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【完結】新・ダンジョン事変 ~追放された元荷物持ちの僕(俺)、美少女ダンジョン配信者を助けたことで真の力を取り戻す。そして英雄配信者に成り上がり、僕(俺)を追放して魔に堕ちた探索者PTを地獄に送る~  作者: ともボン
第三章   元荷物持ち、記憶を取り戻したことで覚醒する

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第二十六話  ここではない別世界の光景 ③ 

 ふと気がつくと、遠くのほうで無数の火花が散らされていた。


 同時に大気を鳴動させるほどの衝撃音が周囲に響き渡る。


 これは……


 僕は火花と衝撃音が発せられていた場所に空中を飛びながら移動すると、目の前に広がっている光景に唖然となった。


 今の僕は地上から遠く離れた上空にいる。


 それだけですぐに理解した。


 これはあのときの続きの光景だ。


〈武蔵野ダンジョン〉とは別な世界の上空。


 ケンと呼ばれた男がいる奇妙な世界。


「――――はっ!」


 それを確信したとき、僕は衝撃と火花の正体に気がついた。


 衝撃と火花の正体は自然現象ではなかった。


 先ほどから生じていた衝撃音と火花の正体は、上空で闘いを繰り広げている銀髪の男とケンだった。


 2人は信じられないスピードで空中を移動しながら、互いへ致命傷を与えるための攻撃を放っている。


 その中でケンは素手だった。


 ケンは黄金色の光をまといつつ、空中を泳ぐように移動して銀髪の男に遠くからパンチを放つ。


 そうするとケンのパンチからは黄金色の光弾が放出され、銀髪の男に向かって寸分の狂いもなく飛んでいく。


 しかし、黄金色の光弾は銀髪の男には当たらない。


 銀髪の男の周囲には青白い障壁が何重にも張られていて、光弾を何発撃ってもその障壁に衝突するなり霧散してしまう。


 そのときに火花に似た発光現象と衝撃音が発せられていたのだ。


「無駄だ、お前の攻撃など我には当たらない。どれだけ聖気弾を撃ち込もうと我の魔力障壁はビクともせん」


 銀髪の男は障壁の奥でほくそ笑む。


 そんな銀髪の男に対して、ケンは微塵も臆さずに強く言い放つ。


「ならば一点集中させるのみ!」


 ケンの雰囲気と行動が変わった。


 今まである程度の距離を取って光弾を放っていたケンは、見えない足場を蹴って銀髪の男の近距離まで間合いを詰めたのである。


「オオオオオオオオオオオオオ――――ッ!」


 そしてケンは猛々しい雄叫びとともにパンチを繰り出した。


 光弾を放つためではなく、障壁に向かって直接パンチを打ち始める。


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ!


 高速で打ち込まれるケンの打撃。


 それは残像が見えるほどのパンチの連打だった。


 僕は食い入るように2人の闘いを見つめる。


 この2人がどれぐらい闘っているのかはわからない。


 だが、どうやらケンの攻撃は無駄になっていないようだ。


 その証拠に銀髪の男の表情が苦々しくなっていく。


 開いた両手を前方に突き出し、必死にケンの攻撃に耐えるよう障壁を維持しているように見える。


 ビキ。


 僕はハッとした。


 遠巻きに2人の闘いを見ていたのだが、その途中に何かが割れ始める音が聞こえたのだ。


 ビキビキビキビキ。


 障壁だった。


 ケンの猛攻によって表面の障壁に1本の亀裂が入り、やがてその1本の亀裂が2本3本となって障壁全体に無数の亀裂が走っていく。


「おのれええええええええ」


 銀髪の男は激しく動揺しながら叫んだ。


 何重にも張った障壁が数秒ごとに1つずつ打ち砕かれ、あと10秒も経たないうちに銀髪の男の肉体にケンの攻撃が到達するだろう。


 一方のケンは攻撃する手を一切休めず、それどころか攻撃している手のスピードをさらに上げていく。


 僕はその光景を見てハッとした。


 ケンの放とうとした技の名前が、なぜか脳裏に浮かんだのである。


 その技名は――


「〈聖光・百裂拳(ひゃくれつけん)〉や!」


 と、僕ではない誰かが技名を大声で口にした。


 直後、僕は周囲を見回す。


 まさか、ここに僕たち以外の誰かがいるのだろうか。


 けれども、この上空にはケンと銀髪の男と僕しかいない。


 ケンと銀髪の男は断じて違う。


 当たり前だ。


 あの2人は死闘の真っ最中であり、技名を叫んでいる余裕など欠片もない。


 ちなみに僕も技名は叫んでいなかった。


 しかし、確実に僕たち以外の第三者が技名を叫んだ。


 それも僕のかなり近い距離で。


 などと思ったあと、僕の身体は後方へと大きく吹き飛ばされた。


 前方から突風にあおられたようにである。


「え?」


 僕は吹き飛ばされながら、今まで僕がいた場所を見てギョッとした。


 今まで僕がいた場所に小さな光が浮かんでいたのだ。


 僕は両目に意識を集中させた。


 すると僕の目に小さな光の正体が鮮明に飛び込んでくる。


 後ろ姿だったが、光の中に4枚の透明な羽を生やした少女の姿が見えた。


 いや、あれは少女の姿をした妖精。


「ケン、このエリーちゃんが応援してるんや! そんな魔王ニーズヘッドなんぞいてもーたれ! 」


 不思議な力でどんどん3人から離れていく僕の肉体。


 その中で僕は確かに見た。


 ケンの高速拳打が青白い障壁をすべて粉々に粉砕し、そのまま銀髪の男の肉体に浴びせられる姿を。


 そして――。


 僕の意識はふっと搔き消えた。




 そんな俺の意識が再び戻ったとき、驚くよりも「またか」と思った。


 ゆっくりと目蓋を開くと、案の定というか目の前の光景が変わっている。


 心まで暗くなるような曇天も、激しい無数の稲光も、荒涼とした不毛の大地も、当然ながら地上から何百メートルも離れた上空でもない。


 ダンジョンのある日本に戻ってきたのだ。


 事実、俺はどうやらベッドに寝かされていたらしく、完全に意識が覚醒した視界には真っ白い清潔感のある天井が見えた。


 ここは協会内の医務室か。


 以前にもここで起きたので、周囲を見回さないでも肌感覚でわかる。


 それに薬品のつんとする匂いも漂っているので、ほぼ間違いはないだろう。


 俺はホッとして全身の力を抜いた。


 そのときである。


「お~い、目が覚めたか」


 どこからか声をかけられた。


 男の声ではなく、少し力強い女性の声だ。


 俺は以前と同じ状況を思い出す。


 確かあのときも俺は目覚めたあとに声をかけられた。


 その相手はちゃんと覚えている。


 俺は脳裏に成瀬さんの顔を浮かべ、上半身をゆっくりと起こした。


「おお、目覚めてたな。よかったわ。急に気を失うもんやからビックリしたんやで」


 …………ん?


 俺は両目を見開き、声がしたほうに顔だけを向けた。


 声をかけてきた相手は成瀬さんじゃなく別だった。


 成瀬さんは今のような言葉遣いをする人ではない。


 顔を向けたことで俺は声の主をはっきりと視認した。


 俺の目線の先にいたのは、器用に4枚の羽根を動かして空中に浮かんでいる少女の妖精。


「お、お前は一体――」


 誰なんだ、と言葉を続けようとしたときだ。


 ズキン、と顔をしかめるほどの頭痛が起こった。


 それだけではない。


 鈍器で殴られたような頭部の奥から、今までの俺にはなかった様々な記憶がよみがえってくる。


 ――ガストラル大陸


 ――妖精郷


 ――クレスト聖教会


 ――大拳聖


 ――聖気練武


 ――魔法


 ――ケン・ジーク・ブラフマン


 ――魔王ニーズヘッド


 そして目の前に浮かんでいる妖精の名前は……


「え、エリー……お前の名前はエリーだ」


 次の瞬間、少女の妖精であるエリーはパッと表情を明らめた。


 そして俺の鼻先へと飛んでくる。


「やっぱり、ケンやったんやな!」


 少女の妖精――エリーは俺の目の前でくるくると回転して喜び始めた。


 エリーのこの動きも覚えている。


 いや、覚えているというよりは思い出した。


 妖精郷で仲間になったエリーの昔からの癖だ。


 やがて回転を止めたエリーは俺にたずねてくる。


「でも何でや? 何でケンはそない若返っとんねん? 魔王ニーズヘッドを倒したときが28歳ぐらいやから、10歳以上は若返ってもうてるやん」


 そう言われても俺は何も答えられなかった。


 なぜなら、俺が記憶を取り戻したのはほんの今なのだから。


 そして思い出した記憶はすべてではない。


 断片的なことは思い出したが、まだまだ肝心な部分の記憶は欠落したままだった。


 たとえば俺が10歳以上も若返っている理由や、どうしてアースガルドから()()()()()()()()()()にある日本にやってきたのか。


 それらの重要な部分の記憶は曖昧なままである。


「拳児くん、気がついたのね!」


 困惑していると、出入り口の扉が開いて成瀬さんが部屋に飛び込んできた。


 その絶妙なタイミングを見て俺はようやく気がついた。


 この医務室にはどこかに監視カメラが設置されているのだろう。


 その監視カメラを通して俺が意識を取り戻したことを知った成瀬さんは、こうして前のときのように医務室に現れた。


 マズイな。


 成瀬さんを視認した直後、俺は眼前のエリーと成瀬さんを交互に見やった。


 このままではエリーの姿を成瀬さんが見てしまう。


 そうなれば一大事だ。


 この地球には妖精という種族は存在していない。


 なのにここには妖精族のエリーが存在しているのだ。


 もしかすると、珍しい生き物として捕らえられてしまう可能性だってある。


「待ってくれ、成瀬さん。こいつは違うんだ。その、妖精ではなくて……ああ、何て説明したらいんだ。とにかく、冷静になって俺の言うことを聞いてくれ」


 必死にエリーのことを誤魔化そうとした俺に対して、歩み寄ってきた成瀬さんは小首をかしげた。


「妖精? 拳児くん、君は何を言ってるの? 妖精なんてどこにもいないわよ。それにどうして急に大人びた口調になってるの?」

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