31.美央の妄想力
「ああいう時は黙ってればかわいいのに、とか言うところだと思うんだけどなー」
遊園地の最寄り駅に着いて美央を起こし、遊園地へと向かっている途中に美央が文句を言ってくる。
「裏を返せば普段がかわいくないと自分で言ってるようなものだぞ。というか寝たフリするなよ」
「えー? でもちょっと嬉しかったくせにー」
美央を覗き込みながら体を揺らして起こした瞬間、一気に目が開いたのはさすがに驚いてしまった。
おそらくその動揺は美央にバレバレだったのだろう。というか美央はずっと起きていたわけだから、俺の電車内の挙動は全て把握されていたことになる。今もえへへ、と笑いながら俺を見ている。
「嬉しいなんて感情は断じてない」
「むー、ちょっとおにいちゃんおかしいんじゃないの? あっ、女の子を愛せない体になってしまったとか……だ、だめだよおにいちゃん! わたしが直してあげむぐっ」
「暴走はそれくらいにしてくれ」
最後まで言い切らせないうちに、俺は美央の口を手で塞ぐ。
それでもほぼ最後まで大声で言われたおかげで周りの注目を浴びて仕方ない。さすがに公衆の面前で妹を愛しているなんてカミングアウトできるほどの心は持ち合わせていないのだ。
あ、いや、心を持ち合わせていないもなにも、美央を愛してるとかなんの冗談だって話だ。そこは強調しておかなければならない。誰に言ってるわけでもないのだから、別にそこまで否定しなくてもいいんだろうけど。
「口を塞ぐついでにもう片方の手で抱き止めてくれればよかったのに……」
塞いだ手を外した瞬間にこんなことを言われては、もうお手上げだ。とことん周りの空気と俺の焦りとかをまったく読んでくれない。
「何その誘拐みたいな動作」
「あっ、それいいかもっ。みんなの前でお姫様をさらっていく、みたいな?」
「なんかその妄想力には感心するわ」
美央のそれは、想像力ではなくて、もはや妄想力と言っていいと思う。
「妄想じゃないよー。現実にするんだよ! というかなってほしいなー? わくわく」
「そんな現実はどこかに投げ捨てたいんだが」
「むー、やっぱりおにいちゃん、女の子を愛せない体に」
「いい加減にしてくれ」
以下ループでお送りします、という面倒な話には付き合わされたくない。俺はまた、美央の口を塞いだ。
「あう……ここまで前フリしておいたのに抱きかかえてくれない……」
何か言っているが、もう聞かないフリをすることにした。