新型爆弾の脅威
新型爆弾の脅威
アメリカでは、太平洋における日本海軍の潜水艦による攻撃により、多数の大型艦艇が損傷しドック入りしていた。
米海軍が機能不全を起こしている隙に、日本軍はハワイへ進攻してきたのである。
オアフ島で日本軍を迎え撃とうとしていたが、日本軍は戦艦陸奥による艦砲射撃でオアフ島を無力化していった。
オアフ島以外の島嶼は占領され、オアフ島は補給を断たれ、放置されたのであった。
またしても、戦艦陸奥である。
戦艦陸奥が、アメリカの前に立ち塞がっているかのようであった。
すると、その戦艦陸奥が不用意にもサンディエゴ沖に現れたのである。
日本の夜襲に備え配備してきた、夜戦用の航空機の出番が来たのであった。
戦艦陸奥は複数の1,000ポンド爆弾を被弾しながらも、魚雷を回避し続け、驚異的な対空戦闘能力を見せ付けてきた。
周辺から夜戦用の航空戦力を掻き集め、一挙に投入したところ、日本軍の夜間戦闘機に阻まれたのである。
夜が明けてからも追撃を行ったが、効果は薄く、被害ばかりが増加していった。
B-29も多数撃墜されてしまう始末だったため、追撃は中断となったのである。
ところが、またしても戦艦陸奥が現れたのである。
既に西海岸には全米から増援の航空機が送られてきており、迎え撃つ準備は整っていた。
しかし、多数被弾させるもまたも取り逃がし、大量の航空機を失う結果となったのであった。
戦艦陸奥はその後もカリフォルニア南部へ夜襲を仕掛けてきては、少なくない爆弾を被弾し撤退していった。
全米からカリフォルニア南部に航空戦力を送り続けており、カリフォルニア南部以外が手薄になっていた。
度重なる戦艦陸奥への追撃で、カリフォルニアの夜間航空戦力は低下し、そこへ日本機動部隊の夜間空襲を受ける事になり、全米から集結していた航空戦力を撃破されてしまったのである。
サンフランシスコも夜間空襲を受け、さらには多数の戦艦による艦砲射撃にさらされたのであった。
アメリカは、戦艦陸奥に血眼になり過ぎたばかりに、大損害を被ったのである。
やがて、日本軍はカリフォルニアへの上陸作戦を開始し、周辺地域への夜間空襲を行い始めた。
叩くべきは戦艦陸奥ではなく、日本機動部隊だったのである。
東海岸から救援の艦隊も送り出していたが、パナマ運河を出た途端に日本の潜水艦の襲撃を受け損傷し、既に撤退してしまっていた。
だが、まだ逆転の目はあった。
そう、原子爆弾が完成したのである。
マンハッタン計画が遂に完成し、起爆実験にも成功したのである。
目標は日本機動部隊であった。
■
「緊急報告ですっ!」
「何があった?」
「米本土上陸作戦を支援していた機動部隊が、アメリカの新型爆弾により壊滅しました!輪形陣の外にいた駆逐艦が無事であり、報告を行えたようです」
「まさか研究中のアレか?!…ドイツではなく、アメリカが先に完成させるとはな。で、日時はいつだね」
「現地時間で、明後日の正午です!」
「分かった。直ちに連合艦隊へ詳細を知らせよ!」
未来視の技能持ちが視た結果を受けて、大本営は連合艦隊へ新型爆弾投下の詳細情報を急ぎ知らせた。
未来視の技能持ちは、未来の情報を視る頻度は下がっていたものの、ここで大きな情報を得たのであった。
■
「B-29の大編隊による、高度1万mからの新型爆弾投下か。大変な事になったな」
「はい。陸奥単艦なら余裕で退避できるでしょうが、機動部隊の速度では退避し切れません。まあ、ばらばらに退避するという手もあるでしょうが、上陸した部隊は戦闘中であり、撤退・回収は間に合わないでしょうね」
「どのみち、アメリカが新型爆弾を保有している限り、どこかで使われてしまうだろう。新型爆弾は現状B-29でしか運用できないと予想されている。ならばここで、B-29を徹底的に撃墜していくしかないだろうな」
陸奥艦長と副長は、新型爆弾対策に頭を抱えていた。
「意見具申!」
若い士官が声を上げた。
艦長は若い士官を見て頷き促した。
「結論から申し上げます。陸奥の主砲で新型爆弾を迎撃します。陸奥の測距儀は改修されており、技能思考加速と併用すれば対空目標も照準できます」
若い士官は一泊置いて続けた。
「B-29から投下される新型爆弾は、通常の爆弾より大型であると予想されています。それを可能ならばB-29に搭載されている段階で探知魔法で発見し、投下前に備え迎撃します。発見できなかった場合は、投下された爆弾を探知魔法や思考加速と遠見の技能で素早く選別し、新型爆弾を発見次第迎撃します。後は砲術士官の事前準備と訓練で解決すると愚考いたします」
「なるほど。つまり、迎撃機が討ち漏らしたB-29を探知魔法で探り、大型の爆弾を搭載していれば備えつつ余裕を持って迎撃し、事前に発見できなかった場合は、投弾後に全力で探し出し迎撃するのだな」
「はい。一番効果的なのは、ジェット戦闘機による迎撃でありますが、情報ではとんでもない数のB-29を相手にせねばなりません。ジェット戦闘機以外も迎撃に上がるでしょうが、討ち漏らしがでるはずです。そこを陸奥が補います」
「ふむ。良い案かもしれん。砲術士官達に話してみて、いけそうなら長官にも話を通して訓練を行おう」
戦艦陸奥からの提案は受け入れられ、陸奥はB-29の来襲まで訓練に入った。
砲術士官が中心となり、事前準備が行われていったのである。
「大型航空機の大編隊を探知!」
「いよいよ始ったな」
「はい。しかし、1千機を超えるB-29とは、アメリカはとんでもないですね」
艦長は深く頷き懸念を述べた。
「橘花や震電などのジェット戦闘機の増援が間に合ったが、それでも圧倒的にB-29の数が多い。討ち漏らしが必ず出るだろうな」
「新型爆弾が何発あるか分かりませんが、情報では2発爆発しています。討ち漏らした機体に搭載されていなければ良いのですが」
「どのみち陸奥の仕事は変わらん。全力で新型爆弾を探し出し迎撃するぞ!」
艦長と副長は緊張しながらも、気を引き締めるのであった。
B-29の大編隊に対し、ジェット戦闘機の橘花と震電が攻撃を開始した。
米直掩機を無視して近接信管搭載の噴進弾を発射し、一部の震電はジェット戦闘機の米直掩機に対応し、残りはB-29の大編隊へ突入し30mm弾が尽きるまで攻撃し続けた。
ジェット戦闘機の米直掩機は排除したが、B-29の大半は残っており、後続の迎撃に託された。
艦上戦闘機烈風、零式艦上戦闘機、艦上攻撃機流星、水上偵察機瑞雲と、高度1万mにどうにか上がれる機体は根こそぎ迎撃に参加し、近接信管搭載の噴進弾でB-29を攻撃した。
米直掩のレシプロ戦闘機には噴進弾発射後の烈風が対応し、その他の機体の噴進弾攻撃を成功させた。
大部分のB-29を撃墜したものの、やはりすり抜けた機体が機動部隊へ向かっており、後は陸奥の新型爆弾迎撃に託された。
「B-29の投弾を確認!」
戦艦陸奥が主砲射撃を開始した。
「どうだ?事前に発見できたか?」
「ご報告いたします。無事、事前に発見できております。丸く大きな爆弾が多数と細長く大きな爆弾が1発確認されております。全て迎撃し撃ち落します」
機動部隊上空で爆発が起こる中、陸奥艦長は報告を受けた。
新型爆弾迎撃を確実な物とするため、報告は砲術士官の迎撃準備が整った後に行われた。
艦長は砲術士官達の働きに感嘆しつつも、位階99の戦艦陸奥の射撃精度と、技能命中補正さらに限界突破の力に改めて感心した。
状況はいまだ新型爆弾の迎撃中であるため、艦長は気を引き締めるのだった。
戦艦陸奥の主砲による新型爆弾迎撃はしばらく続き、B-29が飛び去り戦闘は終了した。
新型爆弾が何発あったかは定かではなかったが、おそらくは迎撃機が撃墜したB-29の中にも搭載れていたと推測された。
「迎撃した大型の爆弾が多過ぎます。撃墜したB-29の分も含めると相当な数になるはずです。いくらアメリカでも、短期間にこれだけの新型爆弾を量産できるとは思えません」
「偽装のための爆弾か?まさか我々が新型爆弾を迎撃してくると読んでいたのか?」
「おそらくは…。それだけ戦艦陸奥は、尋常ではない力でアメリカを苦しめ、投下した爆弾くらい陸奥なら迎撃してくると予測されたのでしょうね」
「陸奥はその予測を超えられたわけだな。さすがにアメリカも、B-29の中に搭載されている新型爆弾を探知してくるとは予測できなかっただろうな」
艦長はアメリカの陸奥対策に驚きながらも、新型爆弾迎撃成功に安堵し、高性能魔法大杖が陸奥に残されていて良かったと痛感したのだった。
日本機動部隊は危機を脱し、日本はこの戦争最大の転換点を乗り越える事ができたのであった。
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