5.歯痒さ
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病院に搬送された僕が突きつけられた現実は、あまりにも残酷なものだった。
ルミが運ばれたのはICU——つまり、集中治療室だった。
自分も医学を学んでいる者なので、それが何を意味するのか分からないわけではない。
でもまさか、ルミの身体の状況がそこまで悪いとは知らず、呆気にとられたまま部屋の外に閉め出されてしまった。
「ハーマス公爵。申し訳ございませんが、今日のところはお引き取り願えませんか?」
治療室の前に立ちはだかる医者が、気まずそうに僕に頭を下げる。
僕は、いまだ現実が飲み込めずに、「どうしてですか? ルミはどうなるんですか?」と彼に詰め寄っていた。
「彼女のプライバシーに関わることですので、たとえ公爵にでも詳しいことは申し上げられません。ですが、一つ言えるのは、彼女が今危険な状況にあるということです。彼女の症状が落ち着くまで、面会できるのはご家族の方のみとなります」
「そんな……」
ここまではっきりと、公爵の自分に物申す医者を見れば、ルミが本当に大変な状況にあることは簡単に理解できた。それに、医者に聞かずとも、集中治療室に運ばれた彼女が面会謝絶となるのは頭では分かっていたはずだ。ここで僕が食い下がれば、ルミの治療が遅れて取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。それだけはなんとしてでも避けなければいけなかった。
「……分かりました。今日のところは帰ります。その代わり、彼女の無事が確保されたら、僕に連絡をいただけませんか?」
本当は、王族の自分が個人的に誰かに連絡先を渡すなど、あってはならないことだ。でも今は、ルミのことが何より心配だった。ルミの置かれている状況を知るには、この医者に縋るしかない。
医者は僕が差し出した連絡先を受け取るのを散々渋ったあと、ゆっくりと頷きながらその手を差し出した。僕は彼にしっかりと連絡先を書いた紙を握らせる。
「どうか彼女を、よろしくお願いします」
自分はまだ、医学を学んでいる最中の身だ。
彼女のことを本当の意味で救うことはできない。それが歯痒くて、あまりにも悔しい。医者に頼らなければいけない自分が不甲斐なくて、何度も唇を噛んだ。