魔法先進国
魔法先進国
2022年2月。ソ連はドイツとの緩衝国の一つへ、軍事侵攻を開始した。
緩衝国はこれに対して、徹底抗戦で迎え撃った。
ソ連の当初の見込みでは、緩衝国の国民は歓呼の声でソ連軍を迎え入れると思われていた。
しかし実際は、緩衝国の国民はソ連の支配など求めておらず、独立の維持を望んでいた。
緩衝国の士気の高さを見た枢軸国は、緩衝国への支援を開始した。
そして、常任理事国の魔法兵が義勇兵として緩衝国側で参戦した。
ソ連はペレストロイカ成功以降に経済力を付け、魔法以外の軍事力は世界トップレベルであった。
第二次世界大戦が集結し数年が経過した頃、ドイツは安定しない東方生存圏の内、ソ連と国境を接する地域を独立させていき、ソ連との間には緩衝国が形成されていた。
緩衝国はドイツの傀儡国家であったが、ドイツの影響力が低下していくと共に独立国家となっていき、独立国家となった緩衝国では次第にソ連の影響力が強まっていた。
ソ連は旧領土の一部である緩衝国の奪還を諦めておらず、少しずつその手を伸ばしていた。
緩衝国内では紛争が続き、やがてソ連が緩衝国の国民感情を見誤り、ソ連が緩衝国へ進攻してもドイツは動かないと確信し、ソ連は大規模な進攻を開始した。
序盤こそ緩衝国の首都を目指し突き進んでいたソ連軍であったが、緩衝国が徹底抗戦の構えを見せ、緩衝国国民の反ソ連感情が予想外にも高く、ソ連軍は苦戦を強いられた。
そこへ枢軸国からの支援が届き始め、義勇軍が参加したのである。
常任理事国が義勇兵として送り込んだ魔法兵は、数にしてみれば多くはなかっのたが、ソ連にしてみれば驚異的な強さを見せ付けられた。
ソ連の航空機やミサイルは悉く撃墜され、それ以降制空権は緩衝国の物となった。
魔法兵達は光魔法を使いソ連航空機やミサイルを撃墜していた。
魔法兵の数に対してソ連の航空機やミサイルの数が多かったが、日本の魔法兵が実験的に投入した異力発生装置搭載の機動車と異力蓄積装置により、想定以上の目標の迎撃に成功していた。
日本は異力発生装置と魔力蓄積装置の実戦テストもかねて魔法兵を派遣しており、飽和攻撃に対する有効性を確認し実戦データが取れたのである。
その他にも新兵器や新装備が持ち込まれており、新たに開発した複合魔法のテストも併せて行われた。
日本軍の魔法兵は航空機により運ばれ空挺降下したが、航空機は複合魔法により隠蔽され、レーダーはおろか目視でも認識されず、音や熱源も隠して進入していた。
魔法兵は異力発生装置搭載の機動車と共に浮遊魔法で地上に降り立ち、部隊ごとに任務を開始した。
日本の魔法兵の戦闘服には異力蓄積装置が搭載されており、非常に長い継戦能力を獲得していた。
ゆくゆくは異力発生装置を小型化し、これも搭載する計画だった。
日本の魔法兵は国境付近で活動し、ソ連軍への攻撃を繰り返した。
ソ連軍も暗視装置を持っているため、魔法兵は夜襲に拘る事無く襲撃を行った。
日本の魔法兵は必要性が無いのにもかかわらず、軍刀で戦車などの戦闘車両を切り裂き撃破していった。
魔法籠手の性能が上がった事で、魔法刀は使用されなくなり、代わりに魔法を乗せやすい軍刀が開発されていた。
そもそも戦車の撃破ならば魔法で上面や底面を攻撃すれば事足り、わざわざ軍刀で切り裂かずとも既にソ連兵の士気は十分に低かった。
日本の魔法兵の言い分は、「魔法兵は抑止力であります。ソ連兵に尋常ならざる魔法兵の凄さを見せ付け、広く知らしめるためであります」というものだった。
確かに今回の作戦の目的の一つは、日本の魔法兵の力を知らしめるという物があった。
しかしそれは、派手な魔法で攻撃しても同じ効果が得られたはずであった。
大戦中の異能兵から受け継がれた、日本魔法兵の悪癖といえる物だった。
日本魔法兵は力を抑えて戦っていたが、ソ連軍が緩衝国国民に対し戦争犯罪を行い始めた時、全力を出してこれに対抗した。
全力を出した魔法兵は、姿を見せずソ連軍を蹂躙するのであった。
姿も音も熱も消して狙撃や魔法攻撃を行う日本魔法兵は、瞬く間に市街地からソ連軍を排除し、緩衝国国民の救助に当たった。
大戦後の日本軍は、海外派兵を行っても非戦闘員保護の戦闘を行う事が多く、どこかの国に侵攻するという戦争は行ってこなかった。その結果が、緩衝国国民保護優先に繋がったのである。
日本で属性魔法が使えるようになった頃、闇魔法による隠蔽は激しく動いたり攻撃動作を行えば解けてしまうような物だった。
その魔法陣を徹底的に改良し、他の魔法とも複合させていき、戦闘中でも隠蔽が解けず姿も音も熱も隠せるようになったのである。
問題は仲間同士で見えなかった事だったが、そこも改良され、実用に耐える複合魔法となっていた。
ゆくゆくは臭いに関しても隠せるように、改良が進めれれていた。
日本の魔法兵への補給は、これまたレーダーにも捉えられず、姿も音も熱も隠蔽されたヘリコプターにより行われていた。
これにより、国境付近で任務に当たる魔法兵へ、ソ連軍に全く悟られる事なく補給を行えた。
他の常任理事国の魔法兵は、緩衝国国内深くに入り込んだソ連軍に対し、緩衝国の軍隊と協力し戦闘を行っていた。
装備と使用できる異力量は日本魔法兵に劣るものの、魔法と技能を使い異力が消耗したら下がり、緩衝国軍と交代するなどして戦い、ソ連軍を圧倒し続けた。
ソ連も諦めず、次々と増援を送ってくるのだが、ソ連軍は国境に押し込められる状態となっていった。
緩衝国内に入り込んでいたソ連軍も国境まで押し戻され、戦争は国境での戦いとなった。
緩衝国からソ連国内に攻撃する事は避けられていたため、戦争はソ連が諦めるまで続くと思われた。
国境まで押し戻されたソ連軍は、ソ連領内からミサイルや極超音速ミサイル、ドローン、重砲による飽和攻撃を行ってきた。
魔法兵がこれを迎撃していくが、日本以外の魔法兵はすぐに異力が枯渇し、日本魔法兵がほとんどを迎撃する事になった。
この結果、緩衝国に被害はほぼ出なかったが、日本以外の魔法兵は飽和攻撃迎撃には無理がある事が露呈した。
そしてやはり日本魔法兵の継戦能力が注目され、日本が異力を発生させる装置と、蓄電池のように異力を溜める物を開発した事が知られたのである。
日本魔法兵はソ連軍重砲陣地に対し、隠密状態で浮遊魔法を使い進入し、複合魔法の巨大な炎の竜巻を起こし重砲陣地を破壊していった。
とにかく派手な魔法であり、ソ連軍に与えた心理的ダメージは大きな物となった。
ソ連領内に対する魔法兵の攻撃を、ソ連はテロだと非難してきたが、そもそも戦争を仕掛けているのはソ連である。
日本の魔法兵はその後もソ連領内にある、緩衝国を攻撃する拠点を派手な複合魔法で潰していった。
ソ連は領内を魔法攻撃されているのだが、攻撃している魔法兵を発見できず、前線では損害ばかりが積み上がり、遂に音を上げたのである。
ソ連は緩衝国の一部も占領する事が叶わず、停戦となり講和交渉が始った。
日本は魔法兵の実力を再確認し、世界もその力を理解した。
複合魔法は成功し、この戦争で十分にデータを取る事ができた。
異力発生装置と異力蓄積装置も実戦データが取れ、さらに改良が進められていく事になった。
異力発生装置と異力蓄積装置を使えば、異力に適性を持たない者も魔法や技能を使える可能性が高く、あと少しといった感触だった。
異力適性のない者達が、魔法や技能を使える技術が確立されたら、世界はまた大きく変わると考えられていた。
緩衝国をめぐる戦争が終結後、常任理事国は異力発生装置と異力蓄積装置の情報を求めてきた。
日本としては、異力適性のない者でも魔法や技能が使える技術が完成したら、異力発生装置や異力蓄積装置の特許を登録するつもりだった。
既に戦艦陸奥では、重力機関の可動に必要な重力魔法を、異力発生装置を使って発動させていた。
日本は陸奥の存在により、最新の魔法技術研究が大いに進んでいたのである。
このように日本は、常に最新の魔法研究を怠らず、魔法技術や魔法軍事力において世界をリードし続け、自主独立の国家として存立し続けたのであった。
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誤字報告ありがとうございました。令和7年11月5日修正しました。




