地獄の入り口に立つ赤い実の木②
階段の数はそう多くない。だが下りていくごとに自分の体が重くなる感覚をオルセは覚え、気のせいか呼吸も苦しいように感じる。
下りた先にあったのは長く続く薄明るい廊下だった。無機質でツルツルとしたなめらかな床に、片側はやはり無機質で飾り気のない壁と、同じ素材でできたいくつかの扉がある。もう片側も最初は壁だと思っていたが、視線を注意深く向けると、壁一面が外をのぞめる窓になっているようだとわかる。オルセは体を窓の方に向け、ゆっくりと近づきながら窓の外に目をやる。窓に近づくごとに、その光景は明らかになっていき、オルセはやがて目を見張った。
正面には真っ黒で巨大な穴があり、穴の外には無限に広がる夜空があった。
その光景のあまりの迫力にオルセは目眩を覚える。なんだか頭も痛い。
いつもなら頭上にあがるはずの星々が、今はオルセの眼前に広がっている。遥か空の上ではなく目の前……オルセの目線と同じ高さのところに、いや、窓から臨む四方八方に、正面にある巨大な黒い穴を除いて視界一杯に夜空があった。
これはどういうことだろう、それに、今しがた地上から地下へと下りてきたはずだ。それなのになぜ夜空が地の底にあるのだろうか?
オルセが混乱しかかった、ちょうどそのときだった。
眩い光が、正面にある巨大な穴の淵から突然現れた。オルセは、思わず目を閉じ、しかし片目を少しずつ開けて窓の外に再び目をやった。
先ほど現れた強い光が、薄い弓なりの弧を描いている。光の弧はしだいに厚みを増し、その光に照らしだされるように、弧の内側では、青緑色の地に白い綿のような模様が浮かび上がっている。どうやら先ほどから穴だと思っていたものは、巨大な球体であったとわかる。
そしてその球体は驚くほど美しかった。
オルセは言葉を失い、夜空に浮かぶ巨大な青緑色の宝石を見入っていた。球体は、青みがかった緑色の部分が大部分を占めており、そこに赤や茶色の塊があって、ときどき青黒い模様も混じっている。そして、それらすべてを覆うような、絶えず形を変えながら漂う、白とも薄紅色ともとれる綿のような模様が、なんとも美しく見ていて飽きない。
これが、大人たちのいう地獄という場所なのだろうか……
オルセは、壁の外に広がる恐怖の物語を思い出していた。これが地獄なら、地獄とはなんて美しいところなのだろう。
「こんなところで何をしているの?」
突然かけられた声にオルセはびくりと肩を震わせる。振り返ると、そこには見たこともない美しい男性が立っていた。




