。

 彼は私を見て目を見開いた後、目を逸らした。

 その行動で確信した。


「やっぱり、嘘じゃん」


 私は逃げるように、彼の部屋を出た。

 彼は“待て!”とは言っていたが、追いかけては来なかった。


 私と彼の結婚は、政略結婚。

 なかったことにはできないから、私が我慢をするしかない。


 彼への気持ちは忘れよう。

 そうすれば、彼の妻としての生活は苦痛なんかじゃないんだから。

お読みいただき、誠にありがとうございます。

楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。

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