7.ランチタイム
「でね、でね、るりちゃんったらおかしいんだよ。何もないところでつまづくだけならいいんだけど、そのまま植え込みに突っ込んじゃうんだもん」
とりあえず口に物を入れながら話すのはやめてほしい。黙って昼食もとれないのかね、美央は。
「うう、みおちゃんひどいよ~言わないって約束したのに」
俺と向かっている、美央の隣にいるもう一人が、猫のように両手を丸めて美央を叩いている。
この子は美央の同級生の鴨紅るり(かもくるり)。美央の大親友らしい。あくまで美央が言っているだけではあるが、時々鴨紅さんは家に遊びにくるので、大きく間違ってはいないのだろう。
「ごめんごめん、言っちゃった!」
これだけで済まそうとする美央もすごいものだ。
「むー。今度からは気をつけてね?」
それで納得してしまう鴨紅さんも、人ができているというか、ただ単に学習していないだけなのか。
今までこんな感じのやりとりを何度か見てきた気がするぞ。
「おにいちゃんと違って素直でるりちゃんかわいー」
「はうう……そんなことないってばぁ……」
俺が素直じゃないという言い方をされていることに対しては何もフォローがないのか。
「フォローなんて期待しないでね。おにいちゃんは素直じゃないよ」
「どうして考えていることがわかった」
「愛の力はすごいんだよ?」
分かったようなことを。腹が立つので反抗してみる。
「片方向にしか行かない愛なんて本当の愛じゃないね」
「片想いの人に怒られるよ?」
「美央が自覚してないんじゃどうしようもないな」
「え、あの過激なくらいの愛情を毎日注いでくれてるのにそんなこと言うの? 今日の朝起きた時だってわたしに急に迫って……」
こいつは教室のど真ん中でなんてことを。しかもここが美央自身のクラスの中だってこと知っててその発言が出るのか。
とりあえずこのまま暴走させておくわけにはいかないので俺は美央の口を手でふさぐ。
「おにいちゃんの手のひらにキッスー」
だめだ、もう何をやっても美央を止めることはできないらしい。本当に手のひらに生暖かい感触があったりとかして、背筋が寒くなる。
「ちょっと、鴨紅さん見てないで助けてよ」
そうして助けを求めても、鴨紅さんは鴨紅さんで下を向いて頬を赤く染めていたりする。
何その『そんなことしてるんですね』的な反応。具体的なことを言ってもいないのに。言いかけられてはいるが。
「あ、あのさ鴨紅さん? 美央の言うことなんてでたらめなんだからね?」
一部結果的に合っているところがあったりするのが困るが、美央が誘導しようとしている関係では断じてない。
俺が否定しても、鴨紅さんは黙ったまま。
ああ、もうどうすればいいのやら。