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夜襲艦隊

夜襲艦隊


1944年1月。国民政府は重慶を脱出し、昆明へと遷都した。

日本陸軍は重慶を攻め続け、3月には占領した。


続けて成都も攻め、これを占領し、勢力圏を拡大していった。

4月には昆明へ向け進軍を開始し、広大となった占領地域は、南京の新国民政府が順次統治下に入れていった。


この頃になるとインド方面の作戦の影響で、国民党軍への支援が滞り、国民政府は追い詰められていた。

日本陸軍はこの勢いのまま昆明を攻め続け、士気の低い国民党軍は敗走を続けていくのだった。


5月。国民政府は昆明を脱出し、日本軍は昆明を占領した。

国民政府は遂に中国大陸からも脱出し、亡命政府となるのだった。


国民政府の亡命により、共産党を除く中国各地の軍閥は、南京の新国民政府に恭順の意を示した。

日本は長きに渡って続いた支那事変を、ようやく終結させる事ができたのであった。


南京の新国民政府は満州国同様、日本の傀儡であった。

つまり、満州含めた中国の大半が日本の傀儡国家となったのであった。


日本は新国民政府を支援し、共産党との戦いを共同で行っていくのであった。

もっとも、日本本土では大東亜共栄圏を支えるために、深刻な人手不足となっており、陸軍は多くの兵を復員させていった。


夜襲に特化した異能兵に関しては、陸軍が手放すはずもなく、ニューギニアへと送られていくのだった。

現在の異能兵は、即死しない限り欠損すら修復されるようになっており、ほぼ死なない軍隊となっていたのである。


回復魔法を使える者達も増え、元陸奥の軍医達を始め回復魔法を使える複数の医師が、高性能魔法大杖を用いる事で、四肢など大きな欠損すら修復させられるようになっていた。

新国民政府要人の治療も、手術と欠損修復の回復魔法の併用で完治させていた。


とはいえ、異能兵を除けば欠損修復の回復魔法を受けられる者は限られており、現在は要人や優秀な軍人の優先順位が高かった。

手足を失ったり失明した傷痍軍人の中で、光石を光らせていた者は、治療の優先順位が上がってもいた。もちろん治癒した後は軍に戻る事が条件だったが。


しかし、傷痍軍人はいずれは治療する予定であり、お国のために戦った臣民を国は決して見捨てない、という政治的宣伝もかねていた。

もちろん魔法で治したとは言わず、最新の医療技術により治したという事になっている。



一方ソロモン諸島では、1943年10月の第二次南太平洋海戦後も、連合国軍の補給を阻害し、艦船や航空機に損害を与え続けていた。

中でも活躍が目覚しかったのが、航空戦艦と航空巡洋艦であった。


搭載機の全てを夜戦仕様の水上偵察機瑞雲とした航空戦艦と航空巡洋艦は、補給を行う米駆逐艦などに襲い掛かっていた。

瑞雲搭乗員の内一人は魔法や技能を使える者が乗り、索敵や誘導を行う瑞雲には高性能な魔法杖が与えられていた。


日本海軍は、戦艦扶桑・山城の航空戦艦への改装や、2隻の重巡洋艦の航空巡洋艦への追加改装も行っており、1944年5月にはトラック島に進出させていた。

航空戦艦伊勢・日向・扶桑・山城と航空巡洋艦最上・鈴谷・熊野、利根型重巡洋艦利根・筑摩を中心とした艦隊が新たに編成されていた。


この艦隊は万能水上偵察機ともいえる瑞雲を、実に130機以上も搭載しており、制空権下で運用すれば大きな戦果を出すと期待された。

制空権下、つまり夜襲が考えられていた。


5月現在、日本の機動部隊主力はインド方面に展開しており、太平洋方面は小型空母が主な空母戦力であった。

米海軍によるソロモン諸島救援の作戦も近付いていると考えられ、戦艦陸奥が迎撃作戦に備えるためトラック島へ進出していた。



1944年5月下旬。大本営より、米機動部隊を中核とする米艦隊が、ウェーク島に大規模な砲爆撃を行う計画があるとして、連合艦隊に通話魔法で緊急連絡が入った。

これは情報分析から出てきた物ではなく、未来視の技能が視た物だった。


それは攻略作戦ではなく、いわば実戦訓練を兼ねた攻撃と思われた。

ウェーク島やマーシャル諸島は、これまでも米機動部隊に奇襲的に空襲されており、今回もその延長線上と考えられた。


おそらくは、再建した米艦隊の運用試験や訓練が主な目的とみられた。

そしてその後に、ソロモン諸島を救援する作戦が行われる予定だったのではと推測された。


ウェーク島攻撃の日時と来襲する方角は予知されているが、それは日本軍の行動次第で簡単に変わってしまう物でもあった。

できるだけ行動予定は変えず、迎撃作戦を練る必要があった。


日本海軍でウェーク島攻撃の報を聞き予定を変更しそうだったのは、やはりソロモン方面であった。

連合艦隊の参謀達は、ソロモン方面の作戦を変更し全力での迎撃を提案するも、それでは敵の行動が変わってしまう事が指摘され、ソロモン方面の作戦を維持しつつ迎撃する案が出された。


現在ソロモン方面で主に活動しているのは、潜水艦隊や水雷戦隊、そして航空戦艦と航空巡洋艦である。

トラック島で待機状態なのは、戦艦大和・武蔵・長門・金剛・榛名と小型空母数隻の艦隊。そして別枠として戦艦陸奥も米艦隊に備えていた。


結局、水雷戦隊と潜水艦隊が涙を飲んでソロモン方面での作戦を継続し、航空戦艦と航空巡洋艦の部隊が米艦隊迎撃に参加する事になった。


艦種だけに注目すれば、戦艦10隻と小型空母数隻、そして重巡洋艦を含む護衛艦隊が海戦に臨む形になり、大鑑巨砲主義に戻ったようにも見える。

しかし実態は、戦艦5隻、航空戦艦4隻、特殊戦艦1隻、航空巡洋艦3隻、利根型重巡洋艦2隻、数隻の小型空母と護衛艦艇多数という内容だった。


130機以上の瑞雲を運用するこの艦隊は、やはり夜襲を目論んでおり、夜襲艦隊と名付けられた。

夜襲艦隊は豊富な重油を活かし、迎撃作戦発動を待つ僅かな期間ではあったが、参加艦艇による訓練を行うのだった。


ちなみに、正規空母であり装甲空母である大鳳は、就役後に訓練も兼ねてインド方面の機動部隊に合流していた。

太平洋方面は小型空母ばかりであり、連合艦隊はそれで十分とも考えていた。





1944年6月。米機動部隊によるウェーク島空襲が行われた。

米艦隊はウェーク島北東に位置し、日本の夜襲艦隊は米艦隊の北西から米索敵機を避けつつ、徐々に接近していた。


米艦隊を偵察していた日本の潜水艦も、米艦隊を追跡してきており、攻撃の機会を伺っていた。


米戦艦部隊による艦砲射撃も行われ、ウェーク島に甚大な被害をもたらした。

空襲と艦砲射撃を終えた米艦隊は、ハワイへ帰還する進路を取った。


米艦隊がウェーク島からハワイへ帰還を始めた頃、日本海軍による攻撃が開始された。

まずは米艦隊を追跡していた複数の潜水艦による、散発的な雷撃から始まった。

戦果は大した事はなかったが、米艦隊を警戒させその歩みを遅くした。


次いで日没後、米艦隊輪形陣左翼のさらに外側を警戒している複数の駆逐艦に対し、瑞雲による攻撃が行われた。

単独航行している索敵の駆逐艦であり、瑞雲は複数で1隻の駆逐艦を狙い、急降下爆撃で250kg爆弾を投下し撃破していった。


左翼の索敵能力が下がった米機動部隊に対し、100機にものぼる瑞雲が攻撃を開始した。

瑞雲は、米機動部隊の電探を避けるため低空での接近を行い、奇襲的攻撃が成功したのであった。瑞雲による米機動部隊に対する夜襲は、輪形陣を崩す攻撃から始め、空母への急降下爆撃を成功させたのである。


米機動部隊も夜戦型艦上戦闘機F6Fを投入してきたが、投弾後の瑞雲がこれに対応し、暗視の技能で昼間同様に見えている瑞雲に適うはずもなく、瑞雲は水上機にもかかわらず夜戦型F6Fを撃墜していくのであった。


爆撃と制空戦闘に参加しなかった瑞雲は、照明弾を投下していった。

照明弾に照らされた米機動部隊には、小型空母から発艦した艦上攻撃機天山が襲い掛かった。


小型空母からの発艦は、徹底した探知魔法による対潜哨戒が行われた上で、照明を盛大に灯しながら行われた。


米機動部隊の艦艇は火災も起きており、照明弾の灯りも加わって、暗視の技能を持たない者にも空母が良く見える状況となっていた。

米空母に群がる天山は、夜間雷撃にもかかわらず魚雷を命中させていき、軽空母は撃沈し正規空母は中破または大破した。


当然、二次攻撃も行われ、米空母は全て撃沈したのであった。

この混乱に乗じる形で、日本の潜水艦による襲撃も行われ、戦艦を含む艦艇に雷撃を成功させていた。


そして遂に鉄砲屋の待ち望んだ、日本艦隊の追撃戦が始まった。

戦艦陸奥は単独行動を開始。金剛型戦艦2隻を中核とする高速艦隊は先行し、その他の戦艦部隊が後を追う形となった。


「第二次南太平洋海戦以来の大規模海戦で、長官達は張り切っているようだな」


「鉄砲屋や水雷屋の貴重な見せ場ですからね」


「陸奥は今回もお膳立てだな」


「はい。ミッドウェー島の制空権下まで逃げられたら、それ以上戦艦部隊が追撃するのは困難ですからね。程よく損傷させて米艦隊の速度を低下させる必要があります」


陸奥艦長と副長は、今回の接待に苦笑しつつ、お膳立ての詳細を練っていくのであった。


戦艦陸奥は米戦艦部隊に追いつき、複数の米戦艦に一方的に砲撃を命中させ、米戦艦の速度を低下させた段階で、米機動部隊の残存艦への追撃に移った。


「一方的に攻撃を加えたとはいえ、手間取りましたね」


「そうだな。いっそ水中弾を狙ってみた方が良かったかな?陸奥なら狙って水中弾を出せると思うのだが」


「…確かに。出せるでしょうね。しかし、今回の場合、斉射で水中弾を出してしまえば、速度低下どころか転覆させてしまいかねず、お膳立てにはなりませんでしたよ」


「そうだな。お膳立てでは使えんな。今後、戦艦の撃沈を狙う場合にのみ使うべきだな」


水中弾は、中距離砲撃で適切な角度で落下した砲弾が、水中を水平に進み魚雷のように命中るる物である。

通常は狙ってもなかなか出せる物ではないが、戦艦陸奥ならば可能だと思われた。



金剛型率いる高速艦隊が米戦艦部隊に接近し、米護衛艦隊との戦闘を開始した。

その後、戦艦大和率いる戦艦部隊がようやく米戦艦部隊に辿り付き、損傷している米戦艦に止めを刺していった。


ミッドウェー島からは爆撃機が飛来していたが、瑞雲や小型空母の零式艦上戦闘機が探知魔法によって誘導され、全て撃退に成功していた。


夜襲艦隊は、130機を越える水上偵察機瑞雲と、数隻の小型空母とはいえ機動部隊による夜襲を成功させ、追撃戦で米艦隊を撃滅した。

まさしく完全勝利を収めたのである。


米海軍は立て直しのため、当分の間は攻勢に出る事はないだろうと予想された。


日本は支那事変を解決し、大東亜共栄圏も安定し、もはやこれ以上連合国と戦争を行う理由はなくなっていた。

しかし、いくらこちらが戦争をやめたくても、相手が応じなければやめられない。


日本は講和を引き出すために、さらに戦い続ける事になるのだった。

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― 新着の感想 ―
陸奥から燃料を引っこ抜いて自動回復させて備蓄する卑怯な事を考えてしまった。
ちょっと気になるのですが、零式通常弾は使わないのですか?
三式弾使えば攻撃力マシマシになってる陸奥なら普通だったら偶然を期待する必要がある艦上観測機器破壊が簡単にできそう。 …両用砲位までなら丸ごと吹き飛ぶかもですが
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