第二次南太平洋海戦
第二次南太平洋海戦
1943年10月。ソロモン諸島に攻撃を加えていた日本艦隊は、アメリカの大規模なソロモン救援艦隊の接近に対し、急ぎ迎撃案を策定した。
それは大まかに言うと、まず南太平洋に展開していた潜水艦隊が米艦隊を攻撃し、次いで連合艦隊が止めを刺す。という物だった。
米ソロモン救援艦隊の動きは日本の潜水艦に掴まれており、絶えず情報が通話魔法でもたらされ、ソロモン諸島への予想針路が割り出されていた。
その予測に基づき潜水艦隊は配置され、戦艦陸奥に先導された連合艦隊も気取られぬよう移動していた。
そして遂に潜水艦の攻撃予定海域、ソロモン諸島東方南太平洋海上に達した米機動部隊に対し、潜水艦隊の襲撃が始まった。
日本の潜水艦は予想針路で待ち伏せており、通話魔法によりもたらされる最新情報に基づき、常に位置を修正していた。
よって待ち伏せ攻撃に参加した大部分の潜水艦が、米艦隊に対し好位置から雷撃を行えたのである。
ソロモン諸島周辺海域に展開していた潜水艦隊は、旗艦に中程度の性能の魔法大杖と元陸奥乗員が配置され、隷下の潜水艦には中程度の性能の魔法杖と元陸奥乗員が配置されていた。
今海戦に参加した潜水艦隊は、哨戒任務中の潜水艦部隊からの情報を元に艦隊行動を指示し、旗艦が主な索敵を行いつつ的確に部隊配置を行っていた。隷下の潜水艦が持つ中程度の魔法杖は、探知範囲が数kmから十数kmなため、旗艦の通話魔法による部隊配置が重要だった。
潜望鏡を上げず、航跡の分かり難い酸素魚雷を用いた雷撃は、米艦隊に直前まで気付かれる事なく突き進み、輪形陣に護られている複数の空母や巡洋艦に命中したのであった。
さすがに全艦同時発射とはいかず、回避された雷撃もあったが、潜水艦隊による襲撃は成功したのである。
潜水艦隊は米艦隊の混乱に乗じ離脱し、発見される事なく米艦隊から距離をとった。
潜水艦隊は再度攻撃を行う機会を伺いつつ、態勢を整えるのであった。
潜水艦隊の攻撃は空母撃沈とはいかなかったが、複数の空母に損傷を与え速度の低下を招いていた。
米艦隊はそれでも撤退はせず、なおもソロモン諸島を目指していた。
■
陸奥が先導する日本艦隊は、探知魔法で米偵察機を避けつつ進み、時には潜水艦を排除し、日没までに米艦隊との距離をある程度詰める事に成功していた。
日没後、陸奥は艦隊から離脱し、単独行動を開始した。
日本艦隊は、高速艦隊を分離し先行させ、米艦隊の予想針路へ速度を上げ直進していった。
一方戦艦陸奥は進路を変え、迂回しながら米艦隊左翼正面へと高速で向かった。
「今回の作戦は陽動の役目とはいえ、かなり無理をする事になるな」
「さすがに被弾は免れないでしょうね」
「陸奥の防御力がどれほどの物か、ようやく分かるわけだな」
単艦で米艦隊に攻撃を仕掛ける戦艦陸奥であったが、艦長も副長も余裕があった。
「米艦隊に動きが見られます。陸奥の接近に気付いたと思われます」
「敵の水上電探に捉えられたのでしょうね」
「そうだな。しかし、やる事は変わらん」
米艦隊は戦艦陸奥の接近に気付き、陣形を変え始めた。
「米艦隊の輪形陣、主砲の射程内に入りました!」
「距離3万5千mで攻撃を開始する。目標は輪形陣左翼外縁の駆逐艦。三式弾を1発ずつ撃ち込んでいくぞ」
陸奥の砲術士官は今では全員が思考加速の技能を習得しており、砲術士官達が方位盤で照準を合わせる操作が異常に早く精確で、主砲1門で1隻の目標を立て続けに攻撃する事ができた。
つまり、8門の主砲で8隻の目標を続けざまに砲撃できるのだった。
戦艦陸奥は異世界の勇者となり、位階を99に上げた事により射撃精度の器用値が上昇し、遠見・暗視・命中補正・限界突破の技能により、等速で直進する目標には最大射程でも命中させられた。
しかしその能力を引き出していたのは、照準を行う砲術士官でもあった。
いかに精度の高い砲撃でも、照準が誤っていれば外してしまう。
陸奥の砲術士官達は、思考加速の技能も合わさり、神業集団となっていた。
距離が3万5千mを切り、「撃ち方始め」の号令一下、8発の三式弾が間をおかず次々と撃ち出されていった。
少しでも着弾の時間差を縮めるため、陸奥から遠い目標から砲撃を行った。
着弾直前に、陸奥が攻撃を開始する旨を日本艦隊に打電した。
陸奥の主砲に狙われた米駆逐艦は、全て等速で直進していたため、全弾命中しその悉くを撃破した。
米艦隊は陸奥の接近により空母と輸送船を退避させており、米戦艦部隊が左翼側に展開していた。
米戦艦部隊とその護衛部隊が、陸奥の前に姿を現す形となっていた。
陸奥は、退避中の米空母部隊と輸送船の位置や針路を高速艦隊に打電し続け、米戦艦部隊との距離を詰め陸奥単艦での砲戦を継続した。
陸奥の全力斉射は、8発の徹甲弾が全て命中する事になる。
とはいえ相手は米戦艦であり、侮りがたい相手であった。
砲弾威力を高めるため、また戦艦部隊を引き付けるため、砲戦距離を2万mまで縮め撃ち合った。
米戦艦を中破相当にまで打ちのめし、護衛の巡洋艦や駆逐艦は大破または撃沈した。
しかし今回ばかりは陸奥も被弾した。40.6cm砲弾と思しき物を多数被弾してしまった。
甲板の木材が弾け、機銃が吹き飛んだ。しかし被害はその程度であった。
後で被弾した装甲を確認しても、何の痕跡も見付けられなかったのであった。
防御力で防いだのか、はたまた自己修復で修復されたのか。いずれにしろ40.6cm程度の砲弾では、陸奥はびくともしない事が判明した。
さすがに弾け飛んだ木甲板や機銃は、自己修復の対象外であったようだった。
破片を集めれば修復は可能と考えられたが、現実的ではなかった。
戦艦陸奥は戦闘能力が低下した米戦艦部隊を放置し、日本艦隊主力から分離した高速戦艦部隊の支援に向かった。
米戦艦部隊の止めは、後に到着する予定の主力の戦艦部隊に譲ったのである。
高速艦隊は、退避中の米空母や輸送船へと攻撃を仕掛けたが、護衛の駆逐艦に阻まれ仕留めきれず、煙幕を展張され空母への攻撃が徹底できていない状態だった。
このまま朝を迎えれば、米空母の航空機による反撃の恐れがあった。
戦艦陸奥が高速艦隊に合流し、米空母への誘導を行い、水上偵察機による米空母に対する照明弾の投下や、探照灯照射による方向指示、高速艦隊の砲撃の着弾観測までも行った。
陸奥の水上偵察機搭乗員は遠見・暗視技能と探知魔法が使え、陸奥は遠見・暗視・限界突破で煙幕展張下でも見通せ米空母を見つける事ができた。
戦艦陸奥が米空母を沈めてしまう事は当然できるのだが、今回は戦果を譲る事になっていたのであった。
今回の事により、高速艦隊に配備されていなかった魔法杖と元陸奥乗員や、水上電探を求める声が高まった。
「ここまでお膳立てをする必要があったのでしょうか?」
「陸奥だけが戦果を独占するわけには、いかんだろうからな」
陸奥の艦長と副長は苦笑を浮かべるのであった。
陸奥と高速艦隊が追撃を終える頃、日本の主力艦隊である戦艦部隊が、残存する米戦艦部隊に止めを刺すべく砲撃戦を行っていた。
既に中破相当の米戦艦部隊に勝ち目はなく、第二次南太平洋海戦は連合艦隊の勝利に終わった。
それは、連合艦隊が求めてやまなかった、まごう事なき完全勝利であった。
ソロモン夜襲から第二次南太平洋海戦にかけて、そして通商路の対潜哨戒でも、陸奥が異世界から持ち帰った魔法や技能、そして戦艦陸奥自身が大いに活躍した。
異世界に召喚された陸奥乗員達が予想したように、魔法や技能は対米戦争を好転させたのである。
ニューギニア戦線も、ラエやサラモアで持ちこたえる事ができていた。
ソロモン諸島における米海軍艦船の大量損失や、爆撃機を補給に使わせている事が功を奏していると思われた。
また、ラエやサラモアへの補給も改善しており、日本軍全体でも持ち直している状況といえた。
日本軍はソロモン諸島に残る連合国軍を囮とし、米艦船や航空機を継続して誘き寄せる方針だった。
ガダルカナル島、餓島といわれたその島の、意趣返しを行う計画だったのである。
ソロモン諸島の餓島化は、主に潜水艦隊と水雷戦隊、補給物資の空中投下を行う米爆撃機とその直掩機対策に迎撃戦闘機が担い、度重なる激戦を戦い抜いた戦艦陸奥は、内地へと帰還した。
戦艦陸奥からは異世界に行った乗員達が、現状の戦闘力を維持できる者を残しさらに引き抜かれる事になった。
これに伴い、かねてから準備されていた陸奥の改修が行われた。
最新の電探が取り付けられ、水上偵察機を新型の瑞雲とするため改修された。
戦艦陸奥は改修を受け入れ、電探は技能の影響を受けた。
遠見・限界突破の技能でる。
陸奥に搭載した対空電探は、数百km先の航空機を探知した。
水上電探も探知範囲が広く、水中の潜水艦をも探知してしまうのであった。
もう高性能な魔法大杖は不要なのではなどという意見も出たが、電探はまだまだ発展途上であり、探知魔法には及ばなかった。
なにより探知魔法は、逆探知される心配が無かったのであった。
1943年12月。改修を終えた陸奥は、再び戦列復帰するのであった。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク・評価・リアクション嬉しく思います!