庭園にて
秋晴れの空に群れを成した鳥が颯爽と飛び抜ける。渡り鳥だろうか。写真を撮りたいと思うけれど、大学にカメラなど持ってきてはいないので諦めた。もっとも、カメラなんてまだ趣味でやっていることがバレたら、また父親から「みみっちい遊びばかり好みやがって」と罵倒されるに違いない。「お前は、いつも言っているが王位継承者としての自覚が足りん!」と叫ぶ父の金切り声は、もう一度だって聞きたくなかった。
大学の庭園に、一人の少女が佇んでいるのを目にしたのは、そんなろくでもない想像で気分が悪くなっていた時だ。
ブロンズの髪の毛を風に靡かせて、捨て置かれた子猫のように不安げな瞳を潤ませている。あたりをキョロキョロと見回して、驚きに目を見開いたり、あっと手で口を塞いだり。とにかく挙動不審で、見ていてこちらが心配になるぐらいだった。
誰も、彼女の存在に気づかないのか、声をかける者はいない。
僕は彼女のように咄嗟に周りを見て誰にも見られていないことを確認すると、彼女の方へと歩みを進めた。
「あの、大丈夫ですか?」
そう声をかけると、ブロンズの髪の毛がくるりと回転して僕の目の前に少女の顔が現れた。ぱっちりとした二重瞼が特徴的で、瞳はターコイズブルーに染まっている。その煌めく水面のような美しさに、僕は思わず息を呑んだ。
「あ、えっと、すみません! なんだか頭がくらくらして……」
彼女の高く澄んだ声が庭園に響き渡ったかと思うと、次の瞬間、彼女の身体ごと地面へと崩れ落ちた。
「え、え!? だ、大丈夫!?」
慌てて彼女の身体を抱えて叫ぶ僕。
これは、一体どういうこと!?
とにかく医務室に行かなければ——混乱する頭をどうにか動かしつつ、意識を失った彼女の身体から漂う異国の地の花の香りに、すっかり心奪われてしまっていた。