表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

あやかし・妖怪

風鈴峠

作者: 彩瀬あいり

小説家になろうラジオ大賞の参加作品。

目指したものは「日本昔話」です。


 木枯らしが吹く中、男は急ぎ峠を越えようとしていた。

 陽はすでに山の端にかかり、闇が背後に迫りくる。しかし先の村で、危ないからと強く引き留められたところを振り切ったのは己だ。

 野宿を覚悟したところで頬に当たる雫がひとつ。

 雨。厄介なことだ。

 空を睨んだとき、ちりんと鈴のような音が届いた。

 耳を澄ませ、音の鳴るほうへ目をやると、薄暗い木立の奥から聞こえるようだ。

 意を決し足を踏み入れる。ぬかるんだ土を踏みしめながら進んでいくと、寂れた庵が現れた。明かりが漏れ、ひとの気配が感じられる。


 これは天の助け。雨宿りさせていただこう。


 男は戸を叩く。


 急な雨に遭って往生している。軒先を貸していただけまいか。


 すると若い女が姿を見せた。

 夕餉の支度でもしていたか、漂う匂いに思わず喉が鳴る。

 中へ入ると他にひとの気配はない。ぽたぽたと雫を垂らす男に、女は手拭いをくれた。礼を言って受け取り顔を拭く。


 はよう、こちらへ。火にあたってくりゃれ。


 女人がひとりで住まう家に上がりこむのはと躊躇(ためら)ったものの、誘ったのはあちらである。

 男はそろり近づいた。

 囲炉裏端へ座ると、女は火にかかった鍋から汁を椀へ注ぎ、差し出してきた。刻んだ根菜と茸が入った雑炊。手のひらから伝わる熱に、男は体の冷えを自覚する。

 まずはひとくち。

 たちまちに食欲を刺激され、貪るように食った。

 誘われるままに盃を傾け、杯を重ねる。

 旨い酒、微笑む女。

 雨宿りも悪くない。



 酩酊する頭に鈴の音が響いた。

 視線を向けると、軒先に揺れる風鈴がひとつ。

 秋も深まった時分になんとも季節外れなことである。


 外れといえば女もそうだ。

 襦袢のみをまとい、夕涼みでもしているような気怠さに、色香が纏う。


 つと、女が傍に寄った。

 まろびでる乳房に、ごくりと喉が鳴る。女の細い指が男の膝頭を這い、唇が甘い息を吐く。

 女に口を吸われ、驚きに息を止めた。

 氷でも含んでいるような冷たい舌が絡む。

 触れた肌は、雨に打たれた己よりも遥かに冷たく、せっかく温まった体の熱が奪われていった。腕にも力が入らず、押しのけられない。見た目よりもずっと重たい女に腕を、足を絡められ、身動きが取れなくなる。


 ああ、久方ぶりの獲物じゃ。冬籠りの前に蓄えさせてもらおうぞ。


 女の口が横に裂け、チロリと細い舌が覗く。

 肌には鱗のような模様が幾つも浮き出ていた。


 混乱の最中(さなか)、男は村人の言葉を思い出す。


 雨の夜、風鈴の音に誘われてはならぬ。

 大蛇に魂を喰われるぞ。





目指したものは、微エロです。


ちなみにこの男。

日没が近いにもかかわらず、急いで先に行こうとしている時点で、お察しといいますか。

なんぞ悪いことでもやらかして逃げている状況なので、こうなってもまあ、うん。

そういうことです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
色香が! 色香が半端ないです……! 短いのに、すごい……!
きゃー!えっち! 昔話×ホラー×えっち 相性いいですよねぇ(*´꒳`*) おもしろかったです!
面白かったです。 まだ規制が緩かった時の日本昔話ですね。教訓は「夜に出歩くな」「人の忠告は受け入れろ」ってところでしょうか。悪人だったのでOKですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ