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みなそこの夢  作者: 幹まなと
【第一章】大陸一の審神者 華陀
3/12

先祖が乗る宇宙船②

「あれは宇宙船よ。私たちの祖先が乗っているのです」

 ヒネの脳裏に、子どものころの記憶がよみがえる。教えてくれたのは勉学の師範で、主に化学を得意としていた女性だった。

 空を見上げることが幼いころから好きだったヒネは、ときどき見える飛行艇とも星とも違う「それ」を疑問に思っていた。昼間に見えることはほとんどない「それ」は、夜になれば、無数に瞬く星々の合間を縫うようにして現れる。そして「それ」の多くが、急降下しては海の中へと消えていくのも不思議だった。

「では、海の中に彼らの住む場所があるのですか?」

 ヒネは尋ねた。女性師範は、楽しそうに笑いながら「そうではない」と答えた。

「海の中に家があるわけではございません。移動しているのです。宇宙船はね。宇宙を移動するときには、飛行艇のように、あちらからこちらへ動くようなことはしないのですよ。そうですね……一番近い表現を探すなら、あちらとこちらの位置を換える。つまり、瞬間的に現在地を換えることで移動するのです」

 幼いヒネにはよくわからなかった。いや、今でもしっかりとは理解できていないのだが……。

 通常、物体が移動するときは、ある時点からある時点まで“動く”。つまり始点と終点、そしてその中間があり、その中間を動くことが「移動」である。だが宇宙はあまりに広大で、移動のたびに物理的に中間を動くなら途方もない時間を要する。だから、ある地点の座標をある地点の座標に“換える”ことで、瞬時に移動するのだという。

「この瞬間的な移動に必要なのが『摩擦力』です。摩擦力が大きければ大きいほど、より容易に移動できる。だから空や宇宙のような空間を使って移動しようとするなら、もちろんできなくはございませんが、宇宙船は、とてつもない早さで物理的に移動して摩擦を作る必要が生じます。しかし、もともと抵抗の強い海の中や岩などであれば、簡単に摩擦が作れるではございませんか」

 楽しそうに女性師範は続けた。いや、海はともかく岩は違うのではないだろうか? 幼いヒネでも、岩にぶつかればどうなるかくらい、容易に見当がついた。ヒネが疑問をぶつけると、「待っておりました」とばかりに、女性師範は難しい理論を展開しはじめた。まずは分子構造を変化させる必要があって云々と始まり……さすがにヒネには難しすぎて、その後の理論展開にはついていけず、当然のことながら教えてもらった知識は何一つ記憶に残っていない。女性師範は、ひとたび自分の得意分野に話が及ぶと、相手の理解度などまるで意に介さず延々と喋り続ける人だった。

 だがヒネは、そんな彼女が大好きだった――。


挿絵(By みてみん)


「いかがなされた?」

 カダの問いかけにヒネは我に返る。懐かしい記憶に束の間浸ってしまったヒネは、知らぬうちに口元が緩んでいたようだと気がつく。ヒネは、慌てて表情を隠し、恥じらいをごまかすように言った。

「最近は、空が騒がしいようでございますね」

 考えもなくとっさに出たヒネの言葉にカダは瞠目する。

「そなたにもあれが聴こえるのか!?」

 前のめりになって尋ねてきたカダに、ヒネは小首をかしげる。

「聞こえる?……見えるのではなくて、ですか……?」

 すると、カダは少しだけ落胆の色を滲ませた。

「ああ、そちらのことであったか……なるほど、そなたにはアレが見えるのだな?」

「空を眺めるのが好きなだけでございます。特別なことではございませんでしょう」

 伏し目がちに答えたあとで、しかし不遜な態度ではなかったかとすぐに思い直し、ヒネは目を上げる。

「彼らと意思疎通を図ることもあるのか?」

 しかしカダは、気にした様子もなくヒネをじっと見て問う。

「いいえ、彼らは用がなければこちらとは交信いたしません。わたくしも特に用はないので、試みようとも思いません」

「なるほど、さようであるか」

 そう言うと、カダは少しだけ楽しそうな笑みを浮かべた。ヒネは訝しく思う。なぜ楽しそうなのだ?

「あの……何か変なことを申しましたでしょうか?」

 ヒネが尋ねると、苦笑するようにカダは答える。

「いや、私はただ『そなたにはアレが見えるのだな?』と聞いただけだ。それなのにそなたは、何の迷いもなくそれを『彼ら』に関することだと理解した。その証拠に『彼らと意思疎通を図ることもあるのか?』という問いに、やはり戸惑うこともなく当たり前のように答えてくれた。しかも『用がない』などと……」

 カダは、顔に浮かべた笑みを一層深める。

 ヒネが日常的に見ている「彼ら」の光は、実は誰もが見えているわけではなく、また見えていたとしてもその正体を知っている者は少ないのだとカダは説明した。だが、その説明を聞いてもなお、カダがなぜ楽しそうなのかヒネにはやはりわからない。

 しかし、気難しい人だという第一印象だっただけに、カダの笑顔はヒネの心をいくらか弾ませてくれた。


YouTubeで、作者みずから読み上げた動画を投稿しております。

イラストはAI生成画像ですが、YouTubeでは未掲載のイラストも多数載せているので、興味があればのぞいてみてください。

https://youtu.be/TMdeCd9x0ZY

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