別の星の夢をみるのです②
暖かな朝の陽光で満たされた執務室に着くなり、カダは自身の椅子にどかりと腰を下ろす。机を挟んだ向かいの椅子にガルシャも同じくどさりと座り、若干小さくなりながら、ヒネとヨヲセはガルシャの後ろに立った。なんだかカダが不機嫌そうに見える。
「して、私はその者の入属を許可した覚えはないのだが」
冷たい目でチラリとヒネを一瞥してから、カダが鋭い眼光でガルシャに問う。
「ああそうだ、だから私がもらった」
カダは目を据えたまま、眉をピクリとも動かさない。
鉄壁の男――先ほど、カダを表現したガルシャの言葉を思い出す。
「何のために」
カダは続けて問う。
「気に入ったからさ」
こともなげにガルシャは答えた。カダは表情を変えず、長い指を顎にあてて何かを考えている。
「ならばヒネといったか? そなた、自分が大陸の神呼たるにふさわしい理由を述べてみよ」
ヒネは、突然振られたカダの言葉に動揺する。
「はあ? あたしが気に入ったから弟子にしたのさ。この子が残りたいと言ったわけじゃない。それなのに、神呼たるにふさわしい理由を、だなんて……よしとくれよ。本当に意地が悪いんだから、あんたは」
ガルシャが呆れたように言う。ヒネをかばってくれているのだろうか。
ヒネは考える。たしかに自分は、大陸の神呼になりたいなどと思ったことはない。だが今や故郷に帰りたくない、帰れない、これは事実である。ならば、やはりここにいたいと思っているわけで、大陸の神呼たるにふさわしい理由をきちんとカダに述べなければならないのだ……ヒネは覚悟を決めた。
「わたくしは……」
ヒネは必死でほかの理由も考えてみたが、やはり思いつくものは一つしかなかった。それは神呼としては初歩中の初歩で、カダを納得させるに足る理由ではないかもしれない。しかし今は、試してみるよりほかない。
「夢をみます」
「夢?」
カダは厳しい目のまま、じっとヒネを見る。ヒネは一つ深呼吸をしてから答える。
「はい、ただの夢ではございません。魂の泉の記憶でありましょう、非常に現実味のある明瞭な夢でございます。わたくしはこれを自分で『肉の夢』と呼んでおります」
「に、肉?」
思わず、といった様子でヨヲセがもらす。直後、はっとして「すみません」と短く謝罪し、下を向いた。
だがカダはじっとヒネを見つめたままだ。そしてわずかに興味の色がカダの目に浮かぶ。
「面白い、では直近にみた、その『肉の夢』とやらを一つ聞かせていただきたい」
ヒネは目を上げる。少し逡巡したのちに、ようやく口を開いた。
「わたくしは、たまに別の星のものと思われる夢をみます。なぜ別の星だと思うのかと申しますと、その星の空は青いのでございます」
その場にいる全員の目が見開いた。
「ほう、空が青いとな?」
カダが興味深そうに続ける。
「はい、空だけではございません。海もまた青いのでございます」
ヒネたちが今いる星、惑星パムゥの空はいつも赤みがかった色をしている。よく晴れた日中には薄桃色に見えることもあるが、たいていは薄い赤褐色である。また海は翠緑色であり、ヒネは翠緑の海も嫌いではなかったが、たまにみる別の星の空と海の、どこまでも冴えわたるような青色は筆舌しがたい美しさがあると思っている。
「だが海は青いぞ?」
突然口を挟んだのはヨヲセだった。ヒネは驚いてヨヲセの方を振り返る。
「あ、申し訳ありません。勝手に口を挟んでしまいました……」
バツが悪そうにしたヨヲセに、カダは目で続きを促す。
「パムゥの大陸の向こう、別の大陸まで職務で何度か行ったことがあります。そのとき、飛行艇から見えた海は……青かったぞ?」
ヨヲセはカダからヒネに目を移して説明した。ふとカダが笑う。
「海は基本的に青いのだ。だが、パムゥを囲む海は遠浅なうえ、海中に繁茂する植物の影響であのような色なのだ。しかしそなたが言う“別の星”では、陸から臨む海もまた、青いという意味であろう?」
ヒネに向けられたカダの視線が若干緩んだように感じた。ヒネは、とっさに答える。
「さようでございます。海が青いとは存じませんでした。わたくしがいつも夢でみる星も、あるいは場所によっては翠の色をしているのやもしれませんが……」
「海の話はもうよい。その“肉の夢”とやらを申してみよ」
カダは組んだ指の上に顎を乗せて、改めてヒネに請うた。
「承知いたしました。では、別の星のものと思われる夢の一つを、お話しいたします」
そう言って、ヒネは最近みた夢の話をはじめた。




