戦艦陸奥帰還
戦艦陸奥帰還
戦艦陸奥は異世界から帰還した。
見慣れた島影や戦艦長門・扶桑を始めとした艦艇の姿も見える事から、ここが柱島泊地であり、王国の情報通りなら同じ時間、同じ場所に戻れた事になる。
戦艦陸奥に起こった異常事態を報告するため、また親書を天皇陛下と総理大臣にお渡しするため、陸奥艦長は行動を開始した。
陸奥以外の艦艇は、陸奥の発光現象にまだ動揺しており、一際発光が強くなったあと陸奥が瞬き、陸奥を中心に波紋が広がった事から、陸奥艦内で大きな事故が発生したのではないかと危惧していた。
陸奥の発光現象が止んだ後、陸奥より周囲の艦艇へ異常事態が無事解決した旨が通知されたのだった。
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海軍は陸奥の異常事態の詳細報告を受け、困惑した。
異世界に強制的に召喚され、日本に帰るために魔王とその配下と戦わされ、大量に砲弾を消費し、対価として金を始めとした貴金属等を持ち帰ったと報告してきたからだった。
さらに具体的な証拠として、異世界で習得しこちらの世界でも使える魔法を見せると言い出した。
残念ながら一目で魔法とわかる、火水風土光闇といった魔法は使えなくなっているらしく、こちらの世界でも使え魔法と分りやすい回復魔法を見せるという。
陸奥から同行してきていた軍医により、回復魔法が披露される事になった。
さっそく海軍病院へ移動し、重症の負傷兵が選ばれ、包帯が解かれた状態で魔法がかけられた。
身の丈を超える大きな杖を持った軍医が、負傷兵に回復魔法をかけると、深い傷がみるみるうちに塞がっていき、どこにも傷が見当たらなくなったのであった。
一同驚愕であった。
さらに複数の重傷者が回復魔法によって治癒され、異世界の存在を疑う余地がなくなったのであった。
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戦艦陸奥が異世界から帰還しまず行った事は、魔法や技能が使えるか試す事だった。
火水風土光闇といった属性魔法は使えなくなっており、探知や通話魔法は使用できた。
技能は習得している物は全て使える事が分かり、安堵したのであった。
回復魔法の確認には、一旦艦から降りる必要があった。
艦内で腕に切り傷を付けたところ、回復魔法を使う前に陸奥の技能により修復されてしまったからだった。
軍医達も回復魔法を習得している事は鑑定球で分かっていたものの、実際に使う機会が無く、どんな物か分かっていなかった。
回復魔法習得には医学知識が必要で、習得したのは軍医達だけだった。
艦外で行った実験で回復魔法の効果がある程度分かり、上層部へ披露する時は念のため高性能な大杖が用いられた。
王国側の情報では、回復魔法の熟練度が上がり高性能な大杖を用いれば、身体の欠損も回復できるようになるとあった。
陸奥の軍医達は、王国の回復魔法使いよりも医学知識が豊富であるため、熟練度が上がるまで時間は掛からないと予想された。
回復魔法以外の探知・通話魔法は全ての乗員が習得しており、技能も身体強化・遠見・暗視は皆が使え、一部の砲術士官が思考加速を習得していた。
思考加速は読んで字の如く思考が加速し、時間の流れがゆっくりに感じられ、動作が機敏になる技能だった。
未習得の魔法や技能も多々あり、こちらの世界でも使える可能性があった。
これら魔法や技能が陸奥乗員だけでなく、異世界召喚されていない者達も使えたならば、劣勢な対米戦争を好転させられる可能性があった。
海軍上層部への報告を終え、親書が海軍大臣の手から天皇陛下と総理大臣に渡り、国の上層部が異世界召喚とそれによってもたらされた物を知る事になった。
魔法や技能、魔法を効率よく発動させるための魔法杖に、位階が99になった戦艦陸奥とその技能、額に低品質魔石が付いた栗鼠の事まで周知されたのだった。
では召喚されていない者達に、魔法や技能が使えるのかという疑問がでてきた。
それに対する答えを、陸奥の若い士官が発案していた。
光石という物が異世界に有った。触っている間、魔法や技能を使った時と同じ何らかの力を使い、光る石であった。
ちょっとした明かりが欲しい時に使用する、懐中電灯のような物だった。
当然光石など元の世界には無く、異世界独自の物だと考えた若い士官は、対価の一部として光石を多数持ち帰るよう進言していた。ありふれた物であったため、王国は対価とは考えていなかったようだったが。
元の世界の人間も光石を光らせる事ができれば、魔法や技能を使う時の何らかの力を使用する事になり、魔法や技能を修得できるのではないかと考えたのだった。
実際海軍内で光石を試したところ、低確率ながら光らせる事のできた者が現れた。
おおよそ百人に一人の割合であった。
この朗報に海軍上層部は歓喜した。
海軍大臣はすぐに総理大臣に報告し、陸軍の知るところとなり、現役軍人及び予備役軍人の光石による選別が行われる事が決定した。
単純計算で100万人を光石で選別すれば、1万人の適合者が出る事になる。
数万人の異世界の能力を持った兵士が、新たに誕生する事を意味するのだった。
しかし、魔法や技能の習得は簡単ではなかった。当然である。もし簡単だったら、自然と身体強化を覚えていてもおかしくないからである。
切っ掛けが必要だったのであった。光石を触って光らせる時に使う力。この力を強く意識する必要があったのだ。
異世界に召喚された陸奥の乗員達は、自然と身に付いていた力であるため、呼び名すら確認していなかったこの力。
異世界の能力を使うための力という事で、異能力と名付けられ、さらに略して異力と呼ばれるようになった。
異力を消費し光石を光らせる感覚をしっかりと認識して、ようやく第一歩であった。
異力に適合を示した者達は、異力を意識して使い、身体強化を習得するところから始めていったのだった。
この異世界の魔法と技能を効率よく習得するため、大本営により専門の研究機関が設立された。
大本営は異世界の能力が有用である事を認識し、早期の実戦投入を目指し、「知覚強化研究所」として開設し、秘匿名称は「東北研究所」とした。
東北研究所では、異世界からもたらされた魔法・技能・鑑定球・光石・魔法杖・魔石・異世界の栗鼠が研究され、科学的分析や科学との融合が行われていった。
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戦艦陸奥は位階が99になった事で、能力値が高くなっていた。
帰還後に鑑定球を用いて鑑定しても同様であり、ようやく高くなった能力を確認できる時が来たのだった。
この世界には魔物はいないため、魔物に対する技能や魔法防御の技能は意味がなくなったが、燃費が極めてよくなっており、防御力も上がっているはずで、命中力も非常に高くなっており、速度と運動性も数値上はかなりの物になっているはずだった。
ようやく速度と運動性を試す事になり、あっさりと召喚前までの最高速を超えたのだった。
軽く30ノットを出し、40ノットも問題なく出て、50ノットとなり転覆を恐れてそれ以上の速度上昇は控えられてしまった。
戦艦陸奥の船体構造が、いつの間にか変わっている事に今更ながら気が付き、機関出力だけでなく船体構造の変化による、速度・運動性の向上がある事も分かった。
しかしそれだけでは理解できない安定した速度性能であり、位階99の勇者だからと無理矢理納得するしかなかったのであった。
陸奥は技能遠見・限界突破により、何故か最大射程以上の距離を水平線を透過して見る事ができた。海水はある程度の遮蔽物とみなされたようであった。
命中力も異常だった。最大射程で静止目標へ一発で命中させたのである。能力値で狙いが正確になっているところに、技能命中補正・限界突破がさらに追加されており、等速で直進する目標も砲術士官が精確に照準すれば確実に命中させられた。
防御力に関しては、さすがに砲弾を浴びせるわけにもいかず、試される事はなかった。
この結果に軍令部は、さっそく実戦投入を検討するのだった。
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