34.ジェットコースター前ベンチにて
短い間だったとは言え、人目につくところで普通では見られない人の抱え方をしていれば、少しは何か言われてしまうのも仕方ないとは思う。
困ったところで手を離すわけにもいかないし、周りの声は聞き流しながらひたすら目標のベンチへと一直線に向かう。
そのベンチに人がいなかったのは救いだった。
……いや、実際は既に男二人がいたんだけど、俺の状況を見て冷たい目で去っていったわけだが。
確実に誤解しているだろう。これはなんだ、いわゆる「帰り道は背後を気にしないといけない」ということなのか。そんな物騒な話は遠慮願いたいが。
美央は美央で俺に顔をうずめる形になっているし。少しは俺のピンチも知って欲しいものだ。
とにかく今は、目の前のベンチが空いている。その現実だけを見ていこう。決して未来を見て見ぬ振りしているわけではない。
妹をお姫様だっこという、見た目には派手なもののどこか悲しい現実を突きつけられているようなイベントにピリオド。美央をベンチに座らせて、さすがに軽いとはいえ全身に重りがついたような疲れを感じていた俺も、横に座った。
美央はまだ、うつむき加減になっている。
「まだ調子悪いのか」
「うん、そうかも。あ、でもこれって、お姫様だっこされた嬉しさでもっと酔っちゃったのかも」
「……本当に調子悪いんだよな?」
返してくる言葉からして全然調子悪いとは見えなくて、何度も確認してしまう。なにせ電車の中で寝たフリを決め込んだ前科を目の当たりにし、事実この耳で聞いているものだから、今回も演技なんじゃないかと疑うのは決しておかしくないと思う。
声に力が入っていないので、嘘ついているようには見えないけれど、そこまで周到に用意している可能性だってあるのではないか……そんな考えが止まらない。
「本当だってば……わたしがそんな嘘つくと思う?」
「思わざるを得ない」
「むー、はっきり言われちゃった……」
「まあ、とはいえ少なくとも調子いいみたいには見えないからな。ゆっくり休んでてくれ。俺は飲み物でも買ってくる」
「だめっ、ここにいてよー」
「なんでだよ」
「こんな弱っている女の子を一人にしたら、悪い虫が寄ってきちゃうかも……」
「自分から言う台詞じゃないぞそれ」
「あうあう……そんなにイヤなら、動けないようにしてやるもん」
何をするかと思えば、美央は俺の方に倒れ込み、俺の太ももに頭を乗せてくる。
「えへへ、これなら動けないよね?」
俺は天に向かってため息をつく。確かに下手には動けない。しかも更にお姫様だっこ以上の恥ずかしさのおまけつきだ。