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私たちの地球

 息を吸っても吐いても血の匂い。呼吸をしても上手く肺に空気が入っていかないから、深く吸おうとする。すると体が異物の侵入を拒もうと咳込んでしまう。その繰り返しだった。

 無機質な建物の残骸にもたれ、私の体は動かない。左腕だけがかろうじて動く程度か。

 目に映るのは月の明かり。それに照らされた、立ち込める塵。震える左手を伸ばすと、塵たちは私から逃げるようにゆらゆらと、煌めきながら舞って行った。


「もう、いいよね。人間なんてさ。どうでも」

 

 頬をつたって垂れてきた涙が口に入る。血の味がした。

 

 私はこの世界に害を成してしまったのだろうか。人も動物も、植物も土も風も大好きだったはずなのに。

 おそらく、私は間違ったのだろう。様々なことを。


 これまでの人生、何から思い出せば、この痛みを和らげてくれるだろうか。過去に思いをはせると、じわじわ、じわじわと遠のいていく意識に抗える気がした。あれは確か・・・


【10年前】


「皆さんも、もうすぐ立派な15歳。つまり、『15の天啓』について考えなければいけない時期です。将来の夢がもう決まっている人は、何になりたいか、何をしたいか、先程の紙に書いて提出してください。その職業の方を学校にお呼びして、どんな願い事がその職業に有利なのか聞くことが出来ますから。明確に夢が定まっていない人は、興味のある職業を書くというのも、先生は良いと思いますよ」

 

 周りには、迷わず書き始める人もいれば、隣と話し始める人もいた。私はもちろん迷わずに書いた。

 

【この頃から夢は既に決まっていたよね。『地球渡り』だ。色々な天体の現地調査をする仕事。まだ見ぬ動物、植物、人、文化。小さなころから動物図鑑や植物図鑑が愛読書だった私にとって、想像するだけで浮足立つ夢の世界だった。】


「職業説明会は来週の予定です。このクラスで最も誕生日が早いのは・・アヤだね。アヤはちょうど半年後。15歳の誕生日に『15の天啓』を授かることになります。ゆっくりじっくり考えてくださいね。ということで、今日はより理解を深めるためにも『15の天啓』について今一度、授業をしますね」


【フィーネ先生、好きだったなあ。怒ると怖いけど、面倒見が良いし。お母さんみたいな人だった。家で嫌なことがあると、よく泣きついていた気がする。その度に優しく私を抱きしめ、頭を撫でてくれた。たまに内緒で、キャンディーをくれたっけ。】


「『15の天啓』はこの宇宙で私たち“地球人”だけに与えられた力と言われています。15歳の誕生日を迎えると、一つだけ願いが叶い、自分を変えられる。でもこれには注意点があるよね。一つは“願いが具体的であること”。他に覚えてる人いるかな?」


「はい!」ニコが元気に手を挙げた。「えーと、願いには制限があるということです。特に、元来人間に備わっていない力に対しては、その制限がより厳しくなります。『空を飛べるように』とお願いしても、大体は少し浮くだけになる。それなら跳躍力を強化したほうが、制限も緩く、結果的に良い場合も多いです」


「その通り。さらに最も注意すべきなのは、対価を差し出してはいけない、ということ。これに関しては危険すぎて人権上研究が進んでいませんが、『歩けなくなっても良いから、空が飛びたい』のようなお願いをしてはいけないということです。自分が差し出した対価と引き換えてくれるかは分からないのです。もしかしたら、目が見えなくなるかも。人ではなくなってしまうかも。だから国はこれを全面的に禁止にしているんです」


【進学する子たちは大体、脳の機能向上に願いを使っていた気がする。記憶力、情報処理能力、空間認識力などなど。そういった願いの人たちを少しばかり軽蔑していた私も、結局のところ同じ“機能向上系”の願いになってしまうのだが。せっかくなら“超常系”も試してみたかったなあ。】


 紙に「地球渡り」とでかでかと書いた。本物の地球渡りに会うなんて初めてだ。いったいどんな人が来てくれるんだろう。


【彼女とは、そこで初めて出会うことになる。懐かしいな。この時点ではまだ間違いを起こしていない、そう思うことにした。】


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