先祖が乗る宇宙船①
すっかり陽が傾いた夕さりのころ、応接の間は柔らかな陽光に包まれていた。
カダと初めて対面したヒネは、懐かしいような愛しいような想いに包まれた。
――これは誰の記憶だったろう――
ヒネは、前触れもなく湧き上がった慕わしい想いを冷静に受け止めながら、かつてこの人によく似ていたであろう「誰か」を愛した者の魂をしのんだ。
大陸一の審神者とうたわれるカダは美しい男性だった。聞き及ぶ評判から、厳めしい老翁をヒネは想像していたが、実際に目の当たりにした人物は想像よりもはるかに若く、ヒネとそう歳の変わらない青年のように見える。
すらりとした長身と、なめらかな艶を帯びた黒く長い髪が最初に目に入る。上衣は紐まで美しく結ばれ、そのせいもあって着崩した様子をまったく感じさせない。下に着ているのは、袴ではなく足首までしっかり隠れる裙である。これは極端に背が低いか、あるいは高い者にはよくあることで、既成の衣類では体に合うものが少ないためである。
くっきりとした二重の大きな瞳は温かな深い茶色で、凜々しく整った眉に、すっと伸びた鼻筋といった容貌だ。わずかに引き上げられた形のよい唇が柔和な表情をたたえている。伸びた背筋で凛とたたずむカダの姿は、審神者の肩書が無くともただ者ではない印象を与える。だがヒネがもっとも惹かれたのは、また別の魅力だ。
「そなたがヒネか?」
カダの問いかけに、ヒネはわずかに目を伏せ、「はい」と短く返した。口元に笑みを浮かべたカダは、それ以上は何も言わなかった。
ヒネはこの日、神呼としての資質があるか否かをカダに見定めてもらうのだと聞かされていた。いわば試験のようなものだと解釈していたのだが、ヒネが神呼たるにふさわしいか否かを確かめようとする様子がカダにはない。
赤みを帯びた柔らかな日ざしが、床に長く伸びる。日ごろより沈黙を得意としていたヒネだが、さすがに落ち着かなくなり、わずかに目を上げる。カダは窓の方に目をやり、日が沈む方角に浮かぶ大きく明るい星を眺めていた。あれが件の星、自分がここに呼ばれることになった「理由」であろうとヒネは推測した。
空には無数の飛行艇が、まるで夕暮れどきに寝床へ帰る鳥たちのように行き交っている。その向こうで、飛行艇の群れとはまったく異なる早さで斜降する一筋の光をヒネは捉えた。それは、赤と紫が交じりあう空を断ち切る、まるで雷光のようにも見える光だった。
「あれは宇宙船よ。私たちの祖先が乗っているのです」
ヒネの脳裏に、子どものころの記憶がよみがえる。教えてくれたのは勉学の師範で、主に化学を得意としていた女性だった。
YouTubeで、作者みずから読み上げた動画を投稿しております。
イラストはAI生成画像ですが、YouTubeでは未掲載のイラストも多数載せているので、興味があればのぞいてみてください。
https://youtu.be/TMdeCd9x0ZY




