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第3話 観測できない異変

朝、目が開くと同時にテンムの呼吸を確かめる。

これが一日の始まりになって久しい。

家事を済ませ、起き上がったテンムに薬を飲ませる。


昨日より呼吸は安定していて、熱もない。

ただ、窓の外を眺めるその目は、どこか遠くを見ているようだった。


「森を見ていると……楽な気がするの」


弱い声。

その言葉に、背中の皮膚がざわつく。

言葉にできない違和感が胸の奥で震えた。


「安定したなら良かった。……仕事の時間だ、行ってくるね」


テンムはゆっくり手を振って見送る。

その仕草が、今日はまた別の“儀式”のように見えた。


外に出て、一人で森へ向かう。



「森の異常……か」


魔物が活性化しているなら、薬の素材も手に入るかもしれない。

依頼書には細かい指定が並んでいた。

昨日の報告を受けて、ギルドも慎重になっているのだろう。


フォレストウルフ、ゴブリン。

見つけては観察を繰り返す。

どれも異常なし。


魔力測定機の針も、ほとんど振れない。

表示は平常を示している。


……それでも、気配は消えない。


森の奥から、はっきりとした“見られている感覚”。

敵意はない。

むしろ、こちらを観察しているような静かな視線。


胸の奥が、誰かに掴まれたようにざわつく。


「気のせいではないな……」

魔物の調査をしてきた経験が、これは偶然ではないと告げていた。


刺激してはいけない。

直感がそう告げた。


家路につきながら、森の異変と視線の正体を考える。

だが、推測の域を出ない。



家に戻ると、テンムは少し落ち着いた顔で迎えてくれた。

その顔を見るだけで、胸が緩む。


薬を飲ませると、いつものように舌を出して苦さを訴える。

その仕草が、こんなにも安心をくれるとは。


「今日は少し歩けたから、気分が違ったのかも。

家に居っぱなしも、よくないよね」


朝のあの感覚は、今はもうないらしい。

だが――偶然とは思えない。


テンムと森の関係は、どこかで繋がっている。

そんな気がしてならない。



夜。

窓の外を見ていると、森の方角だけが妙に意識を引く。

あの視線を思い出す。


「病気じゃないとしたら……何なんだ?」


違和感が増え過ぎているだけなのか。

それとも、どれも繋がってほしいと、願っているだけなのか。

答えは出ないまま、眠りについた。

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