先祖が乗る宇宙船③
ヒネの住むこの星は、その名を「パムゥ」という。パムゥの住人は、かつてシュバウルという星から逃れてきた者たちの末裔である。伝えられている話では、シュバウルは、文明の進化を極めた星であったらしい。その星の英知と魂の教えを受け継いだこの惑星パムゥもまた、歴史はさほど長くはないが、しかし繁栄を極めつつある星といえるだろう。
そして、あらゆる分野における科学技術が発展しつつある一方で、この星の人々は、自然や精霊たちとの交流も当たり前の日常として営んでいる。しかし、かつてのシュバウル人たちのように、精霊や、過去や未来の魂と通じられる者は多くない。これはシュバウル人がこの星に移住する際に、そのままの肉体では定住することが困難だったため、数百年をかけて彼ら自身の、正確には彼らの子孫の遺伝子を操作したことによる影響だった。
しかし現在においても、精霊や魂の言葉を聞くことのできる者が一定数おり、その者たちは「神呼」と呼ばれている。突然、そういった能力が現れる者も一定数いるが、たいていは両親のどちらか、あるいは先祖からの遺伝である場合が多い。神呼は往々にして、人々から歓迎され、自分たちの共同体家族の中にいる場合は「声を聴く者」として重用される。また、その能力が突出する者は、大陸全体の平安を守る目的のもと、“スベラギ”と呼ばれる政府のような機能を果たす組織で「カムイクジナ」という神事を司る部署に集められ、「大陸の神呼」と俗称される。
神呼は精霊や魂の声を聴き、「声」つまり音にすることができる。しかし神呼自身でさえ、それらが何を意味しているのか、つまり精霊や魂のいわんとすること、またその正邪まで見極めるのは難しい。
カダの役職「審神者」とは、その「見極め」を行える者のことである。審神者もまた、神呼と同じく精霊の声を聴いている。正確には聴いているのではなく、感じているのだ。しかし審神者は、動物の声のように音として発せられることのない精霊の声などは、音にしなければ判じることができない。逆に言えば、神呼が音として表現してくれた「声」ならば、何を意味するのか読み解き、解釈できるのである。
審神者の仕事は非常に繊細で難しく、高い見識と鋭敏な感性が必要とされるため、限られた者にしかその資格を許されない。そのため、神呼と呼ばれる者は数多くいるが、審神者となれる者は少数しかいないのだ。そのような中でもカダは特に高い能力を有しており、審神者としてこの大陸の中で彼の右に出る者はいなかった。
そして今回、ヒネはあることがきっかけでカムイクジナの目に留まり、その延長線上でカダと面会することになったのだ。
「そなたは、なんでも、唄を聞くのだとか?」
カダは、先ほどまでの柔和な表情を引き締め、わずかに鋭い光を目に帯びてヒネに尋ねる。ヒネはカダの目をじっと見つめて答えた。
「はい、おっしゃる通りでございます。」
「私にも聞かせていただけぬか?」
カダは優しい声で、そう請うた。ヒネは目を閉じ、一言一句も間違わぬように、ゆっくりと唄を口にする。
タマヨハベレ ワレニハベレ
ウタゲノオワリ ヤッテキタ
ホノオヲアゲヨ
ナミダニシズメ
アラタナウタゲ ヤッテキタ
ウタエクルシメ
ウレシヤウレシ
アラタナウタゲノハジマリダ
ウタカタノユメ
トワニ トワニ
「以上でございます」
再び瞼を開き、ヒネはカダを見つめる。
「それが聞こえるというのは毎度のことなのか?」
「はい。毎朝、眠りから覚める時分に聴こえてまいります」
カダは、顎に手をやり何かを考えながら改めて問うた。
「けだし、それが聞こえる際、節が付いてはおらぬか?」
ヒネは目を見開く。なぜわかるのだろう。
「そのとおりでございます。必要とあらば、節を付けて唄い直します」
「いや、必要ない。聞かずともわかる」
遠く、海の彼方へと沈みかけた陽が、一層赤く燃えあがり室内を照らす。間もなく訪れる夜闇にむけて、最後の抵抗を試みているかのようだ。
陽の光を躱すようにわずかに伏せたカダの瞳は、影が差したようにも、どこか哀しげにも見えた。
赤く照らされた部屋の中に、束の間の重い沈黙が流れる。
――この唄は、あの星と何か関係があるのでしょうか――
ヒネは、先ほどカダが眺めていた大きく明るい星を横目で捉えながら、カダに問うていいものかと思案したが、その問いを口にするのは止めた。この部屋の空気が、カダの瞳の哀色が、それを許さない気がしたからだ。
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イラストはAI生成画像ですが、YouTubeでは未掲載のイラストも多数載せているので、興味があればのぞいてみてください。
https://youtu.be/TMdeCd9x0ZY




