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エピローグ 蛇足

 ある夏の日、連絡は唐突だった。「謝罪したい」そんな旨の書かれたメッセージで、誰から謝罪される覚えのない私は、むしろ謝罪するべき人で渋滞が出来そうだというのに。

 ただ、何かに流されるように都合よく日程は決まって、集合場所と時間が決まるのに片手で数えられるほどのメッセージで十分だった。

 久しぶりに出会った彼女は、開口一番謝罪ではなく「生きていたんですね」そう言って微笑んだ。「何とかね」家賃も何もかもがカツカツなのだ。最低限の文化的な生活を送れているとは言い難いかもしれない。けれどそれでも生きていた。

 それからとってつけたように彼女は言う。「あの時は御免なさい」何も考えてなかったんです。ただ怒りのまま。

 そう言えば頬を張られたななんて、ぼんやりと思い出す。「私も悪い」具体的にどうこうではなく、大抵の全てが。

 そう言うと、彼女は大きく笑った。記憶の中にあるどの景色の、何倍も明るい駅前の風景で、けれど私は何となく小さな不安を抱えていた。

「ねぇ」

 彼女が静かにそう切り出すとき、その先の言葉は簡単に予想できた。謝罪の為だけではなかったのだ。彼女の無理したような金髪も、不似合いなブランド物の鞄も、その不安定さは私が抱えているものときっと似ている。

「ちょっと喋ろうか」

 だから私は無理に遮って、その手を取った。彼女がどんな人生を辿ってきたのか私は知るはずもない。彼女の絶望が、何に由来しているのかやはり知れるはずもない。それはしょうがない事だった。

 ただ、彼女のしようとするはずの提案は、私が受け入れられないもので、それは呪われてしまっているのだから、祈られてしまったのだから。

 だから本当ならもっと早く塗りつぶさねばならないのだ。けれどそんな簡単に変われるはずもないから、私はひとまず煙草の吸えるカフェに彼女を誘う。

 メンソールのハイライトが彼女の小さな鞄から覗いていたのを見逃してはいない。

「煙草の吸える喫茶店、珍しいでしょ」

 そんな益体のない言葉を重ねながら、頭の中で何度も何度も唱えて見せる。そうでもしないと、きっと上手く喉から出てこない。

 一緒に死のうって言葉は、今でも簡単に出てくるはずなのに、一緒に生きようというのは、まだ私にとってそれこそ死ぬほど難しい。

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