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第一話    突然のクビからの追放宣言

「おい、拳児(けんじ)。お前は今日限りクビだ。荷物を置いてさっさと俺たちの前から消え失せろ」


 僕は息を荒げながら、屠殺場の家畜を見るような目をしていた現リーダーに顔を向ける。


 C級探索者パーティーの1つである、【疾風迅雷】の現リーダーの草薙数馬(くさなぎ・かずま)さんの顔をだ。


「ちょっ、ちょっと待ってください」


 僕は顔を蒼白に染めつつ、しどろもどろのまま口を開いた。


「いきなりクビなんて意味がわかりません。それでもクビだと言うのなら、どういうことか説明してくれませんか?」


 僕と同じ黒髪をしていた数馬さんは「チッ」と忌々し気に舌打ちする。


「どうもこうもねえ。周りを見てみろ。俺たちの周りには何がある?」


 僕はキョトンとしたが、言われたとおりに周囲を見回した。


 あらためて確認するまでもない。


 僕たちは草原エリアの一角にいて、そこら辺には魔物の死体が転がっていた。


 低級魔物に認定されている人間の子供サイズのゴブリン十数体と、そのゴブリンの死体に交じって一体だけ巨人と見間違うほどの大きな死体がある。


 豚の顔に、筋肉と脂肪で構成された樽のような肉体。


 身長は約3メートルはある。


 ここら辺ではイレギュラーほどではないが、探索者の間でも危険視されていたオーク・エンペラーの死体だ。


 では、そのゴブリンたちやオーク・エンペラーは僕が倒したのか?


 もちろん、違う。


 ゴブリンやオーク・エンペラーを倒したのは、僕の目の前で仁王立ちしている数馬さんを筆頭にした他のメンバーたちだ。


「きゃははは、おっかしー。こいつ、豆が鳩鉄砲を食らったような顔をしてるよ」


 そう言ったのは、数馬さんの腕に恋人のように腕を絡ませている女性――辻原美咲(つじはら・みさき)さんだ。


 金色に染めた髪に、わざわざ迷宮街の店で日焼けした小麦色の肌。


 顔はかなり整っていて、探索中も暇があればメイクを欠かさないギャルという部類の女性らしい。


「美咲、豆が鳩鉄砲を食らったなどという日本語は変だ。そこは鳩鉄砲が豆を食らった、というのが一般的に正しいんだぞ」


 美咲さんに野太い声で注意したのは、探索中にも暇があれば筋トレをしている秋葉正嗣(あきば・まさつぐ)さんであった。


 正嗣さんは2メートル近い身長に、肩や胸が衣服の上からでも膨らんでいる筋骨隆々としたゴツい肉体。


 綺麗に刈り上げられた短髪に、糸のように細い目をしている。


 そして数馬さんと正嗣さんは、迷彩柄のシャツとズボンの上から耐衝撃と防刃加工が施されたベストを着ている。


 一方の僕はベストの着用こそ許されていなかったが、他の衣服は数馬さんと正嗣さんと同じ迷彩柄の戦闘服だ。


 これは一般的なダンジョン探索者の標準装備で、地上世界の陸上自衛隊という武装集団の戦闘服をモデルにしているらしい。


 だが女性である美咲さんは少し違う。


 美咲さんも迷彩柄の戦闘服とベストを着ていたが、女性探索者にはわりと多いスパッツの上からスカートを穿いている。


 そんな数馬さんたちは僕よりも4、5歳ほど年上の20歳のC級探索者である。


 特に数馬さんは1ヶ月前に事故死した前リーダーの跡を継いで、【疾風迅雷】の新たなリーダーとなったダンジョン協会でも将来を有望視されている若き逸材だという。


「うるせえぞ、お前ら。それにどっちも間違ってんだよ。正しくは鳩が豆鉄砲を食らった、だ……いや、今はそんなことどうでもいい。おい、拳児。お前は俺たちC級探索者パーティー【疾風迅雷】の一員だよな?」


「そ、そうです」


「じゃあ、お前の仕事は何だ?」


 何か試されているのだろうか。


 僕はしばらく熟考したが、、どれだけ考えても正確な答えがわからなかった。


 なので僕は「に、荷物持ちです」とおそるおそる正直に答えた。

 

 そうである。


 僕はダンジョン協会から正式なライセンスを得て活動している探索者たちとは違い、日本国籍がなくてもダンジョン内で仕事ができる非戦闘員の荷物持ちだった。


「そうだ。お前は非戦闘員の荷物持ち。魔物との戦闘には参加しなくていいが、その代わり命を賭けて荷物を守らないといけねえ」


 僕はハッとししてすぐに荷物を確認する。


 もしやダンジョン探索の生命線である荷物の1つに何かあったのだろうか。


 そう思って慌てて確認したが、どの荷物にも破損した個所は見当たらず、大事な食料や水を落としたりして台無しにした痕跡もない。


「数馬さん、荷物はすべて無事ですよ」


「ああ、そうだな。荷物は無事なようだ」


「じゃあ、僕がクビになる理由はないですよね?」


「いや、ある」


 数馬さんは素っ気ない態度で言った。


「俺はオーク・エンペラーを倒した。このことから俺はダンジョン協会に力を認められ、B級に昇格することができるだろう。なあ、拳児。前リーダーだった亮二から聞いて知ってるよな。B級に昇格した探索者には協会からどんな権利が与えられるんだっけ?」


「え~と……ダンジョン内の配信活動ですか?」


 これは前リーダーの亮二さんに聞いたことだ。


 ダンジョン内の探索を許可された探索者たちは、その実力や協会への貢献度によってクラス分けをされている。


 最底辺のE級から始まり、最高ランクのS級までの6階級という具合にだ。


 その中でB級まで昇格した探索者たちには、ダンジョン協会からダンジョン内の活動を配信できる許可を与えられるらしい。


 専用のカメラも与えられ、インターネットという僕にはよくわからないものを利用してダンジョン内や地上にいる人間たちに自分たちの行動を見せるというのだ。


「へえ、覚えていたのか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()にしては上出来だ」


 数馬さんの言葉に僕の目眉がぴくりと動く。


 僕は自分に対する記憶がほとんどなかった。


 数ヶ月前、僕はダンジョン内で倒れているところを【疾風迅雷】のパーティーに助けてもらった。


 と言っても助けてくれたのは、前リーダーだった亮二さんだったというのは後で探索者斡旋所の職員さんたちから聞いたことだけれども。


 とにかく亮二さんに助けてもらった僕には、肝心の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。


 僕の名前である「拳児」というのも本名かどうかすら怪しい。


 亮二さんが僕を助けたとき、気を失いながらも僕は「ケン……ジ……ケン……ジ」とうわ言をつぶやいていたから、まったく身元がわからない僕のことをケンジ――拳児と呼び始めてくれたのがキッカケだった。


 懐かしい名前が出たことで、僕はその人のことをふと思い出す。


 君河亮二(きみかわ・りょうじ)さん。


 この武蔵野ダンジョンと呼ばれる地下世界で目覚めてから、心の底から僕に良くしてくれた大恩人のことを。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


読んでみて「面白そう!」「続きがきになる!」と思っていただけましたら、ブックマークや広告の下にある★★★★★の評価を入れていただけますと嬉しいです!


どうか応援のほど宜しくお願い致します。

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