40.ダブルアタック?
ベッドに寝ている俺に、鴨紅さんが倒れかかってくる。
手を鳥の羽のように上下に振って重力の流れに逆らおうとしている鴨紅さんをただ見ることしかできず、その抵抗に限界が来たとき、俺の視界は真っ暗になった。
えっと、これは、まさか。
とにかく何も見えないので全身を動かしてみる。
「んあっ……お兄さん、あの、顔動かないでください……っ」
顔と顔という大事故は起こっていない。
その代わり、俺の顔には二つの谷間にやわらかく包まれる感触があり。
「か、鴨紅さん! は、早くそこからよけて!」
「く、くすぐったいですっ……や、やっ……!」
俺の声はどうやら鴨紅さんの胸の中で反響してしまっていて聞こえていないらしい。むしろ俺が余計なアクションを起こしているおかげで、鴨紅さんがくすぐったがって身をよじったりする。
そのたびに、俺の顔に香水とは違った、言い表せないけれど引きつけられそうになる不思議な香りとともに、ほどよく弾くやわらかさを感じる。
まったくもって、悪循環と言わざるを得ない。いや、それとも俺にとっては良い状況なのか?
いや、そんなことは言っていられなかった。このままでは息が苦しくて仕方ない。しかし、かといってどうすることもできない。
結局、鴨紅さんが気づいてよけてくれるまで俺は動くこともできず、ただその感触を楽し……いや、受け続けなければならなかった。
「ご、ごめんなさい、お兄さん」
「いや、へ、平気だから」
「おにいちゃん……顔赤い」
さすがに自分のやったことがわかっているのか恥ずかしがっている鴨紅さんと、どんな顔しているのか見るのも怖い俺と、そして美央は俺に対して明らかに不機嫌そうに、低く震えた声を出している。
「いや、これは俺は悪くないだろう」
「るりちゃんのふくらみがそんなにいいんだ……わたしのなんて興味も示さないのに」
「示したら示したで問題だろうが」
「み、みおちゃん、その話はもういいよぉ……」
「ダーイブっ!」
いきなりの宣言に、鴨紅さんがびっくりした表情ながらも少し横によけて、美央がその逆側をめざし俺に飛び込んでくる。
腹に一瞬息が止まりそうになる衝撃。いくらなんでも朝からこれはキツい。
「るりちゃんには、負けないもん」
いや、俺は朝から二人にのしかかれたこの場面で、こんなことを言われて、何をコメントしたらいいのだろう。
いきなりやってきたダブルアタックに、俺は先の心配をせずにはいられなかった。
ここで「シスターアタック」は完結とします。
もちろんこれでは中途半端な上に色々イベントを放っておきっぱなし。ということで、この後は次の舞台「ダブルアタック!」をスタートします。
わざわざ分けた理由は、後書きで書くには長くなりそうなので割愛。
ただ言えることとしては、更新間隔は開くかも。二月中の二話目の更新はできないかも。といったところです。
それでもお付き合い頂けるありがたい方、今後もよろしくお願いします。