4.母親も変なところ満載
「おはよー、お母さん」
「おはよう、美央。雄斗もついでにおはよう」
「俺は相変わらずついでなのか」
「当たり前じゃない、女の子の方が可愛いわよ、母親にとってはね」
まったく、はっきり言ってくれるよこの母親は。こんな扱いをしても俺がひねくれた子供になると思ってもいないのかね。
まあ、この母親も美央に劣らず変なところが満載だからな。今更かもしれない。
だいたい、美央が家だろうが外だろうが、端から見れば俺にいちゃついてきていることを知っているはずなのに口出しをしないのだ。
しかしある時、黙って俺と美央の母子手帳を差し出してきたことがある。
ああそうかい。俺と美央が血のつながった兄妹であることをちゃんと認識しろと。そういうことを言いたいんだな。
何も会話しなくとも意味が通じる。さすが仮にも親子と思いたいところではあるが、こんなことで通じるのも嫌なものだ。
そんなに不安だったら、ぜひ美央のこの行動を止めてくれよ。そう声を大にして言いたい。
「美央にはお母さんもかなわないわ、ふふふ」
タイミングよく、まるで俺の心の中を読んで返答しているかのようなことを言い出す。なるほど、美央がやっていることだから口出しできないということか。ただの会話の流れだというのになんだか納得する。
……ますます俺の孤立感が強くなってくるのが困る。
「美央はちゃんといい子にしてるから安心しても大丈夫だよ?」
うそつけ。俺にどれだけ迷惑かけてるんだよ。
母親もニコニコしているだけで何も言わない。間違いなくそのことは分かっているはずなのにひどいものだ。
「うんうん、美央は成績もいいし、先生からも明るくムードメーカーの役割をしてるって聞いてるわ。自慢の娘ね」
「やったあ! ねね、聞いたおにいちゃん? わたしってこんなにいい子なんだよ?」
そう言って俺に腕をからませてくる。
というかそれだよそれ。本当にいい子ならそんなことしないって。
母親の見て見ぬ振り、および突き刺す呪いのような気が送られてくるのを感じる。勘弁してほしい。
だったらいい加減そろそろ引きはがせよ。
「ふふ、美央にはかなわないわ」
結局それかよ。
早くに家を出ている父さん、聞こえますか。あなたがいない間、そろいもそろってこの人たち変なんです。