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第2話 白い月の方角

晴れた日は布団がよく乾くな。

今日も朝から白い月が見えた。

いつもより輪郭が濃い気がする……。


いつもの日課をこなす。

朝は目覚めがよく、こういう日は家事が捗る。

本来はテンムが家事をしてくれているが、体調はいつ変わるか分からない。


部屋に戻ると、テンムの様子が明らかに悪かった。

呼吸は荒く、顔だけでなく首元まで赤い。


「……あっ、リアン……息が苦しい……胸が痛い……いつもの薬と……症状別の薬をお願い……」


声が弱い。

昨日から胸に引っかかっていた違和感が、また疼く。


――森のことは、なぜかテンムに言ってはいけない気がした。

そして今朝は、森の方角からのざわつきが昨日よりも強い。

あの声……「月の子」。


「……まさかな」


頭を振り、薬を探して差し出す。

テンムが飲み込む喉の動きに、いつもの力がない。

舌を出す仕草も見られなかった。


「大丈夫?」

その言葉は喉まで出かかったが、飲み込んだ。


窓の外を見る。

森の方角から視線を感じるような、意識が引き寄せられるような感覚。


「呼ばれて……る?」

「いや、それどころじゃないな」


引っかかりを感じた事を胸の奥に押し込める。


しばらくして、テンムの状態は少し落ち着いた。

調査依頼のついでに、森の様子を見に行くか……。


「行ってくる。ゆっくり寝ててくれ」


テンムの手が弱く動き、目線が不安そうに揺れる。


「……うん、気をつけてね……」


何かを堪えているのは、俺だけじゃない。

手を振る仕草が、今日はやけに儀式のように見えた。

祈り……心配……気丈さ……手の振りに込められているように感じた。




ギルドに着き、依頼ボードを見る。

魔物調査の依頼が増えている。

内容も、まるで森に“何かの意図”があるかのようだった。


適当な依頼を取り、受付に渡す。


「昨日の報告で、未確認の気配が魔物を動かしているのでは、と推測が出ています。気をつけてくださいね」


テンム以外の人に、まっすぐ心配されるのは慣れない。

軽く頭を下げ、森へ向かった。


胸のざわつきは消えない。

始点と終点の間に散らばっていた違和感の線が、一本だけ繋がりかけている。



依頼の場所に着くと、魔物の気配が濃かった。

「長くなりそうだ……」


早く帰りたい。

テンムの体調を近くで見ていたい。


焦り、不安、緊張――

それらすべてが判断と魔法制御を乱す。


「クソ……」


空歩がわずかにブレ、足音が出た。


その瞬間、森の奥で木々が不自然に揺れた。

風ではない。

また“何か”がこちらを見ている。


敵意はない。

だが、ただの獣ではない圧。


――「……月が満ちる……辛いでしょ……」


湿った木の軋みの奥に、言葉の形がはっきりとあった。

胸騒ぎが走る。


その声は、まるで

「早く戻れ」

と言っているようだった。


調査を早めに切り上げ、家へ急ぐ。


散らばっていた線は、「重なりかける」。

何かと異変と繋げて考えるのも、専門家のクセだな。



家に戻り、テンムの部屋へ駆け込む。

息は荒く、苦しそうな表情。

それなのに、無理に体を起こし、窓の向こう――森を見ていた。


「……リアン……森……」


俺を見ていない。

意識が森と同化して、呼吸のリズムまで森に合わせているように見えた。


「呼ばれている……そんな気がする……」


かすれた声が、遠くの何かに触れているようだった。


始点と終点の間にあった複数の線の一本が「確かに繋がる」。


「私も……森に行く……」


テンムの体をそっと寝かせ、落ち着かせる。


「明日、森へ行く。心当たりがあるから……待っててくれ」


それが正しいかどうかは分からない。

だが、行かなければ何かを失うと確信していた。

もしこの先に、治る未来があるとしたら、俺たちは何かを失うのだろうか……。


窓の外では、白い月が雲の隙間から淡い光を落としていた。

テンムの手を握り、その瞳だけを見つめる。

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