2、彼の心が分からない
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「今日は、一緒に買い物にでも行くか?」
彼が朝食中に私に言った。
デートに誘われた。
私は嬉しかった。
彼と、もっと仲良くなりたかった。
「はいっ!」
「ふふ。子供みたいだな」
彼が笑った。
口元を隠して上品に。
そんな彼を初めて見たかもしれない。
「何を買うんだ?」
「ん~、母にイヤリングでも買いたいです」
「そうか」
そして彼とブランドショップへ向かった。
彼から用意されていた服を着ていたから、ブランドショップで私は浮くことはなかった。
ちゃんとお嬢様のように見える。
服は見た目を変えるんだ。
服装って大事なんだと知った。
「これも、いいですね。あっ、あれも」
私は迷いながらお母さんに似合う物を選んだ。
自分が持っているクレジットカードを出そうとしたら、彼が止めた。
「今日は、俺が誘ったから俺が出すよ」
「あっ、はい。ありがとうございます」
そして私は品物を受け取る。
「それで、君はどれが気に入ったんだ?」
「えっ、私ですか?」
「そうだ」
「どれも綺麗で私に似合う物はありませんよ」
「こっちへ来い!」
彼は少し乱暴に私の手を引っ張り、奥の部屋へと一緒に入った。
バタンと大きな音を立てて彼がドアを閉めたから、私の体がビクッと跳ねた。
「ごめん」
彼は、そう言って部屋を出ていった。
何故ここに私を連れて来たのか意味が分からない。
すると、ドアのノック音がして女性従業員がアクセサリーをたくさん持ってきた。
「この中から選べ」
女性従業員の後ろに立ち、私との距離を保って彼は言った。
乱暴な言い方なのに、目は憂いを帯びている。
何故そんなに不安になっているの?
「本当はここにある君に似合う全ての物を君に贈りたい。でも君は嫌がるだろう? だから君に一つだけでいいからプレゼントをしたいんだ」
私が困った顔をして彼を見ていると、彼は少し顔を赤らめ懇願するように言った。
どうしてプレゼントをくれるの?
「プレゼントですよね?」
「そうだ」
「それなら私に似合う物を選んでください」
「えっ」
「プレゼントは、あげる相手のことを想いながら選ぶものですよね?」
「分かった」
彼はブレスレットを選んだ。
本当にシンプルなデザインでピンク色の宝石が散りばめられていた。
「つけてください」
「でも、、、怖くないのか? さっき、怯えていただろう?」
彼は、さっきのドアが閉まる音に驚いた私のことを言っているのだと思う。
だから私との距離をとっているんだ。
「怖くありませんよ」
私が彼に伝えると、彼はブレスレットを手に取り、女性従業員に仕事へ戻るように指示をし、女性従業員は部屋から出ていった。
私達は二人きりになる。
二人きりの空間に慣れていない私は緊張をしてしまう。
気を紛らわすために私は彼について考えた。
彼は、どうして私に優しくしてくれるのだろう?
私は彼に何もしてあげてはいない。
だから優しさが怖く感じてしまう。
後から何か要求されるのかもしれない。
そう思ったら、彼から何も貰ってはいけない気がした。
「やはり、私は何もいりません」
「どうして?」
彼は本当に悲しそうな顔で言う。
彼の顔を見ると、悪い人には見えない。
ただ私にプレゼントを渡したいだけのように見える。
でも、、、。
「怖いんです」
「えっ、あっ、それならさっきの女性従業員を、、、」
「いいえ。そうではなくて」
彼の言葉を遮って私は言った。
「それでは何故だ?」
「あなたが優しすぎます。私、あなたの妻になってから結婚をしたことを後悔なんてしたことがありません」
「それは俺にとっては嬉しい言葉だが、君にはそれが怖いというのか?」
「はい。あなたは私に何か見返りを求めたりするのでしょう?」
「そんなことは絶対に無い! 君はまだ若い。好きなように生きてほしいんだよ」
「好きなように生きてほしいのなら、どうして私を妻にしたのですか?」
「それは、、、言えない」
彼は困った顔をしながら言った。
何か言えない理由があるみたい。
私には知られたくない理由が。
「分かった。プレゼントはこれが最後だ。だから、これだけは受け取ってくれないか?」
どうして、そこまでプレゼントをしたいの?
彼の目的が分からない。
心が分からないなら目で見るしかない。
彼の顔を見る。
いつもの無表情ではなく、不安そうに私を見ている。
私は、彼の表情に嘘はないと信じている。
それなら、、、。
「あなたが私のために選んでくれたブレスレットをください」
「うん」
彼はいつもの無表情で頷いた。
そして私の手首にブレスレットをつけてくれる。
冷たい指先が私の手首に触れる。
私の体がビクッと跳ねた。
それに気付いた彼は手を止めた。
私は何も言わず、彼の手の上に手を重ねる。
彼は驚きながら私を見た。
私は頷き重ねた手を離す。
大丈夫だよ。
彼には、ちゃんと伝わった。
彼はブレスレットをつけてくれた。
すぐに彼は私と距離をとる。
彼は私が嫌がっていると思っている。
伝えなきゃ。
嫌なんかじゃないよ。
「ありがとうございます」
私は笑って彼に言った。
彼はホッとした顔をしてから私に近付く。
「うん」
彼は無表情で頷きながら、そう言って私の頬に触れた。
私、彼が好きだ。
そう思ったら、私の頬に触れている冷たい彼の手の上に、私の手を重ねた。
彼は驚いていたが、嫌がらない。
彼と視線が交わる。
どのくらい見つめ合っていたのか分からない。
彼のスマホが鳴って、慌てて私達は離れた。
彼は電話に出た。
彼の声は低く、感情がない。
彼の顔を見ても無表情だった。
お仕事の電話かな?
「帰ろう」
彼は一言、私に告げて部屋を出ていった。
いつもの彼なら私の歩幅に合わせて歩いてくれるのに。
廊下で会えば、私の目的の部屋まで一緒に行ってくれるし、私が食べた後の片付けをすれば彼も一緒にする。
私を心配するように、彼は見守ってくれていた。
それなのに今の彼は、私が見えていない。
私の存在を忘れているようだった。
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