勇者陸奥実戦投入
勇者陸奥実戦投入
異世界から帰還した陸奥の乗員達は、全員魔法と技能が使える人材となっていた。
艦務訓練に来ていた甲種飛行予科練習生も例外ではなく、貴重な人材となった。
異世界召喚を証明するために軍医が回復魔法を披露した事で、真っ先に軍医達が陸奥から引き抜かれ、連日重傷者達の治癒に当たっていた。
遠からず身体欠損の治癒も可能になるのではと思われた。
戦艦陸奥には自動修復の技能があり、異世界召喚された乗員達は常に健常であり、軍医達の仕事は今のところ無かった。
いざ戦闘となり、陸奥の自動修復が追いつかない程の重症者が出れば、軍医による治療が必要と考えられた。
水上偵察機の搭乗員達は、探知・通話魔法、遠見・暗視の技能を習得しており、現在日本最高の水上偵察機乗りといえた。
引き抜く話もあったが、陸奥の力を最大限引き出すためには欠かせない人材として留め置かれた。
砲術士官も留め置かれた。
陸奥の技能と砲術士官の技能、特に思考加速が合わされば、多大なる戦果が期待できると考えられた。
その他の兵種からは、相当数引き抜かれていった。
特に探知魔法に長けた者は重要な人材とみなされ、引く手あまたであった。
探知魔法に熟練した者が高性能な魔法杖を持った時、特に高性能な大杖を持った時の探知範囲は広く、その距離は数百kmにも及んだ。
もっとも探知魔法はざっくりとした物で、いくら探知範囲が広くとも、索敵ができるかどうかは探知魔法を使う者の知識や練度次第だった。
高性能な大杖は、王国より多数譲渡されているとはいえ数に限りがあり、どう配分するか悩ましいところであった。
海軍だけで独占できれば良かったのだが、陸軍にも分ける事になっており、より効率的な配分が考えられていった。
そんな中、陸海軍が積極的に探知魔法を使える人材と魔法杖を投入しようとしたのが、遣独潜水艦であった。
第三次遣独潜水艦から、中程度の性能の魔法大杖と探知魔法が得意な元陸奥乗員を乗艦させ、敵の索敵を避け時には排除しつつ、ドイツへの往復の成功率を高める事になった。
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戦艦陸奥は乗員を引き抜かれた事で、新たなに加わった乗員と共に訓練を行った。
新たな乗員達は、戦艦陸奥での勤務を10日程こなすと、陸奥の自動修復技能が適応されるようになっていった。
海軍では早くも陸奥の改修案が出されており、最新の電探を搭載し、水上偵察機を新型の瑞雲に変更する案が出ていた。
自動修復技能がある陸奥が、改修を受け入れるのか分からなかったが、新たな乗員に自動修復が適応された事から、改修は問題ないと考えられ、準備を進めつつ折を見て改修する事が決定した。
1943年8月。戦艦陸奥は連合艦隊主力と共にトラック島へ進出した。
戦艦陸奥は燃料消費半減・限界突破の技能により、異常な燃費の良さを誇っていた。
この燃費の良さと、駆逐艦を上回る高速性を活かした作戦が計画された。
陸奥には高性能な魔法大杖が一本残されており、これにより広い索敵能力を持っていた。
さらに水上偵察機には、高性能な魔法杖が支給されており、その探知範囲は十数kmから数十kmに及び、陸奥の索敵範囲をさらに広大な物としていた。
広大な索敵範囲、異常な高速力と燃費の良さ、最大射程でも命中させられる驚異的命中力。これらを活かしたニューギニアからソロモン方面の連合軍艦艇や拠点に対する、陸奥単艦による夜間奇襲攻撃。これが陸奥の士官より立案され、ソロモン夜襲作戦として承認され実行に移される事になったのである。
戦艦陸奥の護衛に巡洋艦や駆逐艦が付けば、速度性能や燃費の大きな違いから足手まといになるため、単艦による奇襲攻撃が選択されていた。
確認できている自動修復や、未確認ながら高い防御力があるであろう事から継戦能力は高く、作戦成功率は非常に高いと見積もられていた。
1943年8月後半頃のソロモン方面は、ガダルカナル島から撤退し、ニュージョージア島からも撤退しつつあった。
つまりソロモン諸島は劣勢であり、激戦が続いており、陸奥の標的となる米軍艦艇が多数遊弋し、目標に事欠かない状況であった。
本作戦では飛行場や小型艦艇が主な目標となる事から、陸奥は三式弾の供給を多目に受けていた。
ソロモン諸島突入は当然ながら日没後に行うとし、地上目標となる連合国軍拠点の選定が行われた。
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1943年9月。戦艦陸奥のソロモン夜襲作戦が開始された。
「いよいよ陸奥の本領発揮が見れるな」
「はい。異世界に召喚され一時はどうしたものかと思いましたが、陸奥は異世界で絶大な力を得られました。現在の陸奥は、世界最強の戦艦です!」
艦長の言葉に副長は力強く答えた。
陸奥はトラック島から南東へ向かい、連合国軍の索敵を避けながら日没と共にソロモン諸島へ進入。高速でガダルカナル島ルンガ泊地へと突入を果たした。
ガダルカナル島の飛行場など地上施設を主砲が攻撃し、目に付く艦船を副砲や高角砲が手当たり次第に攻撃しつつ西へ離脱。
西北西のニュージョージア諸島へ高速で接近し、南側から飛行場など連合国軍拠点や艦船を攻撃。
その後、北北西のブーゲンビル島東の海峡を高速で北上し、一路トラック島へ帰還したのであった。
道中は水上偵察機が常に連合国軍偵察機や潜水艦を警戒し、地上攻撃の際も着弾観測で活躍した。
暗視の技能を持つ搭乗員であるため、夜間偵察も昼間同様に行え、陸奥の遠見の技能でも見通せない地上目標の着弾観測を完璧にこなした。
今回、陸奥の主砲による最大射程の攻撃は行わなかった。
奇襲による効果を最大にするため、最大射程で狙える哨戒艦はあえてやり過ごし、泊地へ副砲の有効射程距離まで一気に接近し、地上目標や艦船を確実に攻撃したのだった。
初回でもある事から、欲をかかず通り過ぎざまに奇襲攻撃を行った。それゆえか反撃を受けつつも無傷で完遂できた。
しかしそれでも多数の艦船を撃沈した。駆逐艦や魚雷艇そして輸送船、中には護衛空母も含まれていた。
つまり、大戦果であった。
「陸奥の力がこれ程とはな、鎧袖一触とは正にこの事か」
「はい。燃料もあまり消費しておりませんし、砲弾もほぼ命中でしたので無駄玉がありません。まごう事無き大勝利です」
艦長が陸奥の力に感嘆し、副長が冷静に戦果を告げるのだった。
戦艦陸奥がトラック島へ帰投し、今回の作戦の成功が報告されると、連合艦隊はさらなる戦果拡大を考えた。
つまり、陸奥が夜間に連合国軍航空戦力を叩き、連合艦隊主力が制空権下ソロモン諸島の連合国軍を叩くというものだった。
艦艇の燃料の問題はあったが、元陸奥乗員の探知魔法使い達と魔法杖を活用した対潜哨戒により、通商破壊を行っていた米潜水艦の駆逐は順調に進んでいた。
これにより輸送船や油槽船の被害が激減し、トラック島への補給も万全になりつつあり、連合艦隊は動きやすくなっていた。
さらに重要な通信に関しても、通話魔法を使った通信により、秘匿性が上がっていた。
暗号解読どころか、当然の事ながら傍受すらされようが無かったためであった。
戦艦陸奥の異世界からの帰還により、日本は局地的とはいえ戦局を好転させつつあった。
お読みいただきありがとうございます。
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推敲していて魔法杖について聴かれるかもと思いまして、活動報告に未熟な者が使った時の探知・通話魔法の範囲を載せました。