魔法立国日本
魔法立国日本
戦後、世界は枢軸国による秩序が構築された。
しかし、ドイツの東方生存圏は安定せず、軍事費は抑えられずインフレも起きており、かえってドイツの足枷となっていた。
イギリスはアメリカへの債務返済もかねて、講和の仲介と共に多数の艦艇をアメリカに譲渡していた。
戦後もアメリカの復興に協力し、債務を大幅に減らし、経済を安定化させ力を取り戻しつつあった。
そんなイギリスとドイツは、日本に魔術の技術公開を求め続けていた。
科学とは異なる技術であり、日本だけが保有していて、戦時に絶大な力を発揮したと考えられていた。
日本はというと好景気に沸いており、インフレも起きてはいるがそれ以上に給料が上がり、活気に満ちていた。
光石による選別によって異力に適性を持つ者の数も増え、魔法を使える人材が軍以外へも流れるようになった。
警察や医療関係にも魔法を使える者達が増えた事で、次第に情報も漏洩していき、魔法の存在が隠し切れないところまできていた。
魔法を効率よく強力に使うための魔法杖も当然足りないため、イリスから採れる低品質魔石を元に作られる、低性能魔法小杖ですら取り合いとなっていた。
イリスの小さな魔石は、徐々に品質が上がってはいるが、まだ中程度の品質にも届いていなかった。
イリスは個体数を増やす事が優先されており、雌の個体は全て残され、雄の個体は魔石の品質が高く身体の大きな個体が優先的に残された。
ゆくゆくはイリスの身体も大きくし、大きな魔石が採れるようになる事を期待されていた。
イリスの個体数は数年で急激に増えてはいるが、魔石採取にまわされる数は年々増えているものの限られており、需要を満たせていなかった。
仮に日本が魔法を公開しても、魔法杖が足りず、英独が満足するような結果にはならないと思われた。
また、光石だけは渡すわけにはいかないとも考えられてもいた。
光石は再入手が不可能な石であり、その使用は厳格に定められていた。
日本が英独に許容できる妥協案があるとすれば、光石を日本から出さず日本で選別を行い、日本で身体強化の技能を取得させるまでであった。
東北研究所において魔法や技能は研究され続けており、様々な成果も出てきていた。
異世界では使え、こちらの世界では使えなかった属性魔法を、遂に発動させる事に成功したのであった。
魔石を採取したイリスの皮を用い、それで作った皮紙に低品質の小さな魔石を粉末にして魔法陣を描き、それを片手に持ちもう片方の手には魔法杖を持つ事により発動できたのである。
多数の魔方陣を描いた皮紙を束ね、本にした物を片手に持てば、それぞれの魔法が使えることも判明した。
今後はこの魔法書ともいうべき本を小型化し、可能なら杖とも融合させ、武器に組み込む研究がされていく事になる。
既に軍刀や小銃の魔法杖との融合は成功しており、魔法刀・魔法小銃として完成し今後の発展が期待されていた。
魔方陣そのものの研究も進んでおり、魔法の性能を改変できるようにもなってきた。
そんな中で生まれたのが、重力爆弾ともいうべき物だった。
重力爆弾は、極短時間だけ超重力を発生させ、周囲を押しつぶし破壊する物だった。
重力を利用した発電を研究していた際に、誤って出来てしまった失敗の産物でもあった。
浮遊魔法陣を改変してできた重力魔法、それを応用した発電や動力は、今後イリスの魔石が潤沢に確保できるようになるまでは、理論研究にとどまっている。
しかしこれが実現すれば、文字通りの空中戦艦も夢ではないと考えられていた。
異力に関する研究も行われており、異力を持たない者が魔法や技能を習得または使えるようになるための方法が模索されていた。
異力を持たない者でも魔法や技能を使えれば、様々な分野で応用が利き、何より日本兵が最強となると考えられた。
大戦中の異能兵達はM4中戦車を、強化魔法で強化した軍刀で切りつけ装甲を切り裂くような兵達だった。
もちろん戦車の装甲を切り裂く必要性はなく、対戦車噴進擲弾発射器を使えば事足りたのだが、敵の士気を下げるためという理由で行われていた。
属性魔法が使えるようになり、魔法刀で魔法を使いながら戦車を切りつければ、必要性はなくともそのまま撃破も可能になった。
そう問題は属性魔法が使えるようになった事で、闇魔法を使った隠密行動も可能になり、魔法を使える兵士はますます強くなっていったのである。
さらには光魔法を使った航空機や噴進弾迎撃も出来るようになり、砲弾や自由落下する爆弾なども迎撃が可能だった。
もちろん飽和攻撃となると異力が枯渇し対処できないが、少数であれば確実に迎撃できた。
異力を蓄電池のように溜められ、魔法や技能を使う時に引き出せたら、魔法を使う兵はさらに長時間の戦闘が可能になるため、研究が行われていった。
また、異力その物を発生させる異力発生装置も、併せて研究されていた。
そして異力発生装置や異力蓄積装置が完成すれば、異力の適性のない者も、魔法や技能を習得もしくは使えるようになるのではないかと予想されていた。
大東亜共栄圏は日本と中国に引っ張られるように、急速に発展していた。
そして中国は国内総生産が日本に迫りつつあり、これに危機感を覚えた日本は、技術支援を対価に英独政府への魔法公開に踏み切った。
英独から様々な好条件を引き出し、それでいて日本は肝心な部分は手放さない条件だった。
具体的には光石の管理は日本が行う事とし、魔法を習得したい者は日本で選別を受け、基本的な訓練を行うとした。
それにあたって情報も一部公開され、魔法が存在する事、異力という力がなければ魔法は使えない事や、魔法と共に技能という物がある事も公開された。
鑑定球によって習得した魔法や技能は確認できる事が伝えられ、簡易鑑定球が英独に譲渡される事にもなった。
魔法や技能は、未来視の技能以外は大まかな習得法と効果を英独政府に公開した。
魔法の習得に数学が必要な事は、あえて伝えられなかった。
外国人の光石による選別は当初はイギリスとドイツだけだったが、他の常任理事国も求めるようになり、政治取引により応じるようになっていった。
回復魔法を活用した日本の医療は、世界的に見ても異常なほど高い物となっていた。
日本の欠損回復を含めた医療を、外国人も受けられるよう調整し、人数は限定されるものの一部開放した。
当然ながら日本の回復魔法医療には、富裕層始め世界の要人達が飛びついた。
人数が制限されているため、医療費は高額な物となったが、富裕層や要人には大した障害ではなかった。
光石による選別や回復魔法医療を受けるため、多くの外国人が日本を訪れるようになり、観光地の整備が進んでいった。
これに伴い急速に国内の道路が整備舗装されていき、農村も機械化が進み、余剰となった労働力が工場地帯や都市部へと流入するようになり、日本の人手不足は大分解消されたのであった。
英独は案の定魔法の習得に手こずり、日本に問い合わせる事態となっていた。
技能は次々と習得できたようで、魔法や技能が本物である事は証明できていた。また、日本の夜戦の強さの秘訣を理解したようであった。
日本は即座に応じ、またも政治取引を行い、英独に魔法習得には数学が重要な事を説いたのである。
これにより、光石による選別を受けに来るイギリス人とドイツ人は、数学を修めたか得意な者がほとんどとなっていった。
英独も教育を見直す切っ掛けとなり、数学が重要視されていった。
他の常任理事国も、日英独が数学を重視した教育を実施している事で察したのか、光石による選別には数学を修めているか得意な者を送り込んでくるようになっていった。
英独が魔法を使えるようになり次に気付いたのは、その魔法効果の低さであった。
再び日本に問い合わせがあり、魔法杖の情報が英独に公開された。
魔法杖は貴重であり、おいそれと渡せる物ではない事を伝え、またも政治が絡むのであった。
低性能の魔法小杖を英独に多数譲渡する事になり、同じく低性能の魔法大・中杖は少数譲渡された。
後に他の常任理事国にも、同様に譲渡される事になった。
日本では低品質の小魔石を複数用い、品質の高い魔法杖が作れないかの研究も行われていた。
形は杖に拘らず、高性能魔法大杖の性能が工夫次第で出せないか試行錯誤されていた。
1960年代半ばともなると、イリスの魔石も品質が上がり、身体も大きくなっていた。
魔石は中品質の小魔石であったが、魔石の大きさも大きくなりつつあった。
イリスから採れる小魔石も大量に確保できるようになり、様々な研究が加速していった。
なかでも魔法杖と武器の融合、魔法杖の形の変更、魔法書と魔法杖の融合、これらの進展により、魔法発動籠手が開発された。
魔法発動籠手、略して魔法籠手はイリスの中品質小魔石を使っていた事で、中性能の魔法小杖程度の性能であった。
小型化した魔法書も組み込まれており、属性魔法が使えた。
この魔法籠手を改良し、複数のイリスの魔石を用い、より高性能に出来ないか試された。
結果、強化魔法を応用する事で実現し、籠手が大型化したが、中性能魔法杖程度の性能が出せるようになった。
そしてついに、高性能魔法大杖の性能を、イリスの魔石で実現できる理論が完成した。
それは家ほどの大きさとなり大量の魔石を使う物で、とてもではないが現状試す事のできない理論だった。
しかし改良の余地はあり、イリスの魔石もいずれは高性能で大きくなるであろう事から、今後の小型化に期待された。
イリスの数も充実した事から、魔石が高品質でより大きな個体が集められるようになっていった。
本格的に魔石の質と大きさを上げる段階に入ったのである。
この段階でイリスの存在も公開され、常任理事国はイリスの譲渡を求めてきた。
政治取引の末、日本が保有するイリスの内、できるだけ魔石も身体も小さい個体を中心に、魔法杖の製造法と共に譲渡される事となった。
常任理事国にイリスが渡った事で、世界にイリスが広がる事になっていった。
特に中国では大量に繁殖していき、大陸に広がる切っ掛けとなった。
とはいえ、光石を保有しているのは日本だけであり、魔法や技能を使える者が無秩序に増える事はなかった。
遠からず、各国も属性魔法を使えるようになると予想されており、日本は高く売れる内に属性魔法の行使方法を公開する事にした。
魔法技術に対する特許もこの時から始まり、多数の魔石を用いた高性能魔法杖の再現技術や、魔法武具等も特許化されていった。
日本は資源のない国であったが、魔法を対価に資源や最新技術を取り込み続け、魔法を始め科学技術でも最先端の国であり続けた。
日本は災害の多い国であったが、大災害における人的被害は少なかった。
それは未来視の技能を持った者を、新たに見出したからである。
次代の未来視の技能持ちは初代の教訓から、心身ともに健康でいられる環境整備が心がけられた。
未来情報も大事件や大災害、大きな国際的動きなど大雑把な物を求めた。
視力も聴力も低い次代の未来視の技能持ちは、日本だからこそ見出せた存在といえた。
諸外国は日本での選別を強いられているため、ある程度選抜した人材を送り込んできている。
対して日本は、高等教育を受けた者は全て選別していた。
選別している絶対数が、日本と諸外国では圧倒的に違い、ましてや視力や聴力が低い者を選別するという発想は、特にナチスドイツでは無いだろうと考えられた。
技能未来視は公開していない事もあり、当分は日本が独占できると思われた。
戦艦陸奥は、やはり世界から情報を求められていた。
謎の超高速戦艦であり、その異常な高性能ぶりは魔法が絡んでいると考えられていた。
戦艦陸奥は原子爆弾を迎撃した事から、実質日本最大の戦略兵器であった。
その戦略兵器の地位を維持するため、陸奥は改修を行い続ける事が決定していた。
陸奥は防御力は高いのだが、改修はすんなりと受け入れていた。
兵装や装甲、射撃盤や機関にいたるまで最新の物に更新され続けていった。
電磁砲や光線兵器、またその電力を生み出す重力機関といった最新技術が真っ先に導入され、陸奥の自動修復技能により故障もなく運用試験が行えた。
戦艦陸奥は、最新技術の実験場ともいえる実験艦にもなっていたのである。
戦艦陸奥が異世界から帰還して80年が経過し、改修が繰り返され続けた事で陸奥を構成する部材のほとんどが新しい物に置き換わっていた。
全ての部材が置き換わった時、陸奥は勇者のままでいられるのかと、議論が絶えなかった。
これまで陸奥は改修をすんなりと受け入れ、新しい部材を自身に取り込んでいる事から、全ての部材が置き換わっても問題ないとする意見が強まり、戦後80年を機に残されていた既存の部材を全て置き換える事が遂に決定した。
結果は何の問題も出ず、戦艦陸奥はこれからも勇者であり続けるのだった。
戦艦陸奥がこれからも日本を護り続けられる事が分かり、日本はようやく世界に戦艦陸奥の情報を一部明かす決定を下した。
その情報とは、戦艦陸奥は異世界に召喚され、魔王を倒し帰還した、LV99の勇者であるというものであった。
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