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元公爵令嬢の嗜みは『魔力による身体強化(G耐性)』ですわ?~追放先で戦闘機乗りになった私、生意気な相棒と引きこもり天才魔女に振り回されています~  作者: 速水静香
第四章:日常

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第十七話:気分転換と引きこもり魔女


 あれから、どれくらいの時間が過ぎ去ったのか。

 この『基地』の中は、相変わらず、外の世界とは切り離された、無機質な時間が流れ続けている。

 白々しい照明が、シビルが決めた『時間割』通りに点灯し、そして消灯する。


「――遅い! お嬢様! 今の旋回で魔力強化の展開がコンマ一秒遅れたぞ! 実戦なら、その隙に、貴公の貧弱な肉体は、Gで潰されて意識を失っている!」

「んんん……! うるさいわね! こっちは、必死にやっているのよ!」


 そう。

 あの『竜害』と呼ばれていたトカゲとの実戦は、どうやら夢ではなかったらしい。私の体には、あの『射出ランチ』の衝撃と、音速を超えた機動で全身を押し潰しにかかってきた、本物の『G』の記憶が、まだ、生々しく残っている。

 そして、あの日以来、私への『お仕置き』……いえ、『訓練』が手ぬるくなったわけでは、まったくない。

 むしろ、逆だった。


『ったく、貴公の貧弱な能力には、本当に驚くかぎりだな』


 私の頭の中に直接響いてくる、このクソ生意気な『相棒』――イーグルの『声』は、相変わらず、私の神経を逆なですることしか言わない。

 あの『仮想空間シミュレーター』での地獄の訓練は、さらに苛烈さを増していた。


 シビル曰く『実戦データに基づいた、より効率的な負荷プログラム』だそうだけれど、要するに、私が失神寸前になった、あの『G』のパターンを、形を変えて、何度も何度も繰り返し叩き込まれているだけじゃないの!


 それだけなら、まだ、よかった。


 ゴオオオオオオオオオオオオオッ!


「きゃあああああっ!?」

『……コレット! シミュレーターで泣き言を言っている暇があるか! 本物の『空』だぞ! 魔力を回せ! 身体強化を維持しろ!』

「わ、分かっているわよ!」


 そう。

 あの悪魔みたいな『マスター』は、ついに、シミュレーターだけでは飽き足らず、私を、本物の『鉄のイーグル』に乗せて、開拓村アステルの遥か上空で、『実践訓練』なるものまで、開始しやがったのだ。


 もちろん、敵がいるわけじゃない。

 ただ、音速を超えた速度で、あの上空を飛び回り、シミュレーターでやった、あの無茶苦茶な『機動』を、今度は、本物の『G』を受けながら、やらされているだけ。


 『G』に耐えながら、地上を見下ろす気分が、どれだけ最悪か。

 あの二人(?)に、理解できるはずもなかった。


『……ふむ。ようやく、機体が安定してきたな。……いいぞ、コレット。その調子だ。そのまま、この天才たる私の『研究』に貢献しろ』


 スピーカーの向こうから聞こえてくる、シビルの、どこまでも他人事な『声』。


 とんでもない。


 私は、王宮での退屈な日々には、もう戻りたいとは思わないけれど。

 かといって、この、いつ意識を失ってもおかしくない『訓練』と、あの味気ない『栄養バー』だけの毎日が、素晴らしい人生だとも、到底、思えなかった。


 王宮の『閉塞感』とは、まったく違う種類の『閉塞感』。

 それが私を、この薄暗い基地の中で、少しずつ、確実に蝕んでいるのを私は感じていた。



 その日の『訓練』が、ようやく終わり。

 私は、コックピットから這い出すと、ゴーレムに抱きかかえられるという屈辱を、なんとか回避し、自分の足で、フラフラになりながらも、あの『管制室』へと向かっていた。


 文句を言ってやらなければ、気が済まない。

 主に、食事について。


「……シビル!」


 あの『城壁』みたいな金属の扉が開くと、そこは、昨日と何一つ変わらない光景が広がっていた。

 壁一面に埋め込まれた、無数の光る『板』が、私には理解できない文字や図形を高速で明滅させている。

 そして、部屋の中央。

 あの悪趣味な『玉座』に、子供のような容姿の彼女が、ふんぞり返っている。


「……なんだ、コレット。……今日の訓練データは、なかなか良かったぞ。お前のG耐性が、確実に向上しているのが、グラフからも見て取れる。……人体に対する、私の負荷プログラムが、いかに優れているか……」

「そんなことは、どうでもいいのよ!」


 私は、シビルの自画自賛を、叩き切るように遮った。

 シビルは、心底、信じられないものを見るかのように、私を見返した。

 自分の『研究』の話を遮られたのが、よほど、お気に召さなかったらしい。


「……この天才の『研究』が、どうでもいい、だと?」

「そうじゃないわよ! いえ、そうだけれど! ……それよりも、もっと、大事なことがあるでしょう!?」

「……大事なこと? ……ふむ。私の『研究』以上に、大事なことなど、この世界に存在するとは思えんが」

「食事よ! しょ・く・じ!」


 私は、一歩、『玉座』に近づいて、ビシッ! と、その小さな主人を指差してやった。


「……食事?」


 シビルは、本気で、何を言われているのか、分からない、という顔をしていた。

 ダメだわ、この子。

 『食』に対する、関心が、ゼロどころか、マイナスだわ。


「そうよ! いくらなんでも、毎日、毎日、あの味のない、ボソボソした、粘土みたいな『栄養バー』だけっていうのは、あんまりじゃないの!? 私、あの『竜害』を、命がけで、やっつけたのよ!? 少しは、ご褒美があったって、いいんじゃないかしら!?」

「……ご褒美?」


 シビルは、私の必死の訴えに、さらに首をかしげた。


「……コレット。お前は、あのトカゲを倒したことで、『データ』という、これ以上ない『報酬』を、私に提供してくれたじゃないか。……私からも、お前のG耐性が上がったという、素晴らしい『結果』を提示してやっている。……これ以上に、何を望むというんだ?」

「……私が、望んでいるのは、そんな、訳の分からない『データ』じゃなくて! まともな! 温かい! 食べ物なのよ!」


 王宮で食べていたような、贅沢なフルコースを望んでいるわけじゃない。

 ただ、あの『栄養バー』以外の、何か。

 せめて、温かいスープの一杯でも……!

 私が自分で作るから、と申し出ても、この子は首を縦に振らなかった。


「……コレット。お前の『非合理的な要求』は、理解に苦しむな」

「非合理的ですって!?」

「そうだ。……あの『栄養食』は、この私が、この基地の技術と、私の魔法知識を総動員して、ゴーレムに作らせている、手間暇かけた『食事』だ。……栄養バランス、摂取効率、保存性、その全てにおいて、お前たちが、あの王都で食べていたような、『料理』とは、比べ物にならん」


 シビルは、心底面倒くさそうに続けた。


「だいたい、お前が『まともな食べ物』などと称して、栄養バランスの偏ったものを摂取してみろ。……お前から収集している、貴重な生体データに『誤差』が生まれるだろうが! そんな『データ汚染』は、私の研究において、最も許容できん事態だ」

「で、データ汚染ですって!?」


 私が料理をすることが、データ汚染!?


「……それに、『味』がない、と言ったか?」


 シビルは、私に向かって、心底、馬鹿にしたように『講義』を始めた。


「……味?……味覚というのは、生物が、その食物に、毒があるか、腐敗していないか、あるいは、カロリーが高いかを、判別するための原始的な『センサー』に過ぎん。……私の『栄養食』は、その全てをクリアしている。毒もなく、腐敗もせず、必要なカロリーや栄養素が計算されている。……それに『味』などという、非合理的な『センサー』を、喜ばせるためだけに、無駄なリソースを割く必要が、どこにある?」

「…………」


 開いた口が、塞がらなかった。


 ダメだ。


 この子に『食の喜び』を説こうというのが、土台、間違っていた。

 この子にとって、食事は、文字通りの『燃料補給』でしかないのだ。


「……はあ」


 私は、がっくりと肩を落とした。

 もう、何を言っても無駄だわ。


 私が、諦めて、この『管制室』から、立ち去ろうとした、その時だった。


「……ねえ、シビル」


 私は、ふと、思いついた。

 食事で、ダメなら。

 別の『要求』なら、通るかもしれない。


「……なんだ。まだ何か『要求』があるのか?」


 シビルは、もう、私との会話を打ち切って、手元の『板』の解析作業に、戻ってしまっている。


「……たまには、外の空気を吸いたいわ」


「…………は?」


 私の、その一言に。

 シビルの、あの高速で『板』を叩いていた指が、ピタリ、と止まった。


 シビルは、ゆっくりと、ゆっくりと、その赤い『瞳』を、私に向けた。

 その顔には、さっき、私が『食事』の文句を言った時とは、比べ物にならないほどの、純粋な『信じられない』という感情が浮かんでいた。


「……そと? ……『外』だと?」


「ええ、そうよ。……この『基地』の中は、便利で、安全で、清潔だけれど。……さすがに、この薄暗い『地下』と、あの狭い『コックピット』の中だけの生活には、息が詰まるわ」


 王宮での、息が詰まる『お人形遊び』。

 それに比べれば、命の危険があるだけ、まだ、マシだけれど。

 でも、これも、別の意味での『牢獄』じゃないの。


「……だから、気分転換に、ここから、あの村まで地上から、少し歩いてみようと思うのだけれど」


 私が、そう提案すると。

 シビルは、心底、信じられないものを見るかのように、私を見返した。


「……コレット。お前、正気か?」

「正気よ。……まさか、私を、この『基地』から、一歩も出すつもりはない、なんて、言わないでしょうね?」

「……いや、そういうわけではないが……」


 シビルは、珍しく、歯切れが悪そうに視線を泳がせた。


「……『外』、だと? ……開拓村アステル、か?」

「そうよ。……何か、問題でもあるの?」

「……問題だらけだ」


 シビルは、その『玉座』から、ぴょん、と飛び降りると。

 私の周りを、まるで、貴重な『実験動物』が逃げ出そうとしているのを止めようと、必死で説得するかのように、ぐるぐる、と歩き回り始めた。


「……いいか、コレット。……まず、『外気』だ」

「……外気?」

「そうだ。……あの『外』の世界は、お前の目には見えない『毒物』で、満ちあふれている」


 シビルは、その小さな指を、一本、立てた。


「……第一に、花粉だ」

「……はふん?」


 聞いたこともない単語。

 いや、違う。

 前世の記憶が、知っている。

 春先に、鼻がムズムズする、あの忌まわしい『粉』のことだわ!


「そうだ。……植物が、生殖のために、無差別に、大気中に、ばらまいている、微小な『粒子』だ。……あれが、人間の粘膜に付着すると、くしゃみ、鼻水、目のかゆみ、といった、『アレルギー反応』を引き起こす! ……そんなものに、私の貴重な『研究素材パイロット』が、晒されてみろ! 訓練効率が著しく低下するだろうが!」

「…………」


 この子、本気で言っている。

 私の心配じゃなくて、『研究素材』の心配をしているわね!


「……第二に、細菌とウイルスだ」


 シビルは、二本目の指を立てた。


「……この『基地』の中は、私の魔法と、異世界の『空調技術』によって、『無菌状態』が保たれている。……だが、一歩、外に出れば、どうだ? ……土埃、動物のフン、そして、あの村の連中が、吐き出す息! ……その全てに、未知の『病原体』が、うようよしている!」

「う、うようよ……」

「そうだ! ……万が一、お前が、そんな、訳の分からない『病気』にでも、感染してみろ! ……お前という、唯一無二の『研究素材』が、機能停止したら! 私の『研究スケジュール』が、どれだけ、狂わされると……!」


 この子に言わせれば、外の世界は、花粉と細菌に満ちあふれた、地獄みたいな場所、らしい。

 そして、私は、その地獄から守られるべき『素材』、というわけね。


 じゃあ、ここに来るまでの私は、そんな地獄に住んでいたのか?

 そんなわけがない。


「……もう、いいわよ」


 私は、こめかみを押さえて、シビルの『講義』を遮った。


「……要するに、あなたは、私を、外に出したくない、というわけね」

「……当たり前だ」


 シビルは、フン、と鼻を鳴らした。


「……それに、これが最も『非合理的』な理由だが」

「まだ、あるの……!?」

「……あの村の連中の『噂話』だ」


 シビルは、心底、うんざりした、という顔で、そう、吐き捨てた。


「……噂話?」

「そうだ。……あのトカゲを撃退して以来、あの村の連中は、どうやら、この『基地』……正確には、この『基地』がある、この岩山を『聖域』か、何かと、勘違いし始めたらしい」

「あー…………」


 なんとなく、想像がつくわ。

 あの『竜害』が、空から降ってきた『銀色の流星』に、一瞬で消し炭にされたのだから。

 神様か、何かの仕業だと、思っていても、おかしくない。


「……私のゴーレムが、買い出しに行くたびに、あの村の連中が、まとわりついてきて、『魔女様は、いらっしゃいませんか』だの、『どうか、お姿を一目』だの……」


 シビルは、あの村人たちの『声色』を、気持ち悪そうに真似てみせた。


「……ああ、うるさい!……私の『研究』の邪魔にしかならん!」


 シビルは、本気で、イライラしているようだった。


「……なるほどね」


 私は、ようやく、全てを理解した。

 この子は、ただ、外に出るのが、面倒くさいだけじゃない。


 人と関わるのが、死ぬほど嫌なのよ。


 正真正銘の『引きこもり』ね。


「……分かったわ。……じゃあ、あなたは、この『安全な無菌室』に、ずっと、引きこもっていればいいわ」

「……む。引きこもり、とは、なんだ。私は、ただ、合理的な『研究生活』を……」

「……でも、私は行くわ」


 私が、そう、きっぱりと宣言すると。

 シビルは、ギョッとしたように目を見開いた。


「……お、お前、本気か!? 許可しないと言ったはずだ! 私の『研究素材』が……!」

「ふざけないで!」


 私は、シビルの言葉を遮った。


「このままじゃ、こっちが息が詰まっておかしくなるわよ! いいこと、シビル? パイロットにだって、ストレス管理は必要なの! このまま、こんな場所に閉じ込められて、ストレスで私の魔力が乱れたら、どうなるかしら?」

「……なっ」


「あなたの、あの『訓練』にだって、まともに協力できなくなるかもしれないわね!」


 私の『脅し』に、シビルは、一瞬、言葉を失った。

 その赤い『瞳』が、高速で、何かを計算するように、チカチカと動いている。


「……むむっ!私を脅すだとっ……!どうすれば……どうすれば……」


 シビルが、渋々、といった様子で、ブツブツと呟き始めた。


 よし、効いているわね!


「……だから、私があの村まで、お使いに行ってきてあげるわ」

「……お使い?」

「そうよ。……あなた、ゴーレムで買い出しに行くのが、面倒だって、言っていたじゃない」

「……ふむ」


 シビルは、口ごもる。


「……私が、その代わりに、村で、あなたの『貴重な研究』に必要な食料でも、何でも、買ってきてあげましょう。……その代わり、私に外の空気を吸うくらい、認めてちょうだい」


 私が、そう『取引』を持ちかけると。

 シビルは、しばらく、その赤い『瞳』で、私を、じーっ、と値踏みするように見つめていた。


 『研究素材』として留め置くためと、『買い出し』の効率化。


「…………ふむ」


 やがて、シビルは、その『玉座』に、よじ登ると。

 手元の『板』を、いくつか操作し始めた。


「……あまり推奨はしないが。まあ、いいだろう」


 シビルは、私に背中を向けたまま、ぶっきらぼうに、そう呟いた。


「……お前の『ストレス』という、精神的かつ、非合理的な『変数』が、私の『データ収集』に悪影響を及ぼす、という『可能性』は、確かにゼロではない。……特別に許可する」

「……素直に、外出してもいい、とは言えないのね、あなたは」

「……それと、ちょうど、基地の備蓄、特に『新鮮な野菜』と『高品質な肉類』が、底を突きかけていたところだ」


 ……やっぱり!

 私の『申し出』は、この子にとっては、渡りに船、だったというわけね!


「そこでだ」


 シビルは、そう言うと、パチン、と指を鳴らした。

 すると、管制室の隅の暗がりから。

 ゴウン、ゴウン、ゴウン、と、重い足音を立てて、『それら』が、現れた。


「…………!」


 三体ものゴーレム。

 でも、それは、私が、この『基地』で、見慣れていた、あのゴツゴツとした『岩石』の巨人ではなかった。


 大きさは、私と、同じくらい。  

 人間サイズ。  

 そして、その『体』は、岩ではなく、鈍い光を放つ『金属』で出来ていた。  

 顔があるべき場所は、のっぺりとした『金属板』で、そこには、シビルの『趣味』なのか、赤い『一つ目』のようなレンズが、はめ込まれているだけ。


 前世の記憶が、これは『ロボット』と呼ぶべきものだ、と、私に教えてくれる。


「……こいつらは、いつも買い出しに行かせている『運搬用』の個体だ。村の連中も見慣れている」


(……これらが、日常的に、あの村へ……?)


 まあ、あの魔獣を粉砕した岩石の巨人よりは、威圧感がなくて、いいかもしれないわね。


「荷物の運搬用で、戦闘用ではないが、この周辺のモンスターくらいは、問題なく倒せる。お前一人の護衛くらいは、楽々とこなせるだろう」

「……ご丁寧に、どうも」

「ああ、もちろんだ」


 シビルは、もう、私に興味を失ったかのように、手元の『板』の解析作業に、戻ってしまっている。  

 そのシビルが、何かを、私に向かって、ポイ、と投げてよこした。


「……!」


 私は、慌てて、それを受け止めた。

 ずしり、と重い革袋。

 チャリン、と、金属が擦れ合う音がする。


 金貨。


 そして、もう一つ。

 羊皮紙(?)のような、紙切れ。

 そこには、シビルの几帳面な文字で、びっしりと、何かが書き込まれていた。


「……なにこれ」

「……『買い物リスト』だ」

「…………」


 私は、その『リスト』の、一番、最初に書かれていた文字を見て。

 再び、こめかみが、ズキズキと、痛むのを、感じずにはいられなかった。


『最高品質の肉(赤身)、五十キログラム』

『新鮮な葉物野菜、合わせて百キログラム』

『根菜類、各コンテナ一杯』

『卵、五百個』

乳製品チーズ・バター、可能な限り』

『その他、旬の果物、山盛り』


「少なくとも、これくらいは買ってこい」


 シビルは、こちらを、振り向きもせずに言った。


「……はぁ」


 私は、その『リスト』を、黒いジャージの懐に、ぐい、と突っ込んだ。

 周囲にいるゴーレムが、金貨の入った革袋を担いでいる。


「……行ってくるわ」

「……ああ。……私の『研究』の邪魔にならないよう、さっさと済ませてこい」


 私は、シビルの、どこまでも、自分勝手な『声』を背中で聞きながら。


 『金属のゴーレム』たちを、引き連れて。


 私を、この『基地』へと導いた、あの『インターフォン』のある、第一ゲートへと向かっていった。


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