妹は姉の婚約者を確認する
「あの……私からお願いがあります」
「何だ?」
コンコンコン
「あら、サイラス様、来ていたのですね。私ともお茶しましょ。さあ、行きましょ」
ミリムの婚約者サイラスの腕を掴みしがみ付くのはミリムの妹メアリーだ。そして、メアリーに誘われ満更でもない顔をするサイラス。
本日、婚約者のサイラスとのお茶の約束をしていだ。そこに突如現れたのは妹のメアリーだ。このような展開は今回が初めてではない。
「サイラス様、私の婚約者なのに妹と行くのですか?」
「え……あ……いや」
「わかりました。婚約者の私ではなく妹の方を優先するのであれば婚約を解消いたしましょう。いつも2人は私に隠れて会っていたのでしょう。ここで過ごせばいいのでは?私は退室しますので」
「お姉様……違うのよ」
「何が違うの?私の婚約者と何度も出掛けてるわよね。それに今日もこうやって私から婚約者を連れ去って行くわ。もう……うんざりなのよ。サイラス様だけではないわ。私から婚約者を奪うのは何人目?」
「いや……お姉様に相応しいか確認をね」
「確認?連れ込み宿に2人で入り、何の確認をするの?身体の相性でも確認してるの?」
「違う……のよ」
「何が違うのか知りたいわ。サイラス様の婚約者はいつから妹に変わったのかしら」
「いいのだメアリー。私は君ではなく妹のメアリーを愛している。解消は私の有責でかまわない。さあ、メアリー行くぞ」
サイラスはメアリーの手を取り退室したのだった。
その足で父のいる執務室へ向かうミリム。
「お父様、私をこの家から籍を抜いてください。もう妹とは関わりたくない」
「ミリム何を言ってるのだ。妹はお前を慕っているではないか」
「姉の為にと姉の婚約者と寝る事のどこが私を慕っている行為になるのか教えてください。お父様もメアリーがいればいいのでしょう」
「え?メアリーがミリムの婚約者と寝ている?どう言う事だ」
「何も知らないのね。そう言うと思ったわ。はい、これ今までの調査票よ」
バサリと父親の机に分厚い資料を載せ退室するミリムだった。
執務室から出たミリムに声をかけるのは妹のメアリーだ。
「お姉様待ってよ」
「何よ」
「誤解なのよ」
「貴方は人の婚約者と何度も2人で出掛けているのよ。何度も連れ込み宿に2人で入り、旅行までしているのに誤解?それにサイラス様は私に言ったわ。メアリーを愛していると」
「何故、私の婚約者が私の妹と2人で会う必要があるの?」
「お姉様、誤解よ。サイラス様は勝手に私の事を好きになったのよ」
「誤解だと言う意味がわからないわ。メアリーも婚約解消するの?いつもみたいに」
「アンドリュー様とは婚約を解消しないわ」
「そう、それなら私が姉としてアンドリュー様の事を確認しますわ」
「え?……そんなの浮気でしょ」
「あら、貴方も同じ事を今までしてたわね。それを貴方は誤解だと言っているわね。私も確認してもいいのでしょう?隅々まで」
「メアリー、急にいなくなるから探したよ」
サイラスはメアリーに近づく。
「サイラス様、お姉様は勘違いをしているの。私とサイラス様は何もない。ただ出掛けていただけよね」
「メアリー?私との事は遊びなのかい?何度も私を愛しているミリムよりも私を選んでと何度も私を求めてきたではないか」
「サイラス……誤解よ。私は、お姉様の為に会っていたのよ。お姉様、助けてよ」
「メアリー?何を言っているのだ?何度も私と情を交わしただろう。私の事を愛していると言ってたではないか」
「それでは、私はこれから大切な確認作業があるの」
「何よ、確認作業って」
声を掛ける男性は、メアリーの婚約者のアンドリューである。
「やあ、ミリム嬢。今日はよろしく頼む」
「はい、アンドリュー様、姉として見定めさせてもらいます」
「へ?アンドリュー様?どうしてココに?」
「以前からミリム嬢に提案されていてね。妹は自分の婚約者を確認と言い街歩きや2人きりになれる場所に行くようだと言われてね。せっかくなので私もメアリー嬢の姉のミリム嬢に確認してもらおうかと思ってね。だから誤解しないでね。2人で街歩きや旅行にも行くけど、まさか自分は散々姉の婚約者と出掛けておいて自分はダメだと言わないよね」
「さあ、アンドリュー様行きましょうか」
「あぁ、今日は初めての確認だからカフェでのんびりお茶を楽しもうか」
アンドリューの腕を取るミリムにアンドリューは驚く。
「あら、いつもメアリーはそうしてるわ」
「そうなのか、随分と私の婚約者は他の男性と距離が近いのだな」
「待って、アンドリュー様」
「メアリー嬢のお姉さんに確認してもらうだけだ。内緒にしないだけいいだろう。さぁ、ミリム嬢行きますよ」
その時、赤い顔で怒りを露わにして登場するのはミリムとメアリーの父親だ。
「おい、メアリー、一体何をしたのか説明してもらうから執務室へ来い。あとサイラスお前もだ」
街中のカフェで紅茶とケーキを楽しむ。
「アンドリュー様、今回は巻き込んでしまい申し訳ないですわ。美味しい紅茶とケーキを頂いたのでそろそろ解散いたしましょう」
「そうしようか、私達まで誤解されては困るからね」
2人は両隣りにいる執事と侍女を見て微笑む。
「はい、それでは」
「あぁ、次はミリム嬢が幸せに繋がる婚約者に巡り会える事を願ってます」
「アンドリュー様も」
その後は、ミリムとサイラス、メアリーとアンドリューは婚約を解消したのだった。
そしてミリムは2年後1人の文官と出会い恋をして結婚し3人の子を持つ母となったのでした。
「ミリム、君の人生は幸せだったかい?」
「えぇ、まさか新しい職場で貴方に会うとは思わなかったから」
「あぁ、僕も同じだよ」
「あの時、確認をして良かったわ。アンドリュー」
「あぁ。最初は妹の婚約者を確認するだなんて意味がわからなかったがね」
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