30.電車の中で(下り)
昨日とは反対方向の電車に、ゆらり揺られ。
あまりの混雑度の違いに、ほっとする前に違和感だらけ。
そもそも遊園地へ向かう電車なのにこんなに空いていていいのだろうか? いくら祭りの方に取られているとはいえ、極端じゃないだろうか。
しかし、混雑する電車は物理的に体が押しつぶされそうになるが、見渡す限り十人と確認することができないのは、心が押しつぶされそうになる。
俺だけかもしれないが、なんというか息苦しい。ある程度混雑していれば気にもならないが、こうして見るとほぼ密室みたいなものだし、どうしても気になる。
もしかしたら、横にいる人物のせいなのかもしれないが。
「おい、こんなに空いてるんだから少しは離れてくれ」
美央が、俺の腕にくっついて座っているのだ。
俺が離れればいい、そう思うだろう。しかし美央に引っ張られて俺は七人掛け座席の左端に座らされ、さらに鍵をかけるかのごとく腕を絡ませてきているので動けない。
もしかしたらどころの話じゃなく、この押しつぶされそうなプレッシャーはこのせいだな。
さて、ここまで考えを巡らせても美央は一向に動こうとしない。
というか、俺の問いかけに一言も言葉を発してくれない。
「寝てるのかよ……」
顔を近づけて耳をすましてみると、規則正しい息づかいが聞こえてくる。近づきすぎたのかその息が俺の頬に当たる。くすぐられるような感覚にいたたまれなくなって顔を元に戻した。
普通、こういうのって帰る時のシチュエーションじゃないのか? 疲れきって自然となってしまう、みたいな。
……美央相手に何を考えてるんだろうな、俺は。
さて、ここは無理矢理にでも起こしておくべきか? ……いや、起こしたところでうるさく話しかけてくるだけのような予感がする。このまま寝かせておいた方が俺への負担は少なそうだ。
「まあ、寝てるのを起こすのもなんだしな」
一応そうつぶやいて、どうするべきか考えていた時にかかっていた肩の力を抜く。
一気に美央が俺に倒れかかって、頭が俺の肩に乗った。
一言で言うと、緊張はした。
いつものポニーテールの髪先が俺の背中をくすぐり、寝息はダイレクトに首筋にかかってくるし。
美央は寝ているのに放せる気がしない腕には、今まで気にもしていなかったふくらみが上下しているし。
肩に頭を乗せられても重みを感じることはなく、心地よくて俺まで寝そうになってしまうし。
まあ、別にドキドキするというわけではないんだけど。
「普段からうるさいの知ってるからな……今更だな」
普通は普段とのギャップに心動かされるものなんだろうけど、事実そう思ってしまうのだから仕方がなかった。