表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

「今日をもって、私はあなたを愛することをやめます」——三年間尽くした冷徹公爵に見切りをつけたら、溶けたアイスを持って追いかけてきました

作者: こうこ
掲載日:2026/01/21

「今日をもって、私はあなたを愛することをやめます」


結婚記念日の夜。

銀の燭台が揺らめく食堂で、私——エレノア・ヴァレンシアは、氷の公爵と呼ばれる夫の前に立っていた。


ルシアンは書類から顔も上げない。

三年間、ずっとそうだった。


「……何の話だ」


その声には、何の感情もこもっていない。

当然よね。この人にとって私は、公爵家の体面を保つための道具でしかないのだから。


「聞こえませんでした? では、もう一度申し上げますね」


私はにっこり笑った。

完璧な公爵夫人の微笑みで。


「あなたを、愛するのをやめます」


ようやく、紺碧の瞳がこちらを向いた。

——遅いのよ、三年も経ってから。


「急にどうした」

「急?」


思わず笑いが漏れた。

乾いた、自分でも驚くほど冷めた笑い。


「三年ですよ、旦那様。私がどれだけ——いえ、もういいわ」


テーブルの上には、今年も作ったストロベリーアイス。

淡いピンク色の、甘酸っぱい苺のアイス。


あの夏祭りで、偶然あなたと出会った日。

屋台で買った苺菓子を「美味いな」と笑った、あの日のあなたを追いかけて——私は三年間、毎年このアイスを作り続けた。


「それも下げさせろ。甘いものは嫌いだと言っている」


……ああ、そう。

今年も、同じ言葉。


(知ってた。知ってたけどさ)


胸の奥で、何かがぷつりと切れる音がした。

不思議と痛くない。

むしろ、すっきりした。


「承知いたしました」


私はアイスの器を持ち上げ、自分の口に運んだ。

一口、二口、三口。


「……何をしている」

「食べてますけど? 捨てるのは勿体ないので」


冷たくて、甘くて、美味しい。

我ながら傑作の出来だと思う。


(この三年、あなたに食べてほしくて研究したんだけどね)


「これ、王都で売ったら絶対流行るのよ」

「……は?」

「独り言です。お気になさらず」


器を空にして、私はスカートの裾を持ち上げた。

最後の、完璧なカーテシー。


「明日から離れの屋敷に移ります。ご報告まで」

「待て。何を勝手に——」

「勝手?」


振り返って、私は微笑んだ。

今度は公爵夫人の仮面なんかじゃない。


「三年間、勝手だったのはどちらでしょうね」


ルシアンが何か言いかけたけど、私は聞かなかった。


扉を閉める直前、彼の顔が一瞬だけ見えた。

——驚愕に染まった、氷の公爵の顔。


(ああ、その顔。三年前に見たかったな)



◇ ◇ ◇



廊下に出ると、マーガレットが待っていた。

私付きの侍女頭。実家から一緒に来てくれた、たった一人の味方。


「……言えましたか、お嬢様」

「言えたわ」


足が少しだけ震えていた。

でも、心は嘘みたいに軽い。


「マーガレット」

「はい」

「明日から忙しくなるわよ」


私の言葉に、マーガレットは——泣き笑いのような顔をした。


「やっと、やっとお嬢様らしくなりましたね」

「遅すぎたかしら」

「いいえ。今からですよ、全部」


彼女の温かい手が、私の手を握った。


三年間、この屋敷で味方はマーガレットだけだった。

使用人たちは私を無視し、ルシアンの従妹ヴィヴィアンには毎日のように嫌味を言われ、それでも「いつか振り向いてもらえる」と信じて——


(馬鹿だったわ、本当に)


でも、もう終わり。


「行きましょう、マーガレット。新しい人生の始まりよ」



◇ ◇ ◇



同じ頃。


食堂に一人残されたルシアン・ノクターン・アッシュフォードは、空になった器を見つめていた。


「……愛するのを、やめる?」


呟いた言葉は、誰にも届かない。


溶け残ったピンク色の滴が、銀の器の底で揺れている。

——甘い、苺の香り。


ルシアンはその器に手を伸ばしかけて、途中で止めた。


「……くだらん」


立ち上がり、食堂を出る。


けれど彼の足取りは、いつもより少しだけ乱れていた。


執務室に戻ったルシアンは、机の引き出しを開けた。

奥の奥に隠された、小さな木箱。


中には——三年分のストロベリーアイスの器が、きれいに並べられていた。


毎年、「甘いものは嫌いだ」と突き返したアイス。

捨てろと命じながら、こっそり従者のフィンに回収させていたアイス。


溶けて、乾いて、器だけになったそれらを——ルシアンは毎晩、こうして眺めていた。


「……馬鹿な真似を」


自嘲するように呟いて、引き出しを閉める。


けれど今夜は、いつものように心が凪がなかった。


「愛するのをやめる、だと……」


——俺を見限る、ということか?


その考えが浮かんだ瞬間、胸の奥で何かがざわついた。



◇ ◇ ◇



翌朝。


離れの屋敷で目覚めた私は、実に三年ぶりの安眠を味わっていた。


「……最高」


天蓋のない簡素なベッド。

小さな窓から差し込む朝日。

本館の豪華な寝室より、百倍心地いい。


(だって、あの人が隣の部屋にいないんだもの)


結婚初夜から一度も共に過ごさなかった夫。

「公爵家に必要なのは跡継ぎと体面だけだ」と言い放った男。

なのに隣室にいると思うだけで眠れなかったのは、私がどれだけ馬鹿だったかって話よね。


「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」

「入っていいわよ、マーガレット」


扉が開いて、侍女頭が朝食のトレイを運んでくる。

——そして、彼女の後ろには。


「あの、エレノア奥様……!」


赤茶の髪をした若い従者。

ルシアンの付き人のフィンだった。


「あら、フィン。おはよう」

「お、おはようございます! その、旦那様からの伝言で……」

「聞かないわ」

「え」

「聞かないって言ったの」


ベッドから降りながら、私はにっこり笑った。


「旦那様にお伝えして。私はもう『完璧な公爵夫人』をやめましたので、命令される筋合いはありません、と」

「ええええ……」


フィンが泣きそうな顔をしている。

可哀想だけど、知らない。


「マーガレット、今日の予定は?」

「午前中に材料の買い出し、午後から工房の改装打ち合わせです」

「完璧ね」


「あの、奥様……!」


フィンがまだいた。


「旦那様、昨夜から様子がおかしくて……執務室に籠もったまま、朝食も召し上がらなくて……」


(へえ)


一瞬だけ、心がざわついた。

でも、すぐに消えた。


「いつものことでしょう? 仕事熱心な方だもの」

「い、いつもと違うんです! 何度も書類を読み直したり、同じ場所を歩き回ったり……」

「動揺してるの? あの氷の公爵様が?」

「は、はい……多分……」


三年間、私が何をしても微動だにしなかった男が?


(——遅いのよ、本当に)


「お伝えして。心配には及びません。私は自分の人生を生きることにしましたので」

「奥様……」

「あと、これ」


私は昨夜のうちに書いておいた書類を渡した。


「離れの屋敷を工房として使用する許可申請よ。領主権限で承認してもらえるかしら」

「工房……ですか?」

「菓子工房。ストロベリーアイスを王都で売るの」


フィンは目を丸くした。


「そ、それは……旦那様が許可するかどうか……」

「許可しないなら、私が持参金で買い取るだけよ? ああ、それとも離縁してくださる? どちらでも構わないわ」

「り、離縁……!?」


真っ青になるフィン。

可哀想に。でも、私は本気だった。


「さあ、お伝えしていらっしゃい」


フィンが転がるように出て行った後、マーガレットが肩を震わせていた。


「お嬢様……いえ、奥様。最高です」

「でしょう?」


私たちは顔を見合わせて、笑った。



◇ ◇ ◇



その日の午後。

信じられないことに、許可申請は即日承認された。


ルシアンの署名入りで。


「……何考えてるのかしら、あの人」


コメントは一切なし。

ただ、追加予算まで付いていた。


(気持ち悪い……けど、使えるものは使うわ)


「マーガレット、予定通り進めましょう。いいえ、もっと早く」

「畏まりました」


窓の外を見ると、本館の執務室の明かりが見えた。

あそこで、あの人は何を思っているのだろう。


——いいえ、もう考えない。


私は振り返り、工房の設計図に向き合った。


「さあ、始めましょうか」


三年間、心の奥に閉じ込めていた夢。

ようやく、蓋を開ける時が来た。



◇ ◇ ◇



三日後。


アッシュフォード公爵邸の使用人たちは、密かにざわついていた。


「旦那様、また食事を残されたって」

「三日連続よ? 信じられない」

「しかも昨日、廊下で奥様の侍女とすれ違った時——」

「——立ち止まって、何か聞こうとしてたって」

「氷の公爵様が!?」


噂は瞬く間に広がった。


その中心にいたのは、従者のフィンだった。


「フィン、どうなってるの?」

「僕に聞かないでよ……」


厨房の片隅で、フィンは頭を抱えていた。


「旦那様、本当におかしいんだ。昨夜なんて、奥様の寝室だった部屋の前で三十分も立ってたし」

「怖っ」

「怖いよ! 僕も怖いよ!」


でも、フィンには分かっていた。

誰よりも近くで見てきたから。


——旦那様が、毎年あのアイスを捨てずにいたこと。

執務室の机の奥で、溶けるまで眺めていたこと。


(伝われば良かったのに。奥様に、伝わっていれば)


ため息をついた時。


「フィン」


背後から声がして、フィンは三メートルほど飛び上がった。


「だ、旦那様!?」


ルシアン・ノクターン・アッシュフォード。

銀灰色の髪、深い紺碧の瞳、彫刻のような美貌。

——の、下に、くっきりとした隈。


「奥様は……エレノアは、何をしている」

「え、あ、工房の準備を……」

「工房か」

「は、はい……毎日楽しそうにされて……」


言ってから、しまったと思った。


ルシアンの目が、一瞬だけ揺れた。

——傷ついたような、置いていかれた子供のような。


(嘘でしょ、旦那様)


「……そうか」


それだけ言って、ルシアンは踵を返した。

フィンは慌てて追いかける。


「あの、旦那様!」

「何だ」

「奥様に、会いに行かれないんですか?」


足が止まった。

長い沈黙の後、ルシアンは振り返らずに言った。


「……行って、どうする」

「え?」

「何を話せばいい。俺は——」


言葉が途切れる。


「俺は、あいつに何もしてやれなかった」


フィンは息を呑んだ。

氷の公爵が、こんな声を出すなんて。


「三年だ。三年間、俺は……」

「旦那様——」

「分からないんだ」


ルシアンの拳が、白くなるほど握りしめられていた。


「あいつの隣にいるだけで十分だと思っていた。それで伝わると……愚かにも、本気で」


(伝わるわけないでしょ!)


フィンは心の中で絶叫した。

でも、今更言っても仕方ない。


「旦那様。今からでも——」


「エレノア様!」


廊下の向こうから、甲高い声が響いた。

フィンとルシアンが同時に振り返る。


艶やかな黒髪、切れ長の紫水晶の瞳。

華やかなドレスを纏った女性が、離れの屋敷の方向へ歩いていく。


——ヴィヴィアン・アッシュフォード。

ルシアンの従妹にして、エレノアを三年間苦しめてきた張本人。


「ねえエレノア様、お加減はいかが? 離れなんかに引きこもって、可哀想に」


その声には、隠しきれない嘲りが混じっていた。


フィンはルシアンを見た。

——そして、凍りついた。


旦那様の目が、本物の氷のように冷たかった。



◇ ◇ ◇



「エレノア様、本当にこんな場所で何をなさっているの?」


ヴィヴィアンの声は、砂糖菓子のように甘い。

でも中身は、とびきりの毒。

三年間、この声を何度聞いたことか。


「工房を作っているの。見て分からない?」

「工房? まさか、本当にお菓子を売るおつもり?」


紫水晶の瞳が、私を値踏みするように見下ろす。


「公爵夫人が商売なんて、笑われますわよ。ああ、でもエレノア様は商家のお血筋でしたものね」


来た来た。

いつものやつ。


三年前の私なら、俯いて黙っていた。

でも、今は違う。


「ええ、そうよ」


私はにっこり笑った。


「商家の血筋で何が悪いの? 少なくとも、親の七光りだけで生きてる人より余程マシだと思うけれど」


「——っ」


ヴィヴィアンの顔が、一瞬で強張った。


「な、何ですって……?」

「聞こえなかった? では、もう一度——」

「エレノア様!」


彼女が一歩詰め寄る。

私は動かない。


「あなた、自分の立場を分かっているの? ルシアン様に愛されてもいない、哀れな公爵夫人のくせに——」

「愛されてない。そうね、その通りよ」

「え?」


ヴィヴィアンが目を丸くした。

私があっさり認めるとは思わなかったんでしょう。


「だから、やめたの」

「やめた……?」

「愛されようとするの。疲れちゃって」


肩をすくめてみせる。


「でもね、ヴィヴィアン様」

「……何よ」

「愛されなくても、私には私の人生があるの。美味しいものを作って、食べて、幸せに生きる。それで十分」


ストロベリーアイスの試作品を一口食べながら、続ける。


「あなたは? ルシアン様に愛されたとして、その後どうするの?」

「な……っ」

「公爵夫人の座に座って、それで? 何ができるの?」


ヴィヴィアンの顔が、みるみる赤くなっていく。


「あ、あなた……! 私を馬鹿にして……!」

「馬鹿になんかしてないわ。ただ、事実を言っているだけ」


私は工房の設計図を広げた。


「私はこれから忙しいの。お茶の相手は——」


「ヴィヴィアン」


低い、氷のような声。


「——ルシアン様!?」


振り返ると、ルシアンが立っていた。

——いつの間に。


「る、ルシアン様……! 聞いてくださいまし、エレノア様が酷いことを——」

「黙れ」


一言で、ヴィヴィアンが凍りついた。

私も、正直驚いた。


「ルシアン、様……?」

「エレノアに近づくな」

「え……で、でも、私は従妹として心配を——」

「三年間、お前が何をしてきたか知らないとでも?」


ヴィヴィアンの顔から、血の気が引いていく。


「な……何のことか……」

「使用人を使った嫌がらせ。社交界での陰口。エレノアが着る予定だったドレスを『手違いで』汚した件。全部知っている」

「そ、それは誤解——」

「消えろ」


ルシアンの声は、感情がないほど冷たかった。


「二度とエレノアの前に現れるな。次は容赦しない」


ヴィヴィアンは何か言いかけて、——私を睨みつけて、逃げるように去っていった。



◇ ◇ ◇



残されたのは、私とルシアン。


「……何の真似?」


私は警戒心を隠さずに聞いた。


「真似?」

「今更、私を庇うなんて」


ルシアンが、少しだけ目を伏せた。

——初めて見る、弱々しい表情。


「三年間、何も見ていなかったわけじゃない」

「……は?」

「お前が、どれだけ苦しんでいたか——」

「だったら何で助けてくれなかったの」


私の声は、自分でも驚くほど冷たかった。


「三年よ? 三年間、私は毎日あの女に嫌味を言われて、使用人に無視されて、誰も味方がいなくて——」

「分かっている」

「分かってないわ!」


気づいたら、叫んでいた。


「あなたが一言『妻に手を出すな』と言ってくれれば、全部変わったのに!」

「……」

「何で黙ってたの。何で——」

「怖かった」


……え?


「お前を傷つけるのが、怖かった」

「……意味が分からない」

「俺が関われば関わるほど、お前を傷つける。そう思っていた」


ルシアンの目が、真っ直ぐに私を見た。


「母が出て行った時、俺は——」


言葉が途切れる。

彼の拳が、白くなるほど握りしめられていた。


「……いい、聞きたくない」

「エレノア」

「私、もう決めたの。あなたを愛するのをやめるって」


ルシアンの目が、かすかに揺れた。

——傷ついたような、その目。


(……駄目でしょ、そんな顔されても)


「工房の開店準備で忙しいの。話があるなら、また今度」

「待ってくれ」

「待たないわ」


私は背を向けた。


「三年待ったもの。もう十分よ」


足音が遠ざかるのを聞きながら、私は自分の心臓がうるさいほど鳴っているのに気づいていた。


(……チョロすぎる、私)


あの顔を見ただけで、揺らいでしまうなんて。



◇ ◇ ◇



工房が形になり始めた頃。

予想外の来客があった。


「エレノア、久しぶり」


太陽のような金髪。

翡翠色の瞳。

人懐っこい笑顔。


「……セドリック?」


幼馴染の伯爵、セドリック・ローゼンハイムが、花束を抱えて立っていた。


「噂を聞いてね。公爵夫人が菓子工房を始めるって」

「噂になってるの?」

「王都中の話題だよ」


セドリックは軽やかに工房に入ってきた。

——相変わらず、遠慮がない。


「すごいじゃないか。君が商売を始めるなんて」

「驚いた?」

「いいや、僕は知ってたから」


彼は微笑んだ。


「君が本当はどんな人か。あの冷血公爵は知らないだろうけど」


……来た。


「セドリック、何しに来たの」

「会いたかったから」

「嘘ね」

「嘘じゃないよ」


彼が一歩近づく。

翡翠の瞳が、真剣な光を帯びた。


「エレノア。僕はずっと君を——」

「ストップ」

「え?」

「その先は聞きたくない」


私は試作中のアイスを彼の前に置いた。


「食べて。感想ちょうだい」

「……」

「何?」

「君、変わったね」


セドリックが苦笑する。


「前はもっと、奥ゆかしかったのに」

「三年間の忍耐で全部使い果たしたわ」

「あはは、辛辣だ」


彼がアイスを一口食べる。

翡翠の目が、大きく見開かれた。


「……美味い」

「でしょう?」

「いや、本当に美味い。これ、絶対売れるよ」

「分かってる」


私はにっこり笑った。


「だから工房を作ったの」


「……君は本当に、あの公爵に勿体ない」


セドリックの声が、少し低くなった。


「エレノア」

「何?」

「僕と一緒に来ないか」



◇ ◇ ◇



予想はしていた。

でも、こんなに直球だとは思わなかった。


「僕の領地で、君の工房を開けばいい。全面的にサポートする」

「セドリック——」

「公爵との離縁も、僕が手を回す。君はもう、あんな男に縛られなくていい」


彼の手が、私の手に触れた。

——温かい。


「君を幸せにする。約束するよ」


甘い言葉。

優しい眼差し。

三年前の私なら、泣いて頷いていたかもしれない。


でも。


「セドリック」

「何?」

「あなた、私のこと好きなの?」

「もちろん」

「嘘ね」


彼の目が、一瞬だけ揺れた。


「君が好きなのは、『手に入らなかった私』でしょう?」

「……何を——」

「ルシアンから奪い取れたら、満足する。違う?」


セドリックが黙った。

——図星か。


「私ね、もう『誰かのため』に生きるのはやめたの」

「エレノア——」

「自分のために生きる。自分の店を持って、自分の力で成功する」


私は彼の手を、そっと外した。


「あなたの保護なんか、いらないわ」


セドリックは、しばらく黙っていた。

そして——ふっと笑った。


「……参ったな。本当に変わった」

「残念だった?」

「正直、ちょっとね」


彼は花束を置いて、立ち上がった。


「でも、僕は諦めないよ」

「……」

「君が幸せになるまで、見届ける。それが僕のやり方だ」


去り際、彼は振り返った。


「一つだけ、教えてあげる」

「何?」

「君の旦那様、今すごく焦ってるよ。僕が来たって知ったら、もっと焦るだろうね」


——嫌な笑顔。


セドリックが去った後、マーガレットが現れた。


「お嬢様。本館から、旦那様がいらっしゃるそうです」

「……早いわね」

「ローゼンハイム伯爵がいらしたのを、見ていたようで」


私は深くため息をついた。


「面倒くさい……」


けれど、心臓はまた、うるさく鳴り始めていた。



◇ ◇ ◇



「ローゼンハイムが何の用だ」


ルシアンの第一声がそれだった。

相変わらず挨拶もなし。三年経っても変わらない。


「仕事の話よ。私の工房に投資したいって」

「断れ」

「何で?」

「あの男は信用できない」


私は肩をすくめた。


「もう断ったわよ。あなたに言われなくても」


ルシアンの表情が、かすかに緩んだ。

——一瞬だけ、安堵したような顔。


(……何なの、本当に)


「でもセドリックの言う通り、投資は必要なの。王都で本格的に売り出すには、資金が足りないわ」

「俺が出す」

「は?」

「必要な額を言え。全部出す」


私は思わず彼の顔を見つめた。

——本気だった。


「……何企んでるの」

「何も」

「嘘。あなたが理由もなく金を出すわけない」

「理由はある」

「何?」

「お前が、俺以外から支援を受けるのが気に入らない」


は?


「……それ、理由になってないんだけど」

「なっている」

「なってない」

「お前は俺の妻だ」

「名ばかりのね」


ルシアンの目が、揺れた。


「……そうだな」

「ええ、そうよ。三年間、夫婦らしいこと何一つ——」


「毎年」


「え?」


「毎年、お前が作ったアイスを」


彼の声が、かすれた。


「捨てられなかった」


……何を、言って?


「執務室の机の奥に、しまっていた。溶けるまで、ずっと見ていた」

「な……」

「甘いものは嫌いだ。今も、本当にそう思っている」


ルシアンの拳が、震えていた。


「でも、お前が作ったものだけは——捨てられなかった」


頭が真っ白になった。


三年間。

毎年。

私のアイスを。


「何で……何で食べてくれなかったの」

「食べたら」

「食べたら?」

「お前を、好きになると思った」


……は?


「母が出て行った日、俺に菓子をくれた」

「……」

「『これを食べて待っていて。すぐ戻るから』と。——戻ってこなかった」


私は言葉を失った。


「甘いものを受け入れたら、また裏切られる。そう思って——」

「馬鹿じゃないの」


気づいたら、声が出ていた。


「馬鹿よ、あなた。最高に馬鹿」

「……」

「お母様と私は違う。私は——」


言いかけて、止まった。


——私は、どうなの?


「……いいわ」

「何が」

「その話、もう終わり」

「エレノア——」

「聞いたから。事情は分かった」


私は深呼吸した。


「でも、だからって許すわけじゃないから」

「……」

「三年分の苦しみは、事情を聞いただけで消えたりしない」


ルシアンが、まっすぐに私を見た。

——傷ついたような、縋るような目。


「どうすれば、許してもらえる」

「……分からない」

「教えてくれ。何でもする」

「何でも?」

「ああ」


私は少し考えて、言った。


「じゃあ、見ていて」

「……見る?」

「私が成功するところを。自分の力で、王都一の菓子職人になるところを」


ルシアンの目が、かすかに見開かれた。


「その時まで、邪魔しないで。支援もいらない」

「しかし——」

「私は、あなたに守られる『お姫様』じゃないの」


私はまっすぐに彼を見返した。


「対等に、隣に立てる人間になる。だから——待ってて」


言ってから、気づいた。

——私、何言ってるの?


「い、今のなし! 忘れて!」

「忘れない」

「忘れてってば!」

「一生、覚えている」


ルシアンの目が、初めて——本当に初めて、柔らかく笑っていた。


「待つ。お前が隣に来てくれるまで、いくらでも」


私の顔が、みるみる熱くなる。


(チョロすぎる……私、本当にチョロすぎる……!)



◇ ◇ ◇



それから一ヶ月。


『アッシュフォード公爵夫人のストロベリーアイス、社交界で大評判!』

『王都一の菓子店と名高いミルフォード商会を超える人気か?』

『貴族令嬢の間で「エレノア様のアイス」を食べるのが最新の流行に』


新聞の見出しが、連日私の工房を取り上げていた。


「お嬢様、本日も完売です」

「ありがとう、マーガレット」


離れの屋敷を改装した小さな工房。

最初は物珍しさで来た客も、一度食べれば虜になった。


「甘すぎず、酸っぱすぎず、後味が爽やか」

「こんなアイス、食べたことない」

「公爵夫人が自ら作っているなんて、素敵」


口コミが口コミを呼び、今では予約が三ヶ月待ち。

王都中の貴族が、私のアイスを求めて列を作っていた。


「信じられないわ、本当に」


試作品を食べながら、私は呟いた。


「お嬢様の実力ですよ」

「半分はマーガレットのおかげよ。経営を任せきりにしてるもの」

「私は帳簿をつけているだけです。味を作っているのはお嬢様です」


そう言って、マーガレットは誇らしげに微笑んだ。


「お祖母様も、天国でお喜びでしょう」


——お祖母様。

商家出身で、菓子作りの名人だった人。

私に全てを教えてくれた人。


「そうね、きっと」



◇ ◇ ◇



その日の午後。

予想外の客が来た。


「エレノア様」


見覚えのある、傲慢な声。

ヴィヴィアン・アッシュフォードが、工房の入り口に立っていた。


「あら、ヴィヴィアン様。お久しぶり」

「……」


彼女の顔色は、以前より悪かった。

艶やかだった黒髪も、どこか精彩を欠いている。


「何か御用?」

「……一つ、売ってちょうだい」

「え?」

「アイス。一つ、売って」


私は目を丸くした。


「……予約は三ヶ月待ちよ?」

「知っているわ」

「お金を積んでも無理よ?」

「分かっているわ!」


ヴィヴィアンが、悔しそうに唇を噛んだ。


「でも……明日の茶会で、必要なの」

「茶会?」

「ベリンダ侯爵夫人の。あの方のお気に入りが、あなたのアイスで……」


ああ、なるほど。

ベリンダ侯爵夫人といえば、社交界の女王。

彼女に気に入られなければ、貴族令嬢としての地位が危うい。


「私のアイスがないと、招待されないの?」

「……そうよ」


屈辱に顔を歪めながら、ヴィヴィアンは認めた。


「あなたのアイスがなければ、私は社交界で笑い者になるの。分かる? 三年間、あなたを馬鹿にしてきた私が」


皮肉な話だった。

三年間、私を見下してきた女が、今度は私に頭を下げている。


「……一つだけよ」

「え?」

「特別に、一つだけ売ってあげる」


ヴィヴィアンの目が、大きく見開かれた。


「な……何故?」

「何故って……」


私は肩をすくめた。


「復讐なんか、興味ないもの」

「……」

「私はただ、美味しいものを作って、幸せに生きたいだけ。あなたを苦しめても、何も得られないわ」


ヴィヴィアンが、呆然と私を見つめた。


「でも、一つだけ約束して」

「……何?」

「もう二度と、私を『商家の成り上がり』って呼ばないこと」

「……」

「私は商家の血を誇りに思ってるの。だから——」


私は微笑んだ。


「馬鹿にされるのは、もう御免よ」


ヴィヴィアンは長い間黙っていた。

そして——小さく頷いた。


「……分かったわ」

「よろしい」


アイスを渡すと、彼女はお金を置いて、足早に去っていった。

振り返らなかった。

でも、その背中は、少しだけ小さく見えた。



◇ ◇ ◇



「お嬢様、よろしかったのですか」


マーガレットが複雑そうな顔で聞いた。


「いいのよ。恨みを引きずっても、重いだけだもの」

「……お嬢様は、お優しい」

「優しくないわ。ただ——」


私は窓の外を見た。

本館の方向。

あの人がいる場所。


「前に進みたいの。過去に足を取られてる暇はないわ」


その時、フィンが駆け込んできた。


「奥様! 大変です!」

「どうしたの?」

「王宮から使者が来ています! 奥様の工房を、王室御用達に認定したいと……!」


私は、アイスを落としそうになった。



◇ ◇ ◇



王室御用達の認定式。

場所は、王宮の大広間。

王家主催の夜会で行われると聞いた時、私は正直、目眩がした。


「王宮、よ? 王宮」

「はい、王宮です」

「私が、王宮で……?」

「奥様、落ち着いてください」


フィンが慌てて水を持ってきた。


「大丈夫よ……大丈夫……」


全然大丈夫じゃなかった。



◇ ◇ ◇



夜会当日。


私は苺色のドレスに身を包み、王宮の大広間に立っていた。


(……すごい)


シャンデリアの光が、宝石のように輝いている。

貴族たちが優雅に談笑し、オーケストラの音楽が流れている。

三年前、田舎の子爵令嬢だった私には、夢のような光景。


「エレノア様!」

「おめでとうございます!」

「お話を聞かせてくださいまし!」


貴婦人たちが、次々と私に声をかけてくる。

三年前なら、誰も見向きもしなかったのに。


(人って、変わるものね……)


苦笑しながら応対していると、視線を感じた。

振り返ると——ルシアンがいた。


黒の正装に身を包んだ、銀灰色の髪の美丈夫。

氷の公爵と呼ばれる男。

——私の、夫。


目が合った。

彼は何か言いたげだったけど、すぐに人混みに消えた。


(何よ、あれ)



◇ ◇ ◇



認定式が始まった。


「本日、王室御用達として認定するのは——」


王の侍従が、高らかに読み上げる。


「アッシュフォード公爵夫人、エレノア・ヴァレンシアの『苺氷菓工房』である」


拍手が起こった。

私は緊張しながら、壇上に上がった。


「エレノア殿。何か一言あれば」

「は、はい……」


私は深呼吸した。


「私は、商家の血を引く者です。貴族の世界では、それを恥じるべきだと言われてきました」


広間が、少しざわついた。


「でも、私は誇りに思っています。お祖母様から受け継いだ、菓子作りの技術を。人を幸せにできる、この力を」


私は胸を張った。


「これからも、美味しいお菓子を作り続けます。皆様の笑顔のために」


拍手が、さっきより大きくなった。

——やった。


その時。


「待ってくれ!」


広間の入り口から、声が響いた。

全員が振り返る。


銀灰色の髪を乱した男が、走ってきた。

手に何かを持って。

——溶けかけの、ピンク色のアイス。


「る、ルシアン……?」


彼は人混みをかき分け、壇上に駆け上がってきた。

侍従が止めようとするけど、無視。


「な、何をして——」

「エレノア」


ルシアンが、私の前に立った。

息を切らして、目の下に隈を作って。

——でも、目だけは真っ直ぐだった。


「これを」


差し出されたのは、溶けかけのストロベリーアイス。

——私の、作品。


「三年分、全部食べる」

「……は?」

「甘いものは嫌いだ。今でもそう思っている」


彼の声が、震えていた。


「でも、お前が作ったものなら——食べられる」

「ルシアン……」

「だから」


彼が、一口食べた。

溶けかけた、甘い苺のアイスを。


「——っ」


顔を歪めた。

本当に甘いものが苦手なんだ、この人。


でも、彼は飲み込んだ。


「俺の隣に、戻ってくれ」


広間が、静まり返った。

全員が、息を呑んで見つめている。


「ルシアン、あなた——」

「お前がいないと、俺の全部が溶ける」

「……何それ」

「分からない。でも、本当にそうなんだ」


彼の目が、まっすぐに私を見ていた。

——氷の公爵とは思えない、熱い目。


「三年間、ずっと傍にいてくれたのに。何もできなくて、すまなかった」

「……」

「これからは違う。お前が望むなら、何でもする」

「何でも?」

「ああ。毎日アイスを食べてもいい。甘いものに埋もれてもいい」


私は、呆れて笑ってしまった。


「……溶けてるわよ、それ」


アイスを指さすと、ルシアンは困ったような顔をした。


「……どうすればいい?」

「知らないわよ」

「教えてくれ」

「自分で考えて」

「考えた。結論は、お前が必要だ」


「——っ」


不意打ちだった。

心臓が、痛いくらい跳ねた。


「チョロい……私、本当にチョロすぎる……」

「何?」

「何でもない!」


私は深呼吸した。


「いい? 一つだけ約束して」

「何でも」

「私のこと、『守る』とか『助ける』とか言わないで」

「……」

「私は、あなたの隣に立ちたいの。対等に。だから——」


私は彼の手から、溶けたアイスを受け取った。


「一緒に、歩いてくれる?」


ルシアンの目が、大きく見開かれた。

そして——生まれて初めて見るような、柔らかい笑顔を浮かべた。


「ああ。どこまでも」


広間に、割れんばかりの拍手が響いた。


片隅で、フィンが感動のあまり号泣していた。


「主人が……主人が人前でアイス持って走るなんて……!」

「フィン、鼻水」

「す、すみません……!」



◇ ◇ ◇



夜会の後。

馬車の中で、私とルシアンは向かい合って座っていた。


「……あなた、本当に何考えてたの」

「何が」

「あんな大勢の前で、溶けたアイス持って走ってくるなんて」

「必死だった」

「見れば分かるわよ」


ルシアンの礼服は、アイスのシミだらけだった。

氷の公爵の威厳もへったくれもない。


「……笑っているな」

「笑ってないわ」

「笑っている」

「笑ってない」

「……嬉しそうだ」


私は顔を背けた。


「……ちょっとだけ」

「何?」

「ちょっとだけ、嬉しかったわよ」


ルシアンの目が、輝いた。

——犬か、この人は。


「でも、許したわけじゃないから」

「分かっている」

「これからも、工房は続けるから」

「ああ」

「あなたより仕事を優先することもあるから」

「構わない」

「毎日甘いもの食べさせるから」

「……努力する」


私は思わず吹き出した。


「何だ」

「いえ、あなたが『努力する』なんて言うと思わなくて」

「お前のためなら、何でもすると言った」

「……本気?」

「本気だ」


ルシアンの手が、私の手を取った。

——冷たいと思っていた手は、意外に温かかった。


「エレノア」

「何?」

「好きだ」


……不意打ちは卑怯でしょ。


「聞こえなかったふりをする」

「好きだ」

「聞こえない」

「愛している」

「やめて」

「三年分、全部言う」

「やめてってば!」


顔が熱い。

耳まで真っ赤になってる自信がある。


「……ルシアン」

「何だ」

「私も」

「……?」

「私も、まだ——好き、かもしれない」


沈黙。


「……聞こえなかった」

「嘘でしょ!?」

「もう一度言ってくれ」

「言わない!」

「頼む」

「絶対言わない!」


ルシアンの顔が、近づいてきた。


「言ってくれたら、毎日アイスを食べる」

「……本当に?」

「本当だ」

「三食?」

「……二食で頼む」

「一食半」

「一食」

「交渉成立」


私たちは顔を見合わせて、笑った。



◇ ◇ ◇



その夜。

初めて、二人で同じ部屋で眠った。


ルシアンは、私を抱きしめたまま離さなかった。

——子犬みたいに。


「重い」

「我慢してくれ」

「腕、痺れる」

「我慢してくれ」

「……甘えたがりなの?」

「お前にだけだ」


私は呆れながらも、彼の髪を撫でた。

銀灰色の、柔らかい髪。


「……三年、損したわ」

「すまない」

「でも、これからがあるから」

「ああ」

「絶対、償ってよね」

「一生かけて」


ルシアンの腕に、力がこもった。


「エレノア」

「何?」

「幸せにする」

「自分でなるわ」

「なら、隣で見ていていいか」

「……いいわよ」


私は目を閉じた。


甘い苺の香りが、かすかに漂っていた。



◇ ◇ ◇



翌朝。


「旦那様が、朝からアイスを召し上がっている……!」

「嘘でしょ!?」

「し、信じられない……!」


使用人たちの悲鳴が、屋敷中に響いた。


「エレノア、甘い」

「我慢して」

「……努力する」


むすっとした顔でアイスを食べるルシアンを見て、私は笑った。


「ねえ、ルシアン」

「何だ」

「来年の結婚記念日も、アイス作るわね」

「……覚悟している」

「再来年も」

「ああ」

「十年後も、二十年後も」


ルシアンが、ふっと笑った。


「楽しみにしている」


私は彼の頬についたアイスを、指で拭った。


「——私も」


氷の公爵と、苺アイスの公爵夫人。


私たちの物語は、ようやく本当の始まりを迎えた。



◇ ◇ ◇



——後日談。


ヴィヴィアンは社交界での立場を失い、田舎の領地で「療養」することになった。


セドリックは「負けたよ」と笑って身を引き、私の工房の常連客になった。

(ルシアンは毎回睨んでいるけど)


マーガレットは工房の経営責任者に昇進し、毎日忙しそうに帳簿をつけている。


フィンは相変わらずおっちょこちょいだけど、「旦那様が幸せそうで良かった」と泣いていた。


そして私は——


「エレノア」

「何?」

「今日のアイスは」

「まだ朝よ?」

「……待てない」

「我慢して」

「……」

「その顔やめて。犬みたい」

「犬でいい。お前の犬になる」

「いらないわよ!」


——毎日、甘くて騒がしい日々を送っている。


三年間の苦労は、まだ完全に消えたわけじゃない。

でも、これからゆっくり、埋めていけばいい。


私は私の人生を生きる。

彼は、その隣にいる。


——それで、十分だ。


「ルシアン」

「何だ」

「愛してる」

「……っ」

「聞こえなかった?」

「聞こえた」

「なら、返事は?」

「……お前の方がチョロい」

「それ返事じゃないでしょ!」


笑い声が、朝の屋敷に響いた。


甘い苺の香りと一緒に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ