全てを吐き出して仕舞えば良い
だが未だ此の先が在る
もう夜明け前の一番冷える時間、此処に来てから随分時間が経ってるんだな、冷えて来た事をジャケットを羽織らせる理由と落ち着かせる時間にした。
「前に着た時にバックに入れた侭だから汚れてるかもだけど、寒いよりは良いよね?、風邪引かせちゃう訳には行かないからさ」
「ううん気にしないよ、良い匂いだね」
「ゴメン、俺が乗ってるバイクって排気ガスの匂いが服に着いちゃうんだよね」
「ううんホントに良い匂いがするの…」
ジャケットの襟元を両手で鼻元に寄せていた。
「そう言えば何であんな格好して来たの?、何を確かめたかったのかな?、其れとも俺を揶揄に来たの?」
「私にも判らない、多分私男の人を確かめたかったんだと思うの…」
顔は俯いた儘で呟く様に言葉が零れ始める、続きが在るから此処へ来る事に為ったんだ、今迄の話だって十分にショッキングな話だ、だが未だ此の先が在るだから此処に居るんだ。
「この間、会社で私を訪ねて来た人が居るって受付に呼ばれて、東京に知り合いは会社と取引先関係の人しか居ない、名前にも聞き覚えが無かったし仕事の関係の方だと待たせたら悪いから受付に行ってみたら知らない女の人、私の顔を見るなり『ナニふざけた事してくれるの!』って、いきなり大声で怒鳴ってきて…」
「行き成りですか?」
「そう何の事だか判らなくて、仕事で何か大変なミスをしたのかと思って何の事ですかって聞いたの、そうしたらね『人の男寝取って置いて何様の心算!』って行き成り殴られた、その場に居合わせた会社の人が止めにめに入って呉れたけど其の人受付で暴れ始めて場が収まらなくて…」
此処に来た時に或る程度の事は予想した、だが其れ以上の言葉が零れ続けてる、空は白み始めお互いの表情も見え始め、俺の眼に入るのは落胆の表情。
「騒ぎが大きくなったんで会社の誰かが警察の人を呼んだらしくて…」
そこで言葉が止まってしまう、この先は聞かなくても解ってるもう充分だ。
「大丈夫だから、もう何も言わなくて良い、無理しなくて良い!」
そう伝えたが彼女の思いが溢れ言葉が止らない。
「呼ばれた彼が来て『会社で何やってくれてんだお前等!、女なんて幾らでも居るんだ!、声を掛けると勝手にひょいひょい着いて来たんだろうが思い上がりやがって迷惑なんだよ!』って・・・」
「解った!、もう解かったから言わなくて良い!」
どう伝えても言葉が止まらない、思いが爆発して溢れる言葉が止まらない。
「其々に事情を聴くから警察署に行きましょうって警察に言われた時『遊びだよ!遊び!、な~ンで解んないかな~、飽きたら取り換えるだけの事だろ!、何かオカシイのか!』私とその女の人を見て言い捨てたの・・・」
世の中は景気が良くて、六本木、麻布や渋谷で夜中迄遊んで朝を迎えるそんな連中が溢れていた頃、アクセサリーを取り換える様に、男女が入れ替わってるのが良しの時代でしたね、底辺で過して居た俺みたいな者には関係の無い世界でしたが・・・。
<泣きながら来た夜に頬が赤く見えたのは見間違いでは無かったんだな…、この女性もその波に巻き込まれたんだ、如何してそんな糞が其れを望まぬ者に迄寄って来るんだ?>
「私の調書を執った刑事さんが教えて呉れたの、私達以外にも女の人が居る見たいだって、私今度も玩具にされたんだって・・・」
言い終えると号泣していたが俺は止めなかった。
「あたし生まれて来ちゃいけなかったの!、あたしは生きる価値も無いの!」
「んな訳有るか!、お前人が良すぎただけだ!、其処を付け入られただけだって!」
吐き出しちまえば良い、今此処で貯め込んだ全てを吐き出して仕舞えば良いんだと、内に仕舞い込んだ物が溢れて壊れて仕舞う位なら誰かに伝える事、それできっと心は楽に成る筈だと…。
「貴方は本当にそう思ってるの!、あたしただのお客でしょう!、どうしてそんな事を言えるのよ!」
悲しみが怒りに変わる、もう一息だ、コレを過ぎれば、吐き出し切れば…、きっと変われる…。
「だったら俺は此処に来なかった!、心配したから此処に来たんだ…、其れも信じて呉れないのか…」
「何で其れを信じれるって言えるのよ!、信じて玩具にされたのに…」
怒りが嗚咽に変わる、後は泣けるだけ泣けば良い…。
「俺を信じなくて良い、泣き止んで呉れる迄は此処に居て上げる、何時も疲れた顔でお店に来て心配してた、それが笑顔に代わった時に良い出会いが有ったんだと安心したんだよ、唯の店員なのにさ…」
「東京なら、誰もあたしを知らない処なら、やり直せるって思って来たのに、何で、何でなのよ…」
泣きながらしがみ付かれ、俺に出来るのは其の背を撫でて上げる事位…。
吐き出し切ったのか暫くして啜り泣きに変わった、もう自分の心の中だけで秘める事ではなくなった事で整理が出来たんではないかと俺は思う。
「落ち着いた?、嫌な事は全部吐き出せたのかな?」
「ありがとう、すっきりしました…」
小さく頷き答えてくれた。
もう直ぐ日が昇る、夜空は明るい朝にバトンを渡してる、明るく成った空の下でハッキリ見えた顔はまるで幼子の様な顔だった。
「御免なさい、あたし貴方を試したんです、真面目そうな人でも中身は同じなのかもって、男の人って身体が目当てで皆同じかもって・・・」
「なら、俺じゃなくっても良かったんじゃない?」
素直にそう思った。
「レジ打ってる時何時も真面目にお仕事してたでしょどのお客さんにも分け隔てなく、私が疲れた顔してると気遣ってくれた、良い事在った時はもっと元気も呉れたよ、お友達とオートバイの話してる時は子供の様な顔して笑ってたの、だから試したの違う人は居る筈って信じたかった…、ごめんなさい…」
陽が顔を出し照らされはっきり見えた顔、雲一つ無い今の空の様に晴れやかに変わっている、是で俺は此処に来た役目を無事果たせたのかな?、其れだと良いんだけど・・・。
「さ~て帰ろうか、今夜もバイトだし後はゆっくり寝たい!」
大きな欠伸が出た。
「そおね~でも途中で寝ていく?良いよあたし其れでも」
晴れやかに笑ってる。
「馬鹿かお前は!、俺たち付き合っても無いし彼氏彼女でも無いだろ!、そう言う事は其の時まで取って置け簡単にするもんじゃない、自分を大事にしないと同じ目に逢うぞ!」
そう伝える時は真剣な表情だった、何時もにも増して綺麗な顔をしていた事を俺は忘れない。
其の時の綺麗な顔を俺は忘れない




