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短編小説どもの眠り場

心儚人棄(じぼうじき)

作者: 那須茄子
掲載日:2024/06/17

 ――――また僕の退院日が長引いた。


 僕はこのまま一生、この白い箱に閉じ込められて、死ぬのかもしれない。  


 もう冗談事ではなく、差し迫った事実として今あるから。

 楽に笑えることもできなくなった。



 僕が変わってしまったのか。

 それとも、この病院という潔癖な世界が変わっているのか。  


 僕には確認のしようもなく、全く分からない。



 ただ一つ確かにあるのは。


 


 無。       




 吐き気がするほど、何もないということ。   



 毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。

 同じ繰り返しの中を彷徨っているだけ。  




 視界に入るものは、まるで塗り固めた粘土みたいに、色褪せず冷たい無機質だ。 



 



 「……それは僕の命も、だな」


 

 白が揺れる中を。

 僕はゆっくり歩を進め、下に広がる遠い世界を眺める。


 なにも異常がなく、なにも特別なことを望んでいなかったのなら今頃。

 あの世界で、十九歳を迎えていた。きっと、普通に家族とか友達に祝って貰えたはず。 



 だった。   

 らしい。



 嗚呼、嗚呼。



 シーツが揺れる。 

 心が揺れる。 

 命が揺れる。

 生命線が揺れた。 

 

 その一連が終わった頃。



 僕の道徳心が、崩れた。  


 瓦解した。




 生きるって、うるさい。 

 生きるって、動物的な叫び。

 

 ただの欠落した宇宙の暗闇だ。



 

 「殺したい」



 気付けば。 

 曲のフレーズを口ずさむみたいに、鳴いた。

 時々、僕は前世は鳥だったんじゃないかと思う。


 

 どうでもいいけど、誰か殺して、自由に死にたい。


 どうでもいいけど、誰か殺して、自分だけは助かりたい。


 どうでもいいけど、誰か殺して、その殺した死体に生まれ変わりたい。



 空。

 ちょうど、フェンスを背にして身体を落せば、病的なまでに清々しい青色が映った。


 青空。やけに、雲がない。それはどうしてだろう?


 

 別に今日じゃなくても良かった。

 別に昨日か明日でも良かった。


 


 特別。

 僕の頭の片隅にそれが浮かんだ。



  

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― 新着の感想 ―
[良い点] 好みのタイトルです。タイトルから、あらすじ、本文と読み進めて納得感がありました。  諦観、虚無感、寂寥感、“におわせる”ラスト、よきでありました。  [気になる点] 〉 ――――また僕…
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