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魔王軍迎撃戦・後編

魔王軍迎撃戦・後編


魔獣の大群撃退から数日後、二足歩行の魔物と魔獣の残党が合流し、王都へ向かってきていた。

魔獣たちは歩みの遅い魔物達に歩調を合わせていた。


二足歩行の魔物達は大小様々おり、王国の情報では統率しているのは2m程度の魔物だろうとの予測であった。

陸奥がまず狙うのは統率している魔物であり、今回も統率を失わせ撃退する予定だった。


魔物の大群が視認できる範囲に入り、統率している魔物の特定を開始した。

陸奥の技能遠見の効果、そして乗員の取得した技能遠見により、より詳細な判別が可能となっていた。


王国軍の協力も仰ぎ、統率能力があると思しき個体を特定。偽装も疑い、念入りに観察を行った。


数万に上る魔物の大群が、前後左右に大きく広がり進軍してきており、魔獣の大群の時のように砲撃による誘導を試みたが、密集させる事はできなかった。


「魔獣より知能が高いというのは本当のようですね。統率も取れているようです」


「そうだな。これだけ間隔を開けられては、いくら砲弾の危害半径が広くなっていようとも砲撃効果は薄くなる。指揮官を確実に潰さなければな」


「はい。倒すべき魔物の優先順位も固まってきております」


戦艦陸奥は、魔物の前衛を高角砲の射程まで引き付け砲撃を開始した。

主砲が狙うのは後方で、副砲は中央付近を狙い撃った。


高角砲が魔物の前衛を打ち倒し、主砲と副砲が統率を担いそうな魔物を狙撃。

直撃しなくとも至近弾で十分倒す事ができていた。


二足歩行の魔物達は粗末な鎧を纏い武器や盾を持っていたが、砲弾の威力を減じられているとは感じられなかった。

巨大な二足歩行の魔物は巨大な盾を持ち、正面からの爆風には耐えているようであったが、砲弾が側面や後方に着弾すれば意味をなさなかった。


優先順位に従い統率を担いそうな魔物を潰していたが、陣形は乱れたものの魔物の進軍は止まらなかった。

陣形が乱れ密集した魔物達には的確に砲弾を浴びせていった。


「これは…、偽装した指揮官がどこかに潜んでいるのでしょうね」


「そうなるだろうな。…確かに魔獣と違い頭を使っているようだ」


「魔獣から、先の戦いの戦訓を得たのでしょうか?」


「魔物同士、意思の疎通ができるのかもしれんな。少なくとも、目立つ指揮官は真っ先に狙われると理解しているようだ」


まだ余裕はあるものの、艦長は王国の観戦している武官に助言を求めた。


「そうですな…、知能が高めで、統率ができ、潜める魔物となると…、魔法使いの小鬼が可能性があるかもしれません。強力な個体の小鬼は既に倒しているようですから、考えられるのはその魔法使いの小鬼ぐらいと思われます」


しかし、今回の戦いでは魔法使いの小鬼は見当たらなかった。

特徴は外套と杖なのだが、偽装しているのか見付からなかった。


小鬼を全部屠るしかないかと決断しかけた時、巨大な魔物の死骸に魔法使いの小鬼の死骸が張り付いている事が判明した。

巨大な盾と肉壁に護られる形で、一部の巨大な魔物に潜んでいたようであった。


優先的に巨大な魔物を討伐したところ、目に見えて魔物達は統率を失っていった。

まだ完全に統率は失われてはいなかったが、密集した所を砲撃し、効率よく撃破していった。


次第に魔獣達が離脱を始め、それにつられる形で弱い個体から戦線離脱が始まった。

魔物の大群を観察していると、統率を取り戻すため檄を飛ばす小鬼が見られ、集中的に狙い撃っていった。

これにより魔物の大群は、潰走を始めたのだった。


今回の戦いは、より効率的に魔物を撃退したため、陸奥の位階はあまり上昇しなかった。

技能も取得しておらず、魔王討伐に影響が出るかと気になっていたが、王国の情報によると、魔王との戦いの前にもう一戦あるとの事だった。


次に来るのは不死の魔物だという。

不死なのに殺せるのかと問えば、動いている死体を不死の魔物と呼んでいるだけで、普通に倒せるという。なんとも奇妙な話である。


「とうとう死者とまで戦う事になりましたね」


「黄泉の国から出てきた者達のようなものか」


「一応、魔物という事らしいですが、元人間も含まれているようですね。大多数は魔物の死骸らしいですが」


「あまり深く考えずに、砲撃で吹き飛ばした方が良さそうだな」


「はい。遠距離での砲撃なのが幸いです。不死の魔物は知能が極端に低く、ひたすら前進してくるらしいですから、次回は撃退ではなく殲滅戦になるでしょう」


次の戦いでは相当数の魔物を倒さなければならず、陸奥の位階が大きく上昇するとみられた。





「まさか、不死の魔物の大群が、十万を超える規模とはな。下手をすると砲弾が枯渇してしまう」


「不死の魔物にはこれまでのように撃退する戦術は通じませんから、殲滅するしかありません。王都前面の防衛線に集めて効率的に殲滅しても、砲弾の消費は相当なものとなるでしょう」


「意見具申!」


艦長と副長が頭を抱えていると、若い士官が意見具申を申し出てきた。

艦長は頷き、若い士官を促す


「結論から申し上げますと、探照灯を試してみるべきです!強烈な光は一種の攻撃と言えます。攻撃であれば陸奥の技能が乗ると愚考いたします!」


この若い士官を含め、若い者達は魔法や技能の習得が早く、その理解も早かった。

年嵩の者達よりも魔法や技能を上手く使いこなし、応用力も高かった。


その結果出てきた妙案が、不死の魔物に対する探照灯の照射であった。

王国の情報には不死の魔物は闇属性であり、光属性が弱点ともあった。陸奥の技能には闇属性特効があり、強い光の光線である探照灯で効果があるのではと若い士官は考えたのだった。


「なるほど、試してみる価値は十分にあるな」


「王都前面の防衛線程度の距離ならば、探照灯の光も届くでしょうね」


「複数の探照灯で一点を照射すれば、効果が上がると愚考いたします!」


「うむ、試してみよう。それまでは探照灯の一点照射訓練だな」


若い士官が主導し、探照灯の一点照射訓練が行われ、一点に集めた探照灯の光を、息を合わせて前後左右に動かす事を可能にした。





数日後、日中の日差しを濃い霧で遮り、不死の魔物の大群が押し寄せてきた。

不死の魔物は日中弱体化するため、濃い霧で日の光を覆い隠す事で活動を可能にしていた。

しかし夜ほどには活発に動けず、その歩みは遅かった。


王都近郊への到着は日没後と予想され、戦艦陸奥及び王国軍は迎え撃つ準備を整え待ち構えていた。


「王国に要請していた平原の造成も、無事間に合いましたね」


「ああ、単純な構造の土塁だが、知能の極めて低い不死の魔物であれば誘導されてくれるだろう」


不死の魔物は殲滅の必要がある事から、平原に土塁による緩やかな溝が造られていた。これにより王都前面の防衛線正面に不死の魔物が集まってくるよう工夫がなされており、戦艦陸奥の砲撃が最大効果を発揮し効率的に殲滅できるようにされていた。

この土塁で誘導できそうなのは、不死の魔物の大多数を構成する中型以下の個体であり、大型以上に対しては効果が薄いと考えられていた。


大型以上の不死の魔物に関しては、濃い霧が晴れるという日没後に主砲と副砲によって真っ先に叩く予定であった。

巨大な不死の魔物は、主砲でなければ対応できないだろうと予測されており、最大脅威とみなされていた。


日が沈み黄昏時となり、濃い霧が徐々に晴れていき、不死の魔物の大群の全容が見渡せるようになっていった。

それは禍々しく、そして夥しい魔物の大群であった。


不死の存在を始めて目にする事になった陸奥の乗員達は、不快感や怖気を催す事になったのだった。

遠距離でこれである。間近で見えれば、初見であれば対応は難しかったと予想された。


「遠見と暗視の技能のおかげでよく見えるのは良いのだが、本能が不死の存在を受け付けない感じだな」


艦長は双眼鏡を覗きながら顔をしかめた。


「はい。まさに生者の天敵といった感じを覚えます」


「そうだな。…予定通り砲撃を開始する!目標!主砲は巨大な不死の魔物!副砲は大型!高角砲は密集地点を狙え!」


艦長は、不快感と怖気を振り払うように号令を発した。


主砲と副砲がじっくりと目標を狙い砲撃を開始し、高角砲が土塁の誘導により密集した不死の魔物を砲撃していった。

探照灯は、まだ距離があったため使えなかった。


日が完全に落ち、不死の魔物達が活発に動き出す頃には、大型以上の不死の魔物達は討伐が完了していた。そしてこれからが本番であった。

数の暴力で押し寄せる不死の魔物の大群を、いかに砲弾を節約し殲滅するか。困難な闘いが始まったのである。


やがて王都前面の防衛線に、足の速い不死の魔物が砲撃をすり抜け到着しだした。

防衛線には王国軍が布陣しており、光属性魔法を多数展開し、不死の魔物を弱体化させ討ち取っていた。


不死の魔物が探照灯の届く範囲に入った事から、照射を開始。

結果は若い士官の予想通り、効果覿面であった。


探照灯を照射された中型以下の不死の魔物は、白く燃え上がり塵となって崩れていった。

念入りに照射せずとも燃え上がり、防衛線前方地点を左右に照射する事で、不死の魔物達は殲滅されていった。


「探照灯の威力抜群だな」


「はい。もう少し遠距離でもいけそうですね」


「うむ。しかしこれで砲弾の節約は問題なくできるな」


「ええ。後は探照灯に任せてしまいたくなる程ですね」


「そうだな。だがそういうわけにもいくまい、探照灯はあくまでも防衛線の前方攻撃に専念せよ。主砲と副砲は密集している地点を、じっくりと狙い撃て」


艦長は砲弾を節約しつつも、確実に不死の魔物を殲滅する戦術を選択した。

戦場では何が起きるのか分からず、油断するわけにはいかないのであった。


しばらく砲撃を続けていると、突如、砲弾の威力が上昇した。

鑑定球を用い陸奥を鑑定させたところ、位階が99となっており、技能が2つ増えていたのであった。


命中補正と限界突破であった。

命中補正はその名の通り照準した場所に命中し易くなる技能であり、限界突破は全ての技能をさらに強化する物であった。


つまり、攻撃力上昇、危害半径拡大、闇属性特効がさらに強化されているため、陸奥の不死の魔物の大群に対する攻撃は、極めて効果抜群となったのである。


さらなる砲弾節約が可能となり、程なく不死の魔物の大多数を討伐する事に成功する。

陸奥は砲撃を止め、王国軍による残敵掃討が行われた。





「ご報告いたします。勇者様が99の位階に達せられたとの事です」


「うむ。報告ご苦労。…これで魔王討伐は確実な物となったな」


伝令の報告に、宰相は安堵し胸を撫で下ろす。


「ですな。過去の事例を紐解いても、異例尽くしの魔王誕生と勇者召喚でしたが、犠牲者も少なく早期解決に終わりそうです」


大臣も同意し、ここしばらくの間に起きた目まぐるしい出来事に思いを馳せた。


「幸いだったのは最大最悪の魔王が、知能が低かった事だな」


「全くその通りかと。魔王軍の戦術は正面からの力攻め、しかも戦力の逐次投入。素人の私ですら違う方法を思い付けるほどですからな。まあその分、魔王の力が強大過ぎるですが」


「艦長の話によると、勇者様は攻撃回数に制限があるらしい。砲弾が無くなれば攻撃ができなくなるため、砲弾を節約しながら戦っていたとか。それでいてこれほどの戦果を挙げておられる。強大過ぎる魔王もきっと打倒してくださる事だろう」


宰相の確信した言葉に、大臣は大きく頷くのであった。

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