39.そして新しい朝
「お兄さん、起きて、起きてください」
朝、俺は肩を揺さぶられる感覚で目が覚める。
幾度となく同じような起こされ方をされると体が慣れてくるもので、俺の頭も冴えてこない。
眠気の前では、今さら美央に部屋に入られることくらい、天秤にかけるまでもないことになってしまっている。当然、眠気の方が勝っていた。
ましてや休みの二日間は、美央に連れ回されたのだ。とにかく全身がベッドに張り付きそうなほど重かった。
美央が来ているということは午前七時なのだろう。しかし、何も七時ちょうどに起きなくても学校には間に合うのだ。朝食も抜けば、もっと寝ていられる。よい子は真似しちゃいけないよという、お決まりの注意書きがもれなくついてくるが。
「み、みおちゃん、全然起きないよ?」
「むー、きっと刺激が足りないんだよ。顔をパーンとしてみたらいいと思うよ?」
「ええっ、そ、そんなの無理だよ~」
会話を聞く限り、どうやらこの後危険な状況にさらされるらしい。さすがに危険だとわかっていてそのままでいられるほどマゾ体質ではない俺は、眠気と葛藤しながらも起きあがろうとした。
だが、しばしその動きを止める。
いや待て、そもそも俺の部屋で会話されてるってどういうことだ? 無意識下の俺が話をしていない限り、美央以外の誰かがこの部屋にいるとでもいうのか? そんな疑問が浮かんだからだ。
誰だかわからないが、今俺に乗っかっているのが美央ではないとしたら……?
美央だったらこのまま起きあがって転がっていってしまおうがかまわないが、他人だと何かと問題が起こる可能性があるよな。
そもそも俺の寝ている上に誰かが乗っていること自体変で、起きあがったら問題が起こるとか、そんなのそれ以前の話なのだろうけど、その時は寝起きでそこまで頭が回っていなかったらしい。変に気を遣ってしまった。
ゆっくりと、目を開ける。
目の前には美央以外の誰かが、右手をふりかぶって固まっていた。
「う、うう……みおちゃん、起きちゃったよ……」
聞き覚えのある声がはっきり聞こえた。
そして俺の頭もはっきりしてきたところで目に映ったのは、俺も見覚えのある顔だった。俺の人物データベースの顔と声が一致する。
「か、鴨紅さん? とりあえず、その手を下ろしてくれないかな?」
「ごめんなさいっ、あ、あわわっ!」
美央の親友である鴨紅さんがなぜここにいるのか? なぜ、美央の言われるままに俺をひっぱたこうとしているのか? そして最大の謎は、どうして俺の寝起きを襲っているのか?
そこまで思うのが限界で、手をひっこめようとしてバランスを崩した鴨紅さんを止める、または避ける、そんな時間は俺にはもうなかった。