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政略結婚から始まる恋があってもいいじゃん!  作者: 来留美


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1、『俺との結婚の条件は好きにお金を遣うこと。ただそれだけ。誓うか?』その言葉が私と彼の始まり。

楽しくお読みいただけましたら幸いです。

 私は、お母さんの会社を守るために、大会社社長であるお金持ちの太ったおじさんのお嫁さんになる。

 年齢は私より九つ年上の二十七歳でお腹の出た太ったおじさんだと聞いている。


 私に選択肢は、ただ一つだけだった。

 お母さんが一人で私を育て、大好きなお母さんの会社のためなら私の人生を差し出してもいい。


 お母さんが苦労してきているのを見てきている私が、私の結婚で苦労しなくて済むのなら結婚を断る理由はない。


 お母さんは何度も私に訊いた。

 本当に知らない人と結婚をしてもいいの?

 本当は好きな人と結婚をしたいでしょう?

 本当は自分の人生は自分で決めたいでしょう?


 私はそんなことを何度も訊いてくるお母さんに笑って言う。

 “私が自分で決めたのよ”って。

 その一言でお母さんは黙る。

 申し訳なさそうな顔で私を見る。




 私は相手に会うこともなく結婚式当日を迎えた。

 初めて見た相手に私は驚いた。

 だって、お腹の出た太ったおじさんだと聞いていた相手は、全く違ったから。


 身長は高く、スラッとしていて手足の長いモデルさんのようだ。

 後ろ姿は完璧だった。


 彼の隣に立ち、向かい合った。

 そこで彼の顔を見た。

 美しく整った顔、肌も綺麗で切れ長の目。

 そんな彼を皆が口を揃えて言うはずイケメンだと。


 誓いの言葉の時、神父様ではなく彼が口を開く。

 結婚をすることに迷いがないなんて言ったら嘘になる。

 でも彼を見て、彼の言葉を聞いて、私は結婚をすると決意を固めた。


「俺との結婚の条件は好きにお金を遣うこと。ただそれだけ。誓うか?」

「はい、誓います」


 私は彼の目を見て、即答した。

 もう戻れない。


「うん」


 彼は無表情で頷きながら、そう言って私の頬に触れた。

 壊れ物を扱うように優しく。

 そんな彼の指先は冷たかった。

 まだ少し肌寒い春だからなのかもしれない。


 誓いのキスはなかった。

 指輪の交換をして、結婚式は終了した。

 そして私は、ウエディングドレスを着たまま高級そうな車に乗って彼の家へ到着した。


 彼の家は部屋数も多く大きかった。

 彼が私の部屋まで案内をしてくれた。

 部屋は広くて、身の回りの世話をしてくれる使用人さんがいるし、この部屋で一日を過ごせるほど全てが揃っていた。


 彼が私の部屋のソファに座る。

 そして私に一枚の写真を見せる。

 それは、お腹の出た太ったおじさんだった。


「これが君の旦那だから」

「えっ」

「俺、人前に出るのが苦手で、このおじさんに代わりをしてもらっているんだ」

「えっ」

「だから、これから君は世間では、このおじさんの妻ってことだから、よろしく」

「えっ、えっと、その、私はあなた様と結婚をしたということで間違いはありませんよね?」

「うん。(きみ)は俺の妻だ」


 彼は綺麗な顔で笑った。

 無表情しか見ていない私は、彼の笑顔の美しさに、顔が赤くなるのが分かり、うつむいた。


「それじゃあ、これを渡しておく」


 彼はクレジットカードを私にくれた。


「好きに遣ってくれ。(きみ)のすることは、それだけでいいから」


 彼は私に、お金を遣うだけでいいと言う。

 家事もしなくていいし、彼の話し相手になる必要もない。


 ただ私は彼の妻としてお金を遣うだけ。

 彼は何をしたいのだろう?

 彼の意図は分からないが、私はお金を遣うために必要な物リストを作った。


『母用の洋服、母用のメイク道具、母用の靴、母の好きなお菓子やケーキ』


 お母さんの喜ぶ顔が見たい。

 私は、それしか頭になかった。


 そして私の結婚生活が始まった。

 私が想像しているような新婚のような甘い日常はなかった。


「今日は何処に行くんだ?」


 朝、なんとなく彼を見送ろうと玄関に立っていたら、私に彼が訊く。


「今日は、母の洋服を買いに行こうと思います」

「そうか。(きみ)用の車を用意しているから使えよ」

「はい。ありがとうございます」


「うん」


 彼は無表情で頷きながら、そう言って私の頬に触れた。

 イケメンに見られると私の顔は熱くなった。

 しかし優しく私の頬に触れる彼の指先は、やはり冷たかった。


 私の火照った頬と冷たい彼の指先は正反対なのに、嫌だとは思わなかった。

 気持ちいいとさえ思った。




「お帰りなさい」


 私は、仕事から帰ってきた彼に言った。


「うん」


 彼は頷きながら、そう言って私の頬に触れた。

 彼の、この行動は自然と私の顔を彼に向けさせる。

 彼が私を大切にしているように触れる、その手は本当に優しい。


 彼の私の頬に触れる行動は、毎日だった。

 それが日課のようになった。

 彼の整った顔を見ると嬉しくなり、いつの間にか私は笑うようになった。



「今日は、何をするんだ?」


 彼が仕事へ行く前に私に訊く。

 いつもの会話。


「今日は、母が腰が痛いと言っていたので、腰に負担がかからない椅子でも買おうかと思っております」

「君は、いつも自分のためにお金を遣わないようだけど、どうしてなんだ?」

「遣っていますよ。母のためにお金を遣うことが私のためなんです」

「どういう意味なんだ?」

「母が笑顔になってくれるだけで私は嬉しいんです。苦労した母を私は知っていますから。私の心は母が幸せだと私も幸せなんです」

「そうか」


 彼は笑った。

 いつもの顔じゃない。

 なんだか目が違うのかもしれない。

 優しく、柔らかく、彼の目から視線を外せなかった。

お読みいただき、誠にありがとうございます。

楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。

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