ソロモンの悪い夢
ソロモンの悪い夢
1943年9月、戦艦陸奥によるソロモン夜襲作戦が大成功した。
戦果拡大は求めず、速度重視で夜間の間に通り過ぎざまに行われた攻撃は、それでも陸奥の驚異的な命中精度により多大な戦果を上げる事ができた。
これに気を良くした連合艦隊は、戦艦陸奥を最大限活かした作戦を立案した。
ソロモン諸島の制空権と制海権を連合国軍より奪い取る、という思い切った作戦だった。
制空権を奪い取る担当は、主に陸奥であった。
まずソロモン諸島に展開中の米護衛空母を撃破していき、飛行場を砲撃し航空機を地上撃破しつつ可能なら燃料貯蔵庫も破壊し、連合国軍航空戦力が低下したところへ連合艦隊司令長官直卒の主力艦隊が突入するという作戦であった。
当然、一度の攻撃だけでは達成不可能な作戦であり、陸奥によるソロモン夜襲を何度か行う必要があった。
「前回のソロモン夜襲を見るに、護衛空母を削っていく事は可能と思う。やれそうだな」
「はい。この陸奥ならやれるでしょう」
「水上偵察機の探知魔法も含めて、ソロモン諸島を入念に索敵し、確実に護衛空母を見付け出し、仕留めていくぞ」
艦長も副長も前回の夜襲成功により、陸奥に対する絶対の自信を持っていた。
もちろん無謀な事をするつもりはなく、手堅く夜陰に紛れ連合国軍航空戦力を削っていくつもりであった。
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トラック島で補給を行った戦艦陸奥は、報告を終え、新たな作戦が発動した翌日には出撃した。
探知魔法で連合国軍の索敵を避けつつ、ソロモン諸島ブーゲンビル島南西海上へ日没頃に到達。
薄暮の中、一路ニュージョージア諸島ベラ・ラベラ島へ向け突入を開始した。
水上偵察機を上げ、第一目標である護衛空母を中心に連合国軍艦船の捜索を開始した。
前回の夜襲の影響で、米海軍は哨戒艦を多数出しており、警戒が厳重であった。
行き掛けの駄賃とばかりに、ベラ・ラベラ島の米軍と艦船を砲撃し、ニュージョージア諸島を哨戒中の艦艇に対し、主砲の最大射程による砲撃も行った。
直進している艦には見事命中したが、着弾までに転舵されてしまうと、やはり外れてしまうのだった。
今回はニュージョージア島の北側を抜け、護衛空母を捜索しつつ高速でガダルカナル島を目指した。
ガダルカナル島近海で再び水上偵察機を出し、おそらく逃走中であろう護衛空母を捜索させた。
哨戒の駆逐艦が遊弋しており、護衛空母や輸送船はばらばらに退避しているようだった。
ガダルカナル島を再び砲撃しつつ、哨戒艦や逃走中の護衛空母と輸送船を複数隻撃破し、深追いはせずに急速に北上して離脱。夜明け前にはソロモン諸島を抜け出すのだった。
戦艦陸奥はこういった攻撃を継続した。その過程で、水上偵察機が米潜水艦を狩る事もあった。
陸奥は護衛空母を含む連合国軍艦船を沈めていき、多数の魚雷艇を始め輸送船や駆逐艦、巡洋艦をも沈めていった。
5度に渡る戦艦陸奥のソロモン夜襲は、連合国軍航空戦力を低下させていた。
そして遂に、連合艦隊主力が動くのであった。
ソロモン諸島の米海軍戦力低下に伴い、日本海軍艦船の活動が活発となり、ニュージョージア諸島のベラ・ラベラ島とコロンバンガラ島守備隊への、補給が改善していた。
一時は撤退も考えていた守備隊は、息を吹き返したのであった。
また、魔法杖と元陸奥乗員を乗せた潜水艦が、ソロモン諸島への増援や補給を阻害するようになっていた。
ソロモン諸島の連合国軍は、補給が滞るようになっていったのであった。
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1943年9月にソロモン諸島で起きた一連の夜の海戦は、連合国軍にとって悪い夢でも見ているかのような状況だった。
夜と共に現れるその戦艦は、ソロモン諸島の連合国軍拠点や飛行場、艦船を夜陰に紛れ悉く攻撃し、高速で離脱していくのだった。
哨戒の駆逐艦やPTボートを増やし警戒していても効果が無く、むしろ撃破されるばかりであった。
恐るべき事に、PTボート以上の速度を出したという報告もあり、当初推測された複数の戦艦による攻撃ではなく、単独の超高速戦艦による攻撃だと結論付けられた。
日本は、金剛型戦艦を超える大口径砲8門搭載の超高速戦艦を、密かに建造し実戦投入した事になる。
40ノットを超える高速と、大口径主砲の高火力を両立している事から、巡洋戦艦のように装甲は薄いのではないかと推測された。
対抗措置として、戦艦と空母を含むヌーメアの艦隊が派遣されたのだが、ソロモン諸島へ入る前に日本の潜水艦による雷撃で損傷し、撤退する事態になっていた。
驚くべき事に日本の潜水艦の雷撃は、今までに無く隠密性が高く、潜望鏡を上げずに雷撃を行ってきていた。
潜望鏡を上げず、航跡が見え難い魚雷による雷撃のせいで、戦艦と空母を含むヌーメアの艦隊は損傷し、撤退を余儀なくされたのであった。
ニュージョージア諸島の占領地やガダルカナル島には、輸送船を送る必要があるのだが、ソロモン諸島周辺海域の日本潜水艦の活動が活発に、そしてなにより隠密性が高くなった事で、補給は滞っていった。
低速な輸送船では日本の潜水艦の餌食となる確率が高いため、補給物資の輸送は高速な駆逐艦や、爆撃機による空中投下も行われた。
駆逐艦や爆撃機では運べる物資の量が少なく、しかもその駆逐艦は活発化していく日本海軍艦艇の標的となり、著しく駆逐艦が損耗していく状況になっていった。
ソロモン諸島の航空機も、謎の超高速戦艦により飛行場が砲撃され地上撃破されるか、空中退避に成功しても近傍の飛行場が全て破壊されているため、ソロモン諸島から一時的にしろ離れるしかなく、徐々に航空戦力が低下していった。
日本の謎の超高速戦艦の夜襲と、米海軍戦力低下に伴う日本海軍艦艇の活発化により、駆逐艦やPTボート、そして輸送船や護衛空母の損失が相次ぎ、補充が追いつかなくなりつつあった。
優勢だったソロモン諸島は一転して、消耗を強いられる場所となっていた。
夜戦に特化した謎の超高速戦艦と、潜望鏡を上げずに雷撃を行う潜水艦。それらを運用し始めた日本海軍に、連合国軍は未だ有効な対抗策を講じられていなかった。
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1943年10月。ソロモン諸島の連合国軍航空戦力は減少し、遂に連合艦隊主力が出撃した。
戦艦陸奥にソロモン夜襲を命じ連合国軍航空戦力を削っていき、潜水艦隊による中程度の性能の魔法大杖と探知魔法を活かした、ソロモン諸島周辺海域での連合国艦船への攻撃。米海軍の戦力が低下した事で、水雷戦隊が動きやすくなり、ソロモン諸島への補給を妨害できるようにもなった。これにより連合国軍には、かつて日本軍がガダルカナル島をめぐる戦いで経験した消耗を、逆に味わわせる状況になっていった。
そこへ、駄目押しとばかりに連合艦隊主力が総攻撃を開始したのである。
ラバウル・ブーゲンビル島からの航空支援の下、日本艦隊はニュージョージア諸島へ徹底した攻撃を行った。
夜間にはガダルカナル島にも攻撃を行い、ソロモン諸島の連合国軍に大打撃を与えたのだった。
思う存分暴れていた連合艦隊であったが、米機動部隊がソロモン諸島へ向かっている事を察知すると、一旦ブーゲンビル島北方まで引く事になった。
空母戦力で劣勢である事はあきらかであり、ソロモン諸島を奪還し浮沈空母とする時間も、航空機を再配備する生産力も日本には無かった。
米機動部隊を捕捉したのは、哨戒中の潜水艦部隊であり、低性能の魔法大杖と元陸奥乗員を乗せていた。
探知魔法の範囲は十数kmから数十kmであり、通話魔法の届く範囲はは千数百kmから数千kmに及んだ。
元陸奥乗員達は遠見・暗視の技能も当然使えるため、探知魔法以外にも目視による索敵でも活躍した。
捕捉した米艦隊は、空母機動部隊を中核とする、大規模な艦隊であり、複数の戦艦も含まれていた。
アメリカ海軍はソロモン諸島救援に、本腰を入れて乗り出した事が分かった。
これを受けて連合艦隊は、急ぎ迎撃案を策定した。
作戦の中核をなすのは、やはり戦艦陸奥であった。
陸奥は今回のソロモン諸島攻撃においても露払いを行っており、まさに八面六臂の活躍であった。
次の米艦隊迎撃戦でも、陸奥の力を最大限活かした作戦が立案されており、もはや戦艦陸奥は連合艦隊に無くてはならない存在といえるのであった。
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