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第7話 揺らぎ

第7話 揺らぎ


最近は穏やかな日常が続いている。

変わらない朝に、陽射しの暖かさが静かに染み渡る。


「……おはよう。……ちょっと難しい顔してるよ」


テンムはいつも通り薬を飲み、いつも通り動いている。

違和感はないはずなのに――声が、少し遠くから響いてくるように感じた。


心配になり、テンムのおでこや頬に触れる。

温度はあるのに、どこか鈍い。

自分の感覚がおかしいのか、テンムが変わっているのか、判断がつかない。


「ねぇリアン。最近ね、気づくと視線が自然と空に向いてるの。

前は両方だったのに……最近は、上の方が近い気がするの」


淡々と、まるで当たり前のことを話すような口調だった。


「下にいると落ち着くの。

でも、いつか……どちらにするのか、決めないといけない気がするの……」


前は「自分が二人いる」と言っていたのに、今日はその話をしない。

それが、なぜか一番不安だった。



いつものように調査依頼で森へ向かう。


「上が近い、か……どこに行こうと側にいたいんだけどな」


空を見上げる。

自分も空を見ることが増えている気がした。


《空歩》でどれだけ上に行けるのか――そんなことを考えている自分に気づく。


森に入ると、静かな圧が近くでこちらを見ていた。

だが今日は、すぐに去っていく。

その去り方は「来い」と言っているようだった。


高さのある地形に差し掛かり、《空歩》を使おうとする。

だが――足場が生まれない。


「……なんで?」


他の魔法は使える。

なのに《空歩》だけが拒まれている。


“今は違う”という感覚が胸に残った。

意図的に制限されている、としか思えない。


焦りが強くなった瞬間、静かな圧の気配が一瞬だけ入り込んだ。

だが、意味は読み取れなかった。


(条件は、力ではない

 まだ、揃っていない)


声ではない。

けれど確かに“伝わった”。


必要な調査は終わった。

森の圧も気になる。

自分の異常は帰ってから確かめればいい。


早いが、今日は戻ることにした。



ギルドに報告すると、森奥の立ち入り制限が正式に発表されていた。


理由は――


「魔力観測不能域」

「調査不能」


誰も踏み込めない区域として認定されたらしい。



家に戻ると、庭で空を見上げているテンムがいた。

陽光の反射で、身体全体が淡く揺れて見える。


「怖くないよ」


儚げな雰囲気で、意味深な言葉を落とす。

自分に向けたものではないと、すぐに分かった。


夜、布団に入っても眠れず、窓の外を見る。

月は雲に隠れ、姿を見せない。


テンムは何かを感じている。

《空歩》の異常と重なり、

――追わなきゃいけないのかもしれない。


そんな思いが、静かに胸を揺らしていた。


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