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みなそこの夢  作者: 幹まなと
 【序章】
1/9

プロローグ

 カエロウ山が泣いている。

 持てる限りの神力じんりきを込めた音叉の音色が、辺り一帯にこだまする。18歳のセオの神力では祖父に遠く及ばないが、それでも少しは、カエロウ山を鎮める力になってくれただろうか。セオは、持ち手の柄から二股に分かれた細長い金属棒の一方を、石英柱のはめ込まれたばちで再び鳴らす。清涼な音色が風を呼び、山々に引かれ、弾かれカエロウ山の頂まで昇っていく。この音叉は、大好きだった祖父からもらい受けたものだ。


挿絵(By みてみん)


 祖父はその昔、海の向こうにあった大陸からこの地へやって来たらしい。今や大陸は、水底に眠る追憶の中のものと化し、祖父の故郷にいたっては、一夜にして海の底に沈んでしまったのだという。

 そして、いつの日か再び故郷ふるさとへ帰ることを誓って名付けられた山がカエロウサン(帰らう山)である。

 祖父から聞かされるみどりの海と、精気あふれる大陸の話が何より好きだったセオは、しかし海を見たことがまだ一度もない。

 強い胆力の持ち主であった祖父は、どんな困難にもめげない人であった。山を越えてやってきた争いを好む者たちから一族を守り、作物が実りやすい土地まで皆を率いてくれたのは、ほかでもない祖父である。一方で祖父は、精霊の声を聴ける神力の持ち主でもあった。祖父には8人の妻があり、子どもは13人、孫にいたっては42人もいたが、神力じんりきを受け継いだ孫はセオと、ほかに2人だけである。しかし、セオ以外の2人は巫術に興味がなかったようで、結果的にセオが音叉をもらい受けることができた。一族の英雄であった祖父が永眠したのは5年も前のことである。


 あるときセオは、興味本位で祖父に聞いたことがあった。

「爺様が、夫人の中で一番愛した人は誰? 誰にも言わないからこっそり教えてよ」

 すると祖父は、微笑を浮かべ、哀しげな瞳で答えてくれた。

「残念ながら夫人たちの中にはいないんだ。一番愛した人は、大陸に、置いてきた……」

 祖父からは聞き飽きるくらい、水底で眠る大陸の、在りし日の話を聞いた。


 しかし、祖父がもっとも愛した女性の名前は、ついぞ聞くことが叶わなかった。


YouTubeで、作者みずから読み上げた動画を投稿しております。イラストはAI生成画像ですが、YouTubeでは未掲載のイラストも多数載せているので、興味があればのぞいてみてください。

https://youtu.be/ASOUxrnCFak

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